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国際金融制度改革の必要性7 ー 戦争から発展するデリバティブ

戦争ビジネスモデルの盛衰

湾岸戦争をきっかけとして、日本では集団的自衛権、そして安全保障の話が急速に盛り上がった。集団的自衛権の連鎖は、オーストリア皇太子殺害という事件をドミノ式に世界規模の大戦に拡大させてしまった第一次世界大戦を引き起こした理屈であり、冷戦終了後にまたぞろバランスオブパワーの世界を作り出し、小さなきっかけを元に世界紛争を作り出したいという懐古主義的な考えが広がっていたことを意味する。一方で、対テロ戦争では集団的自衛権はバンドワゴンの効果しか持たず、世界規模の戦争拡大という方向には作用しなかった。アフガン戦争の後にイラク戦争に突入せざるを得なかったのも、戦争が拡大しない中で先述の理屈によって悪の枢軸という形でソ連崩壊後の敵を設定しなければ、アメリカの軍、そして軍需産業自体が論理的に持たない、という背景があった。一方で、湾岸戦争で明らかになったことは、戦争を起こして武器を売り込んでもうけるというビジネスモデル自体、戦場となった国での復興が前提となり、その復興に資金を出し、回収するのは誰なのか、というブレトンウッズ会議のテーマになったことが、金融市場の変化によってその時間軸が大きく変わったことにより、金融にとっては全くペイしない、無駄なやり方に変わってきていたということだった。さっさと戦費負担させて、復興など放って置いて戦争を起こしては戦費のつけ回しをした方が手っ取り早いのでは、ということになったのだ。しかしながら、アフガン戦争やイラク戦争では、イラク戦争に於ける日本の債権放棄という物があったにせよ、結局基本的には戦費負担はアメリカ国内でなされたようで、その結果として、戦争に絡んだ様々な債権・債務が具体的には目に見えないような形で証券化され、アルゴリズムに基づいてデリバティブの中に織り込まれ、戦争リスクが細分化されて、それがテロリストの活発化につながったとも言えるのかも知れない。社会のちょっとした摩擦がデリバティブを通じて世界のどこかに増幅、濃縮され、テロのきっかけとなる、というような恐ろしい仕組が、金融技術の急速発展と、網の目のように張り巡らされた安全保障のネットワークによってできあがっているのだとも言える。

デリバティブの急速な発展

テロ事件後のこのデリバティブの発展についてみてみると、2000年代半ば辺りから自然災害の大規模化、そして恒常的な温暖化による気候の不安定化が起こり、グローバル化した食料品市場も価格乱高下にさらされるようになっていた。そしてエコ意識の高まりによる脱石油化はバイオ燃料への需要を高め、それが穀物価格を下支えする、ということにもなった。その帰結がどうなったかと言えば、これらの商品価格変動の増大に伴い、そのリスクヘッジの為に先物取引が急拡大していった。そして、IT技術の浸透に伴い、供給サイドでは複雑なリスク計算に基づいた高度な金融派生商品が次々と生み出され、一方需要サイドでもインターネットを通じて誰でも簡単にグローバル金融市場に参加することができるようになり、その裾野が大きく広がっていった。

サブプライムローンのデリバティブ化

そんな中で、サブプライムローンのデリバティブ化が起こってくる。サブプライムローンとは、アメリカの住宅ローンで、最優遇のプライムレートではなく、少し信用力の劣る人向けのサブプライムレートで貸付けを行うというものだ。信用力が劣るということで、貸し倒れリスクも高まるのだが、それをデリバティブとして、なるべくリスクを小分けにして市場で分散する、という手法がとられるようになった。それは、全体としての貸し倒れ率が低く、分散によってヘッジが効く間はよいのだが、市場環境が悪化して予想に反して貸し倒れが広がると、それが市場を通じて一気に拡散することになる。これまでの連鎖倒産というのは、直接の取引先の倒産に巻き込まれる形で次々と取引網に倒産の連鎖が起きるというものだったが、それがデリバティブで市場化されたことにより、市場内での連鎖的な損失拡大が起きるようになったのだ。

不条理な金融、シャドウバンキング

更に、デリバティブは、証拠金取引と呼ばれるものによって、最初に一定額の担保を差し入れればそれに基づいて売り買いをたてて元手の何倍にも亘って取引を拡大することができる。それによって、一旦損失が広がり出すと、証拠金ではカバーしきれない損失が市場内にあふれることになる。個人に限らず、ヘッジファンドや投資銀行に至るまで、金融資産を購入し、それを元手に担保借り入れや証券化による資金調達を行い、更に金融投資を拡大する、というレバレッジに基づいたシャドウバンキングの手法が広く行われるようになり、それがベア・スターンズ、そしてリーマン・ブラザーズと言った大手の投資銀行にも波及し、サブプライムローンの返済リスクが顕在化しリーマンショックが起きることになった。株式会社とは法的に有限責任が認められた仕組であり、株主はそもそもが出資金以上の責任を追及されることがない。そのような無責任な仕組の中で、リスクが不確定のデリバティブを用いレバレッジを大きく効かせてシャドウバンキングを行うというのは、モラルハザードなどという言葉で表されるものではない。それは、最初から責任が限定的なのをわかりつつ、更に市場で責任を希薄化させたデリバティブを用いて、相対的貧困層向けの返済義務から逃れにくいサブプライムローンによって利益を吸い上げるという、あまりにアンバランスな、そして生産性を伴わない、資本主義の悪い面だけを濃縮したような仕組であった。その何とも割り切れない話に更にたたみかけるように、”Too Big Too Fail”、大きすぎてつぶせない、ということでそんな負けのリスクを極端に少なくしたいかさまギャンブルのような行為を行っていたのにも関わらずそれでも支払いきれない借金を抱えた大手投資銀行だけが救済されるという不条理に対して、オキュパイ・ウォールストリートといった行動が起こったのだと言える。

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