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国際金融制度改革の必要5 ー 変動為替相場制のもたらしたもの

投機化する変動為替相場制

金融業界の利益の源としての為替相場確立の流れの延長として、まずは85年のプラザ合意によるドル安誘導、そして逆に92年のポンド危機を皮切りに、特に97年のアジア通貨危機ではアジア通貨が次々にヘッジファンドによって売り込まれて暴落するという、政治的為替変動が次々起こるようになった。それは実体経済とはほとんど関係がなく、思惑に大きく左右されていた上に、その対応としてIMFの貸付けの条件として厳しいコンディショナリティが課されるという、新たな、金融による、武力を使うこともない途上国の支配手法が生まれようとしていた。ヘッジファンドが、貿易を安定させる為に固定相場制を維持しようというアジア諸国のドルペッグ制に対して、ドル高に伴う通貨高によるファンダメンタルズなるものの相対的悪化という理由付けをして各国通貨を売り浴びせることによってそれを崩壊させようとしたのだった。アジア諸国の主要な輸出市場がアメリカである以上、ドルにペッグしていれば市場価格自体は変わらず、経済には影響をもたらさないはずで、それはアメリカ側がドル高にしても主要な輸入元であるアジア諸国との相場が変わらなければ物価が下がらないという事情からきているのだと言える。そしてそのドルペッグはプラザ合意での円高圧力を受けて、むしろ輸出国としてのアジア諸国が通貨切り下げをしているという非難を受けないが為に続けてきた面があるのにもかかわらず、本来的には通貨価値安定を目標としそれを守らなければ自らの存在価値すらも否定するような立場にあったIMFが、その責任を途上国に押しつけ、構造改革を迫る道具にするというのはどう考えても逆立ちしている。おかしいのはアジア諸国の経済構造ではなく、実需に基づかず政治的に変動する変動相場制なるものだったのだ。

変動相場制の原理的問題

これは、日本のアジア進出以前から構想されていたヴァイナー・ホワイト案が、アジアの情勢が変わったのにもかかわらず、その案を修正することもなくそのまま大国間の債権債務関係をベースにした考えで通ってしまったことに起因するのだと言える。IMFの仕組自体、多国間に於ける変動相場制というもの、特に発展状態の異なる通貨圏の間で変動相場を導入した時の社会的影響というものが全く考慮されていなかったのだ。そしてこのヘッジファンドの攻撃は、一番ターゲットになってもおかしくはなかった中国に対しては無力で、結局弱いものいじめにしか過ぎなかった。その後2000年代後半になってからは中国に対してはむしろ元の切り上げ圧力がかかり続けている。一方で、アメリカ自身は80年代に双子の赤字が拡大した時に、黒字国に対して構造改革を要求するというダブルスタンダードを行っている。途上国側としては、そのアメリカ、IMFのご都合主義的なやり方に不満を持っても当然のことであろう。クリントン政権でアメリカの強いドル政策を主導したのはゴールドマンサックスから政権入りした財務長官ロバート・ルービン、財務副長官は世界銀行の上級副総裁からの政権入りで途上国事情には当然詳しいはずのローレンス・サマーズであった。一方IMFの専務理事はこれまでの所一番長い期間その地位にあるフランス人ミシェル・カムドゥシュであった。

変動相場制がもたらした数々の厄災

実際の所、ヴァイナー・ホワイト案がどの程度先を見通していたか、というのは大変怪しいもので、ニクソンショック、変動相場制の導入によってアメリカ経済が良くなったか、といえば全くそんなことはなく、ドル安からインフレを昂進させて国内経済は停滞の度合いを深めていった。ニクソン・フォードの共和党政権は結局経済を回復させることができず、フォードはウォーターゲート事件によるニクソンの退陣による副大統領からの昇格で現職として大統領選に臨みながら敗れ、一度も選挙に勝つことのなかった大統領として名を残した。その後を襲った民主党カーター政権では、インフレに対して強い立場で望まざるを得なくなり、78年には輸出競争力があるわけでもないのにドル高介入と公定歩合の引き上げという荒療治を行い、カーターショックと呼ばれた。まさにこのカーターショックにより、ドル建て債務でインフラ整備など積極的な財政支出を行っていた中南米諸国が債務の金利上昇と通貨安で債務が名目上急拡大して債務危機が起こることになったのだ。そして続く共和党レーガン政権で経常、財政の双子の赤字に対処する為にドルの切り下げと共に他国の内需拡大を求めるというプラザ合意がなされ、それによって日本はバブルに突入し、ニューヨークのビル買収などによって摩擦が生じるという、アメリカ経済にとってもまさにパンドラの箱を開けたような大騒ぎになってしまったのだ。その現実から乖離した、誰も幸せにしなかったヴァイナー・ホワイト案の延長線上でどんどん技術革新を飲み込んでぶくぶく太っている国際金融の仕組自体に大きな問題がある以上、それを裏付ける理論を含め、国際金融の仕組、考え方を、一般の人が直感的に納得するような仕組にしないと、国際金融制度を“わかって”いるものがどんどん利益をかき集め、よくわからないがそれについて行く人はだまされ最終的にはカモにされ、わからなくて関わらない人は気づかずに搾取され続けるという地獄のような世界がずっと続くことになる。

テロにつながったかもしれない金融支配

アラブ系という犯人像とは直接結びつかないとはいえ、これらの金融を通じた支配拡大が次第に庶民の生活も蝕んでいるという感覚が、テロに至る一つの原因であったと推測することもできそうだ。前項で書いたような軍事的な介入主義と共に、ワシントンコンセンサスによる経済的介入主義があり、それらによって世界への支配を強めようとしているということへの反発が、ペンタゴン、そしてワシントンをターゲットとしたと見られるテロに現われているのだと考えて良いのではないか。

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