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天そば貧乏

夕飯の支度が億劫になり、近所のそば屋さんへ。
たまにはいいよね、と上天そばを頼んだのでした。

大きな海老が二尾、どーんと乗った立派なそばが、湯気を上げてやってきました。
嬉しい気持ちですすっていて、思い出したあれこれ。

以前住んでいたところの近くにも、おいしいと評判のそば屋がありました。
店構えはいたって普通ながら、食にうるさい有名人も来るという噂の、小さな店です。
初めて行ってみようということになり、まず驚いたのがその価格。
これはさぞや大きな天ぷらが来るに違いない、食べきれなかったらどうしようと、ささやき合ったものです。

杉浦日向子さんのマンガを読みつつ待っていて、出てきたそばを見てまたびっくり。
親指サイズの海老が、ちょこん。
そばはせいろのまんなかに、これまたかわいらしくちんまり飾ってあるのみです。
三回すすれば、もうおしまい。

ふと隣のテーブルにひとりで座るおじいさんを観察してみると、まずはじめに玉子。
冷酒を一合ちびちびやり、板わさなどをつついてから、天ぷらへ。
最後にそばをさらりと平らげると、勘定をして速やかに立ち去りました。

何か、決定的にまちがっていたのではないかしら。
わたしはお腹に物足りなさを感じながら、知らない世界がまだまだあるなあと思ったのでした。

話を元に戻し、先ほどの上天そばは予定より財布を軽くしてしまったため、帰りの買い物に細心の注意を払わなければなりませんでした。
天そば食べてお金がないなんて、情けないような、かえって豪気なような。
やはり侮れない、奥深いそばの世界なのです。


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