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苦手だけど好き


私は、どんなことでも苦手だと感じると嫌いだと思ってしまう。これはきっと私だけではなくて、多くの人が同じだと思う。

例えば、運動は疲れるし運動音痴だから苦手で嫌いだし、早起きはどうしても1度で起きれないから苦手で嫌いだし、料理は手際が悪くて時間がかかるから苦手で嫌いだ。


そんなふうに大体の苦手を嫌いで上書きしてしまう私だけれど、苦手だけど好きなことがいくつかある。そのうちの一つが接客だ。


「接客向いてないよね」なんてセリフは何度も言われてきたし、実際自分でも向いているタイプではないと思う。




大きな声で話すこと、ハキハキ話すこと、抑揚をつけて話すこと、高いトーンで話すこと、自分から話しかけにいくこと、これら全てを苦手だと感じるから、接客そのものに苦手意識がある。


それでも、高校生の時から約6年間、接客業を続けてきたのは、時々訪れる小さな「嬉しい」や「よかった」がどんどん積み重なって、「苦手」よりも「好き」が勝つのだと気づいたからだ。




もちろん最初はすごく苦痛だった。忙しい中業務をこなしながら不特定多数の人に愛想良く振る舞うのは、なかなかに難しくてかなりのストレスだった。



それでも、苦手で不器用なりに努力して、丁寧とか親切とか、そういうことを精一杯心がけて頑張った。そうしたら、だんだん返ってくる反応も温かいものが増えていった。


そして、心のこもった偽りのない「ありがとう」、「また来るね」、「頑張れ」、「お疲れ様」、そういう言葉を聞くたびに「好き」が募っていった。


何度も私に会いにきてくれる人、来るたびにたくさん話しかけてくれる人、プライベートでも良くしてくれる人。「いい人」の基準ははっきりとはわからないけれど、接客業を通して私にとっての「いい人」にたくさん出会うことができた。



温かい言葉をかけられるたびに、温かい人たちに出会うたびに、私は、接客が、人と関わる仕事が好きだと、感じることができる。


いまだに接客に対する苦手意識は消えないけれど、それでも好きだと思えることはなんだか嬉しくて、むず痒いけれど心地よくて、温かさで胸がいっぱいになる。





今日も、短期のアイドルのグッズ販売のアルバイトをしながら、温かい瞬間に出会った。


いつも通りできるだけ丁寧に商品の説明をしながら、ちょこっと推しの話をして、少しだけ盛り上がって、いろいろ買ってくれた2人組がいた。



そこからそれなりに仕事をして、もうすぐ退勤だな〜なんて考えながら立っていたら、2人組のお客さんがまた来てくれて、追加で何か買うのかな〜と思っていた。


そうしたら、真っ直ぐに私のところに来て、「これ、お姉さんにあげようと思って」と可愛くラッピングされたプレゼントを渡してきた。


私は驚きで数秒言葉が出なかった。何か特別なことしたっけと振り返ったけれど、特に何かした記憶はなかった。だから理由を聞いたら、「よくしてくれたので」と。なんだか感動してしまった。

そこからまた少しだけ話して、「お姉さんいつまでいますか?」なんて聞いてきてくれて、最後には「また会いに来ます」と言い残して帰って行った。



2人が帰ってから、私はしばらく固まってしまった。こんな私に、素晴らしい接客をしたわけでもないのに、言葉だけでなくプレゼントまでくれるなんて。しかも「また来ます」ではなく「また会いに来ます」と言ってもらえたことが何よりも嬉しかった。


私って幸せ者だな、なんて運が良いんだろう。そう思った。こんな瞬間に出会えることって、きっとそうそうない。



こういうなかなか訪れない特別な瞬間が最高に嬉しくて、幸せで、これこそが接客の魅力だと思う。私はその魅力にまんまとはまってしまった。



苦手だけど好き。悪くない。でも、もしかしたら、苦手だからこそ好きなのかもしれないな、と思った。苦手なりに精いっぱいやっていたからこそ、些細な喜びや幸せを人よりも大きく感じたのかもしれない。





何事においても、苦手意識はネガティブに捉えられがちだけれど、そんなに悪いものじゃないのかもしれない、と私は考える。苦手だからこそ見えるものや感じられるものがあって、それは多分すごく貴重なものだと思う。


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