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世の中にはなんら驚くべきことなどない

入管の性被害の意味

日本の出入国管理局(いわゆるイミグレ、入管)の施設における収容者への性暴力は1990年代にすでに報告されていたが、それが一昨年よりX(旧Twitter)にて下記のツイートにより再度拡散されている。

しかも現在よりも当時は在日外国人の数が絶対的に少なかったとはいえ、当時でさえこの告発とて「氷山の一角」でしかないと言われている。では日本へやってくる外国人の数が増え、それに彼ら/彼女らの出身地よりも性暴力の告発が困難な地域の出身者も多くそこに含まれている現在ではどうだろうか。その件数は言われなくても倍増しており、かつ泣き寝入りせざるを得ない人もより多くいるのではないか。

とはいえ、状況がどうにせよ、私としては「やっぱり」「想定内」という感想しか持てなかった。これはおそらくすでに関係者には広く知れ渡られているのかもしれないが、性暴力(凌辱)の目的は加害者の生理的欲求である性欲を満たすためだけではない。加害者が被害者を精神的にも肉体的にも屈服させ、社会的に価値なきものとして貶め、加害者が被害者よりも優位に立って被害者を思うがままにできる存在として君臨するためでもある。現在でも性的な事象が多くの社会では秘匿すべき存在として扱われることも加えて、性暴力が通常の暴力とは峻別されるのはこのためである。

そうなると、一昨年名古屋入管で死亡したウィシュマ・サンダマリさんが生前訴えた「ぶつける」も、実際は性暴力の暗喩とも見て取れるのではなかろうか。彼女の出身地であるスリランカを含め、多くの地域では-近年まで西洋や日本でもそうだったように、ないしはそれ以上に-我々の予想以上に性暴力の被害を訴えることのリスクの高さやその問題のセンシティブさが大いにあることは見落としてはならない。その極端な例では、被害者に対するhonour killing(crime d'honour ; 名誉殺人)も含む。特に近年では先の報告が行われた時代に比べ、中東や南アジア、アフリカ各地などそういった性暴力被害者に対するバックラッシュが日本よりもはるかに過激な地域の出身者が日本へやってきている。仮に加害者が誰であれ、その出身者が性暴力の被害に遭ったとしても、当事者は日本の公的機関に訴えれば職務質問や逮捕、最悪は国外追放などのリスクがあり、同胞に訴えればコミュニティの追放や上記の名誉殺人のような危害を加えられるリスクがあるとして、何をやろうとも泣き面に蜂、最悪の場合命の危険に晒されるというダブル/マルチプルジョパディを抱える羽目になる可能性が大いにある。だからこそ彼ら/彼女らは泣き寝入りを強制されるのである。
入管における人権問題を語るにも、上記のような収容者に対する既に報告されている以上の苛烈な性被害があっても、それについて被害者が口をつぐまざるを得ないという状況下にあるという可能性は十二分に理解してほしい。

「小児買春島」は今更騒ぐことか?

米国の大富豪ジェフリー・エプスタインが、自らの所有する島で俳優や資産家らに小児をあてがい、買春をさせていたというスキャンダルで大騒ぎになったのを覚えているだろうか。さも米国を中心に当時騒がれていた、「ワシントンDCのとあるピザ店の地下室で秘密裏に小児買春が行われ、米国民主党の大物など有名人らが子供を『買い』に通い詰めている」という陰謀論(ピザゲート ; Pizzagate)が現実になったかのようだった。
このエプスタインと関わりがあり、醜聞に巻き込まれた人物の一人に、英国王室のアンドルー王子がいる。しかも、この王子は生前のエプスタイン当人とタイで2001年に堂々と面会していたというのだ。(出典が大衆紙で恐縮だが)

さて、タイといえばもはや別の拙稿でも書き散らかしたように、コロナ禍の中にある今でもセックスツーリズムのメッカと認識されている。
現在でも日本では男性がタイへ行くとくれば、普通に寺院などの観光スポット巡りやらダイビングやら鉄道の旅やら、果ては普通のビジネス上の駐在やら出張やらでも、決まって「パッポン通りのゴーゴーバーへ行くの?」「タニヤのニューハーフの××ちゃんと遊ぶの?」「パタヤのおすすめの風俗店教えてやるよ」「田舎の村に置屋があったらあとで話聞かせて」…とまあ、たいてい「不健全」な目的で行くものだと誤解されてあらぬ質問を投げかけられ、不愉快な思いをする人も多いという。だが、欧米人も20世紀後期以降タイでかつての日本人以上に児童買春に興じてきたのは随分と知られた話である。例は列挙するまでもないし、似たようなことは19世紀だか以降にもタイ以外のアジアやアフリカやオセアニア等の諸地域でも繰り返してきているのだ。

さらに欧米人成人とアジア人年少者とくれば、「養子縁組」「慈善事業」などの外面で実際は上記のようなセックスツーリズムや児童労働などに伴う人身売買や、それこそ「慈善」を装ったそれそのもののビジネスによりペアリングが成立しているということもままある。例えばアンジェリーナ・ジョリーの養子マドックスに関しても、故国カンボジアで乳児の頃の彼を養母に斡旋した人物が資金洗浄等の疑いで逮捕されている。この女が摘発された背景に「国際養子縁組」のテイで一種の人身売買を行うスキームがあったことは容易に想像つくだろう。

これらの事実や背景を参照すれば「エプスタイン島で小児買春が」ということなど、欧米人とて他の地域で繰り返し行ってきたようなことだから「陰謀論として騒ぐまでもない」はずではないか。

おわりに

もちろん、「点と点」でしかない複数の事実をファクトチェックもせず無理くり「線」で結ぶのは確かに荒唐無稽であり、それこそ陰謀論者の取りたがる手段である。しかしここまで見てきたように、あるショッキングな事象を見るにしても、その詳細な事実や背景などを知れば、すぐ推測できる、過去にも類似の事例などが多々あるなどということから「驚くべきことでもない」とわかってしまうものがある。否、そういった悲惨な事件も含めて、世の中には何ら驚くべきことなどないとも言えてしまうだろう。

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