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語るべきブランドのストーリーとは?

先日、ツイッターで編集者の竹村俊助さんのこんなツイートがバズっていました。

それから少ししてからカナエナカさんのこんなツイートにも大きな反響がありました。

竹村さんはアパレルについて、カナエナカさんはアパレルに限定しているわけではありませんでしたが、たくさんの人達の間で反響や話題になっていました。このことは、最近ユーザーの関心が薄れつつあると感じていたアパレル業界に属する人間の一人として、お二人には感謝するとともにうれしくも思っていました。

また、こういった事が反響を呼ぶのもアパレルブランドからユーザーへの発信の仕方についてのズレがあるのではないかという点でも考えさせられました。

今回はアパレル業界の広告やマーケティング戦略の問題点、今後のユーザーとの関係性などについて触れてみます。そしてツイッターでも話題になった、ブランドがストーリーを語る必要性について私の考えも述べてみたいと思います。

縮小していくアパレル業界の既存メディアの広告費

今の時代は「モノ」が溢れすぎていて差別化しにくいという声をよく聞きます。そんな中で、どんな業界でもそうですが自分たちの商品をユーザーに知ってもらうために様々な媒体を使い広告戦略が行われています。

下の図表を御覧下さい。

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2018年 業種別広告費の伸び率(マスコミ四媒体広告費)  
㈱ 電通  2018年 日本の広告費|業種別広告費参照

この表は2018年の新聞、雑誌、ラジオ、テレビなどの4大メディア広告費の伸び率を表にしたものです。赤枠のファッション・アクセサリーが前年に比べて8.8%も縮小していて出版、家電などに続いて縮小比率も3番目になっています。

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2008年〜2018年 業種別広告費推移(マスコミ四媒体広告費)※衛星メディア関連は除く
㈱ 電通  2018年 日本の広告費|業種別広告費参照

また、上のグラフから、同じく赤枠のファッション・アクセサリーのマスコミ四媒体広告費が2014年以降5年連続で縮小していることも分かります。従来の広告戦略が通用しにくくなっていることを表しています。

もちろん減った分はネットメディアなどに移行していて、インターネット広告費などは5年連続で伸びていることから、アパレル業界の広告のあり方が転換期を迎えているとも言えます。

私がアパレル企業にいたころのブランドの広告戦略といえばファッション誌などの媒体にいかに取り上げてもらえるかでした。人気のあるファッション誌のページに高い広告費をかけて、ブランドの純広告(イメージ写真とブランド名の広告)を出す代わりに編集ページで取り上げてもらう。そうやってブランドや商品の露出を増やしていきました。

私のブランドでも雑誌の編集の方やスタイリストさんに気に入ってもらうためにプレス担当者が食事の機会などを設けて親交を図っていました。時には私もいやいやながらも同席してお世辞を言って盛り上げたこともあります。

いかに読者が読んでくれる可能性が高い最初の方のページで取り上げてもらえるかで商品の売れ行きが変わってくる、そんなことに躍起になっていた時代でもありました。

現在ではだいぶ形態が変わってきています。広告の費用対効果が疑われアパレル企業が雑誌広告に莫大な費用をかけなくなったことにより、スポンサーを失ったファッション誌の廃刊などが相次いでいます。

昔はファッション誌側がブランドのイメージなどで掲載の可否を選別していたのですが、今では広告費を出してくれればどんなブランドでも掲載されるので、ユーザーから情報の信頼性も失われていて販売部数も伸びていないのが現状です。

また大手のアパレル企業や小売店などは、広告代理店などと契約してテレビCMなどのイメージ戦略を行っています。しかし、企業イメージの認知度アップにつながったとしてもブランドの売上げに直結する可能性が低くなっていることから費用対効果の面でテレビ広告費も縮小しているのです。

実際に6~7年前にあるブランドと契約していた時、私がデザインしたダウンジャケットを使い有名タレントを起用して大々的なテレビCMのプロモーションが行われたことがあります。いくら費用がかかったかは把握はできていないのですが、結果は売上にはあまり結びつきませんでした。CMでの印象度や認知度と売り上げは相関関係にはならないのは身をもって経験しているのです。

迷走するアパレル企業のマーケティング戦略

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既存のメディアからインターネットやSNSを中心とした広告などのマーケティングにシフトしているアパレル企業ですが、しかしここでも大きな問題があると思っています。

・一般ユーザーの理解を得ないアパレル言語
・インフルエンサーを生かしきれていないSNSマーケティング
・遅れているコンテンツマーケティング戦略
・影響力を持つ芸能人ブランドの苦戦

一般ユーザーの理解を得ないアパレル言語
アパレル業界の言語は特殊です。一般の方にはわからない用語が多くあります。感覚的な言葉も多く、論理的とは対極にあると思っています。昔から一般の人達への優位性を保つためにあえて難しい言葉を使うのが良いという業界特有の文化もあります。

また「ファッションとは理屈ではなく好きか嫌いか」「論理的にするのはダサい、ファッションとは感覚的なモノ」という業界人独特の右脳的な考え方があります。それは間違ってはいないのですが、それだけではファッションを楽しむ人がこれ以上増えることはありません。

服が売れて業界自体も勢いがあった時代ならまだしも、若い人達のファッションに対する優先順位が低くなっています。そういった状況の中でもっと業界以外の人にも分かる言葉で論理的に伝えていき、ファッションにあまり関心のない人達にも興味を持ってもらう必要があると思うのです。

インフルエンサーを生かしきれていないSNSマーケティング
最近ではインスタグラムを中心としたSNSマーケティングも流行っています。アパレル企業がフォロワーが多く影響力のあるインフルエンサーと組んで自社の商品を露出していくのですが、これも全てが成功しているわけではありません。

ブランドの顧客であったり元々商品が大好きなインフルエンサーであれば、服に対する愛情や熱がユーザーに伝わり共感してもらえることもあると思います。しかし完全な業務関係であったり、そもそも代理店経由でインフルエンサーを探してもらいガチガチにコントロールしてしまうことで、ユーザーにうそを見透かされてしまってうまくいかないケースも多いようです。

遅れているコンテンツマーケティング
最近では企業広告がユーザーから敬遠されることもあり、コンテンツマーケティングを導入している企業が増えてきています。コンテンツマーケティングとは広告に頼らずに価値のあるコンテンツでターゲットユーザーをWebサイトへ呼び込んでファン化し、問い合わせや商品購入などの行動へとつなげるマーケティング施策のことです。

アパレル業界ではありませんが、コンテンツマーケティングで成功されている代表例をひとつ挙げます。
北欧、暮らしの道具店 (https://hokuohkurashi.com/) です。

北欧のライフスタイルをテーマにしたネットショップです。品揃えが充実しているのももちろんなのですが、それ以上に魅力的なのは、日々更新されるコンテンツです。

出窓の使い方の実例北欧風のインテリアなど、活用法を紹介 - 北欧、暮らしの道具店 -- https://hokuohkurashi.com/note/176379
例えばこのページのように、「こんな風にインテリアを揃えて暮らせたら素敵だよね」という世界観を発信しています。

自社商品の宣伝に終始する短絡的な記事ではなく、ネットショップに訪れるユーザーが思い描いているであろう「素敵な暮らし」を表現することで、自社の「ファン」になってもらうことを目指しているのです。

他業界では一般的なマーケティング戦略なのですが、アパレル業界ではまだまだ一般的ではありません。いまだに広告や代理店などへの依存度が高くマーケティング戦略でも遅れてしまっているのが現状なのです。

影響力を持つ芸能人ブランドの苦戦
先日、タレントの梨花さんのブランドが全店舗を閉店するという発表がニュースになりました。2012年にアパレル企業のジュングループを通じて第1号店をオープンしてから7年間のブランド展開に幕を閉じたことになります。過去にも影響力のある芸能人のファッションブランドが短期間で終了してしまうような事例があり、芸能人の知名度を借りたファッションブランドも総じて苦戦している状況です。

アパレル企業がその時代に人気のある芸能人の影響力を利用してブランドを立ち上げることは昔からあることなのですが、長い間存続出来ているブランドはありません。例えば同じように芸能人などが経営する飲食店などでは長い間支持されている店もあるのに、「なぜファッションブランドはダメなのか?」と考えることがあります。

それは、「本気度」の違いが大きな要因であると思っています。多店舗展開で事業が大きくなっている飲食店などでは芸能人自身が資金を調達し経営にも参画しています。料理や店の内装などのコンセプトにも本人の本気のこだわりが反映されているので、そういったケースの場合は成功しているような気がします。

しかし、ファッションブランドの場合はどうしても名前貸しの場合も多く、そもそもブランドを立ち上げた思想や哲学があいまいになってしまいます。そのために本当の意味での顧客が出来にくいため、芸能人自身の人気の衰えやファンの年齢層の変化などによって一過性のものになってしまうのだと思うのです。

衣食住における衣の選択基準とは

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つい先日、初めてお会いした方からこんな質問を受けました。「食品を選ぶときには生産地表示や生産者の顔が見える写真など、選択できる基準があるのに服にはそういった明確なものがないですよね?」と。

アパレル業界の人から出る反論としては、「選択する基準がブランドであり、デザイナーでもある」「オーガニックコットンなど、きちんと選択基準を明示してあるものがないわけではない」などが予想されるのですが、私自身は、素朴な質問に対して妙に納得してしまいました。確かにそうだなと。

一般的に衣食住のうち、命に関わる食品や終の棲家とも言われる住宅などは、安全性などが選択する基準にもなるので、ユーザーもその情報開示に対しては非常に関心が高いです。しかしその一方、服にも関しては元々そこまで重要視はされていなかっためにそもそも求められてはこなかったのです。

しかし、昨今の食品や衣料の大量廃棄問題がクローズアップされ報道された影響で、ユーザーの間にもただ何となく消費するのではなくもう少し考えていきたいという動きが広がりつつあるのも事実です。

選択肢という意味では、海外のアパレル企業に比べて日本のアパレルにはメッセージ性のある理念を発信している企業が多くありません。好き嫌いはあるでしょうが、海外のアパレル企業は自分たちのビジョンやミッションを明確に打ち出しています。

・パタゴニア・・・・「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える」
・アディダス・・・・「自然環境に配慮した製品づくり」
・エヴァーレーン・・・・「徹底的な透明性」
・グッチ・・・・「サプライチェーンの再構築」

こういった明確なメッセージを発信していることによって、問題意識の高いユーザーがモノを買う判断材料にしているのも事実です。

ある素材メーカーの方が言っていましたが、日本では流行に乗っただけの「オーガニックコットン」を打ち出すアパレル企業が多いと。また最近では業界専門誌などで各企業が「サスティナビリティー」打ち出しているという報道もよく見かけます。

打ち出し自体は悪くないのですが、ムードに便乗したものではなく、本当の意味での企業の理念や姿勢になっていくことを望んでいます。それがユーザーに服を選ぶ選択基準を与える一つになるからです。

ヨーロッパに感じる哲学とファッション
もう一つの日本との違いはデザイナーにもユーザー側にも服を着ることに哲学があることです。元々階級社会ということもあるのでしょうが、ヨーローッパのデザイナーの中には思想や哲学を持った人が多く、そういったこともクリエーションとは別に評価されることになります。

私が10年近く一緒に仕事をしたイタリア人デザイナーも服をデザインするための思想を大事にしていて、シーズンのコレクションをつくる際には、デザインの前に必ず哲学的テーマの説明を受けていました。

また、服の着こなしにもそれぞれの国の考え方があり、例えばイギリスでは「他者への礼節を重んじるため」イタリアでは「自分の人生を楽しむため」など、国民性と服を着るということが密接な関係があります。日本に比べてまだ消費ではなく文化的な匂いがするのはこういった違いが要因ではないかと感じています。

重要なブランドの価値とは

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マーケティングの考え方でユーザーがブランドや商品に感じる一般的な価値は大きく3つあると言われています。まず2つは、左脳的な利便性や機能性、スペックなどの「機能的価値」と右脳的な感情や気分に刺さる「感情的価値」です。

下の図は一般的な価値構造で、商品特長によってユーザーが感じる機能的価値と感情的価値を整理したものです。

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ファッションブランドに置き換えると、「軽い」や「シワにならない」「洗える」など、機能的スペックにたけたユニクロやワークマンなどの商品などが「機能的価値」のあるものとなります。

それに対して高額のため所有することにあこがれを感じたり、優越感や気分が上がるようなラグジュアリーブランドの商品などが「感情的価値」のあるものになります。

そしてもう一つ、これからより大事になる価値が「自己実現価値」。商品がどういいかだけではなく、ユーザーの生活に変化をもたらしたり、身につけることで感じられるステイタスや、なりたい自分像へ近づける充実感などをもたらしてくれるものです。

例えば高級ブランドのスーツであれば、シワになりにくく動きやすいストレッチ性と繊細な光沢感や柔らかで軽い着心地という商品特徴があったとします。「機能的価値」としてはシワになりにくく動きやすい、「感情的価値」としては、高級感があって仕立てが良いということになります。

そしてスーツを着ることによって、ビジネスシーンで仕事が出来るという印象を持たれたり、女性からの高感度が上がることで対人関係が充実していき「自己実現価値」を得られることになるのです。

押しつけでなくユーザーに選択してもらうことが大事

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私は自分が契約しているブランドのお店を廻ったとき店頭スタッフによく言いいます。「高いものを買ってもらおうとして商品の特徴ばかりをいくらアピールしても無駄だよ。お客さんはそんなことを聞きたいのではなくいかに自分にとってメリットがあるかを考えて買うか買わないかを判断しようとしているのだから」と。でもなかなかスタッフのアピール癖が抜けなくて苦労しています。

アパレル業界ではいまだに「いいモノを作っていれば売れるという」という考え方をもっている人がいます。お店でもユーザーの悩みやニーズを聞かずに自分達のブランドや商品のアピールのみに終始する接客が多く見受けられます。

確かにモノを見ただけで良し悪しを直感的に判断できるユーザーばかりではありません。そういう意味では高い価値を感じてもらうためにブランドの理念やストーリーを伝えることは必要です。

しかし、ユーザーは押しつけでなく自分で主体的にモノを選びたいと考えています。ブランドから「いい」と言われるものでなく自分が「いい」と思うものを選びたいのです。

利便性のみが重視される「機能的価値」のリーズナブルな商品ならプロダクトの特徴アピールだけでもよいのですが、高価格帯であれば「感情的価値」や「自己実現価値」を感じてもらわなければなりません。

必要とされる機能があることは当然ですが、ただそれ以上にその商品が自分の日常生活に何をもたらしてくれるのか、どう豊かに彩ってくれるのかの付加価値に期待するからなのです。

大切なのは着る人のストーリーをイメージさせること

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今から30年程前の若かりし頃、初めてイタリアへ行ったときのことを今だに思い出すことがあります。ミラノのリナーテ空港に初めて降り立った瞬間、ホテルにチェックインしたときの情景、そしてなにより石畳のヴィア・スピーガ通りを歩いたときの感動、何もかもが新鮮で心が躍りました。

街を歩く人達を眺めながら、そのカッコよさにあこがれ頭の中で音楽が流れ出して映画のワンシーンのように時間が止まっていたような感覚でした。

初めてのイタリアでテンションが上がりまくり、街並みや歩く人達に馴染む自分でありたいと時計やら洋服やらイタリア仕様に変えるために現地で買いまくりました。帰国後のカードの引き落としが100万を軽く超えて口座残高がギリギリになってあせった記憶があります。

今考えるとモノを買っていたのではなく、目に焼きついた情景や空気感を買っていたのだと思います。新しい服を着ることで違う自分になれるような気がしていたのだと。同じような経験は初めてパリやニューヨークに行ったときにもありました。

また、若かりし頃は夜の遊び場に行くのにも「どんな服を着て出かけようか?」など、新しい服に袖を通すたびにワクワクしていたような気がします。モノを買うことが目的なのではなく日常を彩るためにファッションを楽しむ、そういったシーンや場所も数多くあったのです。

しかし、年齢と共に今では日常生活の中で何かにワクワクしたりすることが少なくなりました。ファッションビジネス自体も情報社会の中、ユーザーの誰もがその裏側までも知りえることで、夢や感動を与えることが難しくなってきています。

自分自身の経験から言えるのは、人が服を買う動機はプロダクトの完成度やスペックの優位性だけではありません。着たときの情景を妄想させ、イマジネーションを膨らませる奥行き感をどう感じてもらえるかではないかと。

モノ自体のこだわりや価値を並びたてるのではなく、ユーザーが使ったときのいい雰囲気や空気感を想像させる。着る人にとってのポジティブなストーリーをイメージさせることが重要なのです。

そのためにも私も含めたつくり手側は、ブランドのストーリーやプロダクトのこだわりを語り過ぎず、説明しすぎないように我慢することで、ユーザーに想像してもらいワクワクしてもらえるような余白を残すことができるような発信をしていかなければならないと考えています。

受け取る人にとってのストーリーを感じさせる服をつくりだしていく。それがただの消費で終わらないようにするための私なりの別の一歩なのかと。



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