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これからのアパレル店舗には「わざわざ立ち寄る理由」が必要だ

最近街を歩いていて気になることがあります。それは、街にはたくさんの人が歩いているのにアパレルの店にはあまり人がはいっていないという現実です。

もちろんユニクロやZARAなどの一部の人気の店ではにぎわっていたりするのですが、百貨店や駅ビル、路面店など大体の店には「以前に比べて人が少ないな」という実感があります。街中には以前と同じく人が溢れているのに、アパレル店舗に立ち寄る人の数は明らかに減っていると感じます。

既存のアパレル店舗の閉店が相次いでいる現状

実際に近年、アパレル店舗の閉店のニュースが相次いでいます。百貨店やSCを中心に店舗展開するオンワードホールディングス、ワールド、TSIホールディングス、三陽商会の大手4社だけで2015年度からの約2年間で閉店は計1600店以上に上るとの報道が過去にありました。

また、好調に推移していたファストファッション勢にも陰りがみえていることも取り上げられています。アメリカ発のFOREVER 21は2017年10月、日本での初出店となった原宿店を閉店。スウェーデン発のH&Mも2018年7月、旗艦店である銀座店を閉店しています。

集客力の低下するアパレル店舗
既存店舗が集客できずに閉店が相次いでいる理由としては下記が考えられます。

・ユニクロやZARAなどで十分ニーズを満たしてしまっている
・ZOZOを代表としたネット通販で購入している
・そもそも服に興味がなくなりお金をかけなくなっている

アパレル市場全体も縮小傾向にあり、発表されている2016年のデータでも、1990年には15兆円を超えていた市場が、10兆円以下にまで縮小しているのです。

市場自体が縮小している状態では集客できないのは当然であり、相当な工夫と努力をしていかないと、これからも従来の店舗が生き残っていくのは難しいと考えられます。

「店舗にわざわざ立ち寄る理由」があるか

ではどういった工夫が必要なのでしょうか? 私が感じるのは、「服を買いに店に行ってもワクワクしない」ということ。最近話した知人からも同じ言葉を聞きました。

これまでのnoteで、日本のアパレル製品が買われるためにはそれぞれのストーリーを伝えることが重要だと書きましたが、店舗においても同じことが言えます。スマホ一台で暇つぶしができる現代では、わざわざ店舗に立ち寄る理由が必要なのです。そのためには、次の2点が重要だと私は考えます。

①その街や集まる人に合わせて、長居できる空間にする
②ブランドとしての理念・哲学を肌で感じられるようにする

実店舗に人が集まらなくなっているのはアパレルに限らずですが、アパレル以外の業態では優れた店舗づくりによって圧倒的な集客に成功している事例があります。そういった企業をお手本に見ながら、今後の店舗のありかたについて考えてみたいと思います。

これからの店舗づくり① その街や集まる人に合わせて、長居できる空間にする

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流行る店では、来客者の滞在時間が長くなります。店での滞在時間が長くなれば人が滞留し店の空間がにぎわうことになります。にぎわうことによって人が人を呼び結果的に集客性が高くなり売上げが上がるというロジックです。

場所に合わせて居心地の良い空間を提供する蔦屋家電やスタバ
私は二子玉川の蔦谷家電によく行きます。贅沢で広い空間の中にスタバも併設されているので週末などに利用するのですが、短くても1時間、長ければ3~4時間いることもあります。当然コーヒーも飲むのですが、本を読んだり雑貨や家電を見たりできるので、ついつい長居してしまいます。

また、2019年2月28日には中目黒に日本で初めて「スターバックス リザーブ ロースタリー」という店舗がオープンしました。「コーヒー体験」をコンセプトにした店舗で、「テーマパークのよう」とも形容されています。不便な立地にもかかわらず、いまだに多くの方が足を運び、お店を賑わせています。

蔦谷家電、スタバともに共通しているのですが、場所や集まる客層によって、店舗のテイストが異なります。

二子玉川の蔦谷家電は、店内に緑を多く配置しており、カップルやファミリーが座れるシートやソファを置き、ゆったりと落ち着ける空間を作っています。一方、代官山ではクリエイティブ層を意識したモダンな空間にしています。客層に合わせてイメージを変えているのです。

スタバについても、二子玉川の店舗は一人用の席を多めにして仕事をしたり本を読んだりする若い客層をターゲットにしています。それに対して駒沢公園近くの店舗では、愛犬家の方々が多く訪れることから、犬と一緒に入れる空間を別に作り、コミュニケーションをとれるようにしています。このように、立地や客層に応じて店舗のテイストを少しずつ変えているのです。

アパレルのブランドアイデンティティはもっと柔軟に考えてよい
それに対して、アパレルの店舗はどうでしょうか?
多店舗展開のブランドはたくさんありますが、路面店や商業施設など、場所は違えど大型店か小型店かの違いぐらいでしかなく、各店舗のイメージはほとんど変わりません。店の空間の中では服を見ることしかできず、一店舗を見てしまえば他の店舗に入る必要がないのです。

最初から服を買うつもりで店に訪れる場合は別ですが、そうでなければ、一つの店に10分以上滞在するケースは稀でしょう。狭いスペースの店で服をひととおり見るぐらいであれば5分もかからないと思います。

暇つぶしに店舗を回るという習慣があったときにはこれでも良いでしょうが、今は時代が大きく変わってきています。「客が来るのは当たり前で、来た客にブランドイメージを見せる」のではなく、「街や場所の文脈に合わせた空間を、そのブランドが魅力的に演出する」という形に発想を転換する必要があります。

試着の体験は絶対に変えなければならない
アパレル店舗で最も重要なユーザー体験は、間違いなく試着だと思います。しかし、この試着を、じっくりと気の済むまで十分にできているという人はなかなかいないのではないでしょうか。買う気がなければ声をかけるのも勇気がいりますし、また勇気をもって試着したとしても瞬時に意思決定をしなければいけません。もし断ったときのスタッフの人の落胆の表情を想像すると、体験を楽しむというには程遠い状態だと思うのです。

一方で、アップルストアや家電店では心ゆくまで疑似体験をすることができます。買う買わないにかかわらず自由に見ることができて、商品の機能も気の済むまで試すことができます。わからない点などもスタッフが親切に説明してくれるので、ユーザーは商品に十分納得してから購入でき、後から後悔することがあまりないように感じます。

見る→声をかけて試着する→買うかどうか決める という単調な流れではなく、ユーザーが主体となって店舗空間を自由に楽しめるかどうかが鍵になってくるように思います。

これからの店舗づくり② ブランドとしての理念・哲学を肌で感じられるようにする

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独自の世界観の体験にこだわるスノーピーク
テントやキャンプグッズを販売している「スノーピーク」は、お店の空間の中でキャンプを疑似体験できるというユニークなコンセプトが人気になっています。

実は昨年、私自身もスノーピークでテントを購入しました。キャンプは年に数回しか行かず、元々買う気など全くありませんでした。しかし、面白そうな店だと思ってフラッと入った後に店内で疑似キャンプをしてみると、なんだか自分が実際にキャンプ場で楽しんでいる姿が思い浮かんでしまったのでした。気づいたら、安くはないテントを購入していました。

モノが売られているだけでなく、その先の情景が頭に浮かぶ、そして楽しそうな自分の姿を空想する。このことが購入に至った心理的要素だったと自分なりに分析しました。体験することによりキャンプという非日常をリアリティーを持ってイメージする。まさにスノーピークのブランド哲学を実感した瞬間でした。

スノーピークは2014年からアパレル事業にも参入しており、昨年にはアパレル事業単体でも黒字化したとの発表もありました。

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表面だけの「コト消費」ではなく、一本筋のある理念や哲学が必要
「モノ消費ではなくコト消費」「売るのではなくユーザー体験が大事」など最近店舗のあり方についてのマーケティング論が語られることが多く、実際にそういったコンセプトの店や売り場が新しくできたとのニュースをよく目にします。しかし実際に足を運んでみると、何かを感じる店と物足りない店があります。その違いがどこにあるかを考えてみました。

あくまで私の個人的な考えではありますが、そのお店に「理念」や「哲学」があるかどうかではないかと思っています。先にあげた「スノーピーク」も「自らもユーザーである」という代表者のちゃんとしたがポリシーがあります。代表者も社員もキャンプユーザーの一人でありその実体験を通じた想いが商品づくりやお店づくりにも生かされていることが人気の理由ではないかと感じています。

私も過去にブランドの立ち上げに関わった経験があります。その実体験から言えることとして、今の時代に長く売れ続けているブランドや成長し続けているブランドには、ちゃんとした「理念」があると思っています。「世の中にどう貢献するのか」や「ユーザーをどんな世界に連れていくのか」など、企業として利潤のみを追求するのではなく経営者の考える理想やつくり手の想いがしっかりと商品やお店の空間に表現されているブランドがユーザーに支持されているのではないかと思うのです。

ファッション業界に限らず1つの業態がヒットすると必ずそれを真似たものがでてきます。ただ商品やお店のカタチをいくら真似ることができても「理念」や「哲学」を真似ることはできません。

カタチを真似たモノは、本物に比べて細部のこだわりが抜け落ちてしまっているのです。「理念」や強い想いが感じられるから共感するのであり、その空間も楽しいと思えるのです。

私が考えるこれからのアパレルの店のカタチとは

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私も近い将来にお店を出したいと考えているのですが、次のような特徴をもたせたいと思っています。

①買うのではなく、理念に沿ったワクワクを体験できる
②商品を提供する側とユーザー側の双方が納得できる
③一緒にブランドを育てるコミュニティの中心地になる

①買うのではなく、理念に沿ったワクワクを体験できる
従来の服を着る場ではなく、体験する場にしたいと思っています。着用するシーンを想定して疑似体験できる什器がお店の空間の中に表現してある。買っても買わなくても店に来ることが楽しくなり、日常で着ることがワクワクして想像してしまう。そんな店の空間演出をしたいと思っています。

②商品を提供する側とユーザー側の双方が納得できる
店にある全ての商品、全てのサイズが試着オールフリー。自由に気の済むまで体感して納得するまで検討してもらえるようなユーザーありきの考え方。ときには作り手とモノづくりのストーリや着こなしの仕方、商品の特性まで話し合えるなどブランドとユーザーの関係性がフラットであることが大前提だと考えています。

③一緒にブランドを育てるコミニュティの中心地になる
買わなくても気楽にお店に立ち寄れて、購入してくれたユーザーが着用後のレビューをフィードバックしてくれる。そしてそれが次回の商品製作にも反映されて、ユーザーと一緒に進化していくような関係性になっていく。つくり手の想いだけでなくユーザーの想いも一緒にカタチにして調整していく。そんなプロダクトのカタチが理想だと考えています。

以上が私が考えるお店のコンセプトです。現実今、お店を運営されている方やアパレルの店舗で販売されている方からすれば、ふざけるなという部分もあるでしょうが、あくまでこれは個人の理想です。個人が勝手に妄想を抱く事をお許し下さい。

これからのファッションビジネスには、進化していく時代に合わせていく勇気が必要ではないか

いろいろと個人的な想いを述べてきましたが、今ファッションビジネスは、進化していく時代にどう対応していくのかが求められているのではないかと感じています。今までのしきたりや業界の中での狭い考え方など捨て去る勇気が必要ではないかと個人的には思っています。

私自身ファッションビジネスに長く携わってきた自戒の念を込めて、新たな時代を切り開くべく失敗を恐れず挑戦していきたいと思っています。
今回も長々とありがとうございました。


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