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坂本龍一さんの映画音楽が、ずっと好きだ

映画「レヴェナント」や「怒り」も印象深いが、なにより心に残っているのは「トニー滝谷」のサウンドトラックだ。

すごく好きな映画。そして観るたび、不思議な映画だな、とも思う。

実写の映像を、まるで寓話のように切り取る、独特なカメラワーク。「屋内風の屋外セット」という手法を用いて作られた、非現実的な世界観を際立てる採光。演者3人の抑制された演技。(イッセー尾形さん、宮沢りえさん、そして、ナレーションの西島秀俊さん)

こんな不思議な取り合わせにより、原作の村上春樹さんの小説が持つ質感を、忠実に再現している。76分しかない映画なのに、どこか遠くまで導いてくれる感覚がある。市川準監督のもたらしたマジックだ。

映画の構成要素が主張しすぎず、意図的な引き算で設計されているなかで、劇伴だけが能弁だ。坂本龍一さんの、癒しと喪失を行き来するような旋律が、映画全体のベースメントになっている。失った者に寄り添うための音楽。このサントラは聴くたび、自分のためのものだ、と思える。

* * *

それ以外にも、坂本龍一さんには、長年、たくさんのものをいただいた。感謝している。YMO、Paradise Lost、Merry Christmas Mr.Lawrence、We Love You、Put Your Hands Up。音楽は、いつもそこにあった。彼の、創作に挑み続けた人生の軌跡は、美しい。(四十九日も過ぎたことだし、死を経てなお、それを美しいと表現する不作法を許してほしい)

1987年ライブ音源、矢野顕子さんライブに参加した坂本龍一さんが、そっと置くように発する「わたしたち」のフレーズが好きだ。
https://www.youtube.com/watch?v=cuDvVbYW2Tg

晩年の作品、イリア・ボンダレンコさんとの共作「Piece for Illia」も、NHKスペシャル内でウクライナのドキュメンタリー映像と共に拝聴した。
https://www.youtube.com/watch?v=cJWutFfxqpA

氏は最期まで、音楽の持つ力を発揮し、未来のために行動していた。平和への志も、間違いなく私たちに届いている。世界は残念ながら、今日も残酷なままだが、未来は変えられる。彼の想いを受け取り、私にできることを日々重ねようと思う。

<参考文献>
「トニー滝谷」の屋内風の屋外セット
https://cinemore.jp/jp/erudition/1544/article_1545_p1.html

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