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ピコピコハンマー新潟物語(いぬねこグランプリ参加作品)

なんだこの状況。
青山慎二は頭を抱えていた。
NPO法人新潟防衛軍に新たな任務が課せられた。
猪狩隊長のために作った動画がネットに流出し、新潟防衛軍の存在が世に知られることとなった。
そこで持ち上がったのが、新潟をプロモーションするための特撮動画第二弾計画。今回は新潟のPRも取り入れた脚本でなければならない。
さらに新潟防衛軍は、もう一つ難題を抱えていた。

それは、本部の壁にあいた大穴であった。
しかも、ただの穴ではない。
「この穴から別の場所へ行けるみたいですよ」
穴から顔だけこちらに出して咲坂由香里が告げたので、青山は肝を潰した。
「少し歩いて中を確認してきました」
さすがの胆力である。
「向こう側、ドラゴンみたいなのが空に飛んでました」
「おい、それって…」
「コンクリートで穴を塞ぎましょう」
「いや、それももっともなんだが、僕が今言ったのは」
と、青山が咲坂の背後を指差した。

「こんにちは!」
「こんにちは」
小さな影がふたつ。二足歩行のタヌキと、ロボットらしきものが立っていた。
「わたしたち、なんでもやさんです!」
「なんでもお手伝いしますよ」
無邪気な声で元気に言う。
「間に合ってます」
絶対面倒なことが起こる。
「まあそういわずに!」
「必ずお役に立ちますよ」
グイグイくる。押しが強い。
というわけで今、かれらと応接間でお茶を飲んでいるわけだ。

「なるほど…状況は理解した」
お茶を飲み終えロボットが言った。
「まだ何も話していないんだが」
困惑して青山が返す。
「この土地の良さを宣伝しようとしているのでしょう?」
ロボットが机の上の企画書を指差す。
「ロボットさんは、“いにしえのこだいへいき”のずのうなのです!あたまがいいのです!」
タヌキが胸を張る。
「まず宣伝したい点を明確にすることです。食、風景、住みやすさ、などなど」
ロボットが資料を手に取り、眺めながら言った。
畑仕事を手伝いに行っていた加藤からの連絡があったのは、そんな時だった。

「いや…警察か消防を呼ぼうよ。むしろ自衛隊?」
「取り合ってもらえませんでしたよ」
横転したトラクターの陰から青山と加藤和宏はささやきあう。
畑に陣取っているのは、3トントラックほどの体躯をもつ爬虫類。
ヘルプを送ってきた加藤によれば、いきなり現れ、停めてあったトラクターを蹴り倒したそうだ。
怪我人がいなかったのは不幸中の幸いだが、このままでは下手に動けない。かれこれ3時間は経つだろうか。
「咲坂さんを残してきたのは正解だったな」
スマホで状況を撮影して送ると「なんとかするそうです」とだけ返事が届いた。
「なんとかするって…」
そうつぶやいた頃、自動車のエンジン音が響いてきた。

「なんとかしないといけない案件があると聞いて!」

い や 誰 だ よ ! !

濁川酒店の軽トラの荷台から乗り出す勢いで叫んでいるのは、隼眼のハチワレ猫。
…の顔をした、鎧姿の大柄な男(声でそう判断した)。

その隣で叫んでいるのは、人好きのする笑顔の好青年。ただ、明らかにへべれけである。
「ここに来たらうまい酒があると聞いて!」

堪 能 し て る な !

さらにその隣には、黒と茶色の犬の顔をして、これまた鎧をまとった騎士風の人物。
「僕は、キノコは食べない!」

し る か!なんで来たんだよ。

「すけっとをよんできましたよー」
ちょこんと顔を出したタヌキがこちらに向かって手を振る。

運転席から降りてきた濁川は、なぜか『バッドメン』の衣装に身を包んでいた。助手席の咲坂も、新潟防衛隊のヘルメットまで着用している。
もしかして。
ロボットが声を張り上げた。
「さあ、撮影をしましょう。スマホで撮影してモキュメンタリー風に演出します」

やっぱり。
ロボットは妙にこちらの事情に精通している。
あの穴の時点からモキュメンタリーとやらは始まっていたのでは?我々の自然な反応を引き出すための壮大な仕込みでは…
そんなストーリーが脳裏に浮かぶ。

「あ、よろしくお願いします。報酬に関しては、食料の現物支給で」
意外と礼儀正しい猫面の男。その表情の精巧さは、コンピュータ制御でもしていると考えれば説明できそうだ。

「マーロウさんもじゅんびしてください」
タヌキが声をかける。
「ちょっと待ってね」
へべれけ青年の体が大きく盛り上がる。ゆとりのあった服がはち切れ、獣の体毛がみるみるうちに体を覆っていき、天を衝く体躯の狼男へと変貌した。

青山は理解するのを諦めた。

「ぬはははは!今回は巨大怪獣を畑に放ち収穫を妨害する作戦だ!さすがの新潟防衛軍もこれには手も足も出まい。我々ダークバッドの勝利だ!」
「そこまでだダークメン。今回我々には強力な味方がいる!新潟を愛する獣人戦士たちだ!行くぞ!」
大声が怪獣を刺激したらしく、唸り声をあげてこちらに向かってくる。
「ニイガタ、オコメオイシイネ!」
犬男の大斧が怪獣の爪を弾き返す。
「ニイガタ、オサケメチャサイコウヨ!」
狼男のパンチが怪物の顎に沈み込む。
「ニイガタ、ヤサイモサカナモオイシイヨ!」
バランスを崩した怪獣の首元に、猫男の振り下ろした斧が深々と突き刺さる。
おい、さっきまで流暢に話してたのに急にイントネーションがおかしくないか。
青山の心の中のツッコミと同じタイミングで怪獣は倒れ、動かなくなった。

結論から言うと新潟の観光誘致は成功した。
ただネットで公開された動画は炎上した。
批判で一番多かったのが演技がひどい、これを観光誘致でやる意味が分からない、という意見。
一部ではカルト的な人気を得た。特に獣人の造形がリアルだったため、作成者は誰か、とコスプレイヤー界隈で話題になった。

そしてパロディ動画をSNSで公開した外国人レイヤーが火付け役となり、ブームになったのが『コスプレ観光』。
観光会社や飲食店がこぞってコスプレ割を行ったこともあり、新潟は国際的なコスプレの聖地となった。
時々コスプレではない『本物』が混ざっているという噂もあるが、噂の域を出ない。


チラッ


(もしかしたらこんな光景があったのかもしれない)

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