近所の公園に帰ってきた

長かったような短かったような1年が終わりにさしかかるこの時期も、晴れの日の昼間は思ったより寒くない日もあるようだ。
むしろ、普段は寒さしか感じることがないだけに、降り注ぐ日光から心まで温まるような温もりを感じることができるらしい。
虫や蚊もほぼいないので、落ち着いてベンチに長時間腰掛けることができる。
もしかしたら、今は公園で時間を過ごすには一番良い時期なのかもしれない。
近くで子供が遊んでいる。たまに目を向けると、楽しそうにしているので、なんだか癒される。時々、子供の無邪気な姿から、趣味のお絵描きへのインスピレーションが湧いてくるような、湧いてこないような気がする。
このゆっくりとした時の流れの空間が、このままずっと続けばいいのにと思っていた。
僕はさっきまで、とある中規模程度の公園にいた。なんでその公園に行ったのかというと、近いからだ。それ以外に理由はない。
僕は一時期、公園マニアになっていた。Googleマップを使い、最大で自宅から半径10km以内のありとあらゆる公園を見つけ、行った。その中には、大規模な公園にも関わらず、僕より何十年も生きているはずの親ですら知らなかった公園も含まれている。
公園巡りは、楽しかったといえば楽しかった。どの公園に行っても新鮮な気分を味わえるし、飽きたらまた別の公園を探せばよかった。遠くに来るだけでテンションが上がるし、そこで軽食を買って食べたりしたのは、全て思い出である。
しかし、公園巡りもだんだん行き詰まりを感じるようになっていった。公園というものは、インターネットを介して訪問できるものではない。日本全体、もしくは世界全体を見渡せば、一生かかっても行ききれないほどの公園があるのだろうが、僕の体力的にも、経済的にも、せいぜい半径10kmが限界だ。
半径10kmまで絞ると、気軽にちょっとかじっては捨てられるような数の公園は残らない。大規模な公園を一通り行き尽くすのに、そんなに時間はかからなかった。
中規模の公園にまで手を伸ばしたが、やはり大規模な公園の刺激には劣る。すぐに飽きてしまった。
そして、半径10kmとはいえ、運賃はかかる。それに遠出する以上、途中で腹が減ったり疲れて、通りがかった店の誘惑に耐えられず、出費してしまうものだ。僕はお金持ちではないにも関わらずだ。
流行りの言葉で言うなら、どう考えてもサステナブル(持続可能)な趣味ではなかった。どこかで破綻を迎えるのは、今考えると目に見えていた。
もちろん、公園巡りが無駄だったとは思わない。色んな公園を知れて、今後のご当地トークに使えるだろうし、買い食い等の出費も、それはそれで思い出だ。
だが、公園巡りが破綻に近づきつつあったので、今日はどうしようか考えていた。つい昨日、遠出して少なくない出費をしてしまい、今日になっても後悔の念が僕のみぞおちあたりを重苦しくさせていた。
外に出ないというのも、それはそれで違う。今までの経験からして、毎日運動や、自然に触れることを怠れば、いとも簡単に精神状態が悪化し、情緒不安定になったり、鬱になってしまうのは分かりきっていた。
考え抜いた結果、「近所の公園でいいや」という結論になった。あまりにもしょうもない結論だが、これはこれで良い選択だった。いや、というか、とてもいい選択だったし、一つの正解だったとすら言えるかもしれない。
まず、近所だから買い食いしなくて済むのが良かった。公園までのルートに誘惑が一つとしてないし、そもそも家が近いので、疲れたり腹が減ったりしたら、帰ってしまえばいい。
次に、移動時間が短いので、体力を消耗しないというメリットもあった。今までの公園巡りでは、そもそも公園にたどり着くまでに疲れ果ててしまって、公園を楽しむ余裕すら残ってなかったことが多かった。残っていたとしても、この場所から自宅は遠く、何かあったときに苦労するという不安もあって、落ち着いて公園を楽しめない自分もいた。
最後は、全体の所要時間が短いというメリットだ。これが一番大きいかもしれない。遠出すると、半日潰れてしまうことも少なくなかった。それが、近所の公園だと、よほど長居しない限りは、半日潰れることはないし、どちらかというと隙間時間潰しという感覚だ。浮いた時間で違うことができるというのは、本当に大きい。
飽きるほど景色を見ている公園だからといって、楽しくないということはなかった。自然に囲まれてゆったりする時間が楽しいというのは、僕にとっては普遍的な感覚であり、飽きることはないのだということに気づいたのだ。
僕は新しい刺激を求めすぎていて、本質を見失ってしまっていたらしい。楽しさというものは、かけた労力や金銭に比例することは思ったより少ないのだなと思った。
公園に限らず何事においても、良い物は意外と近くにあるのかもしれないな、という発想が自分の中にインストールされた。これが真理であるとは断言できないけど、1つの可能性として、僕の今後の行動や選択に影響を与えていくことになるかもしれない。

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