「法蘭仙納杜拉」あるいは「法兰克辛纳特拉」

「法蘭仙納杜拉」あるいは「法兰克辛纳特拉」。
フランク・シナトラを中国語で書くと、そうなるらしい。ウェブの自動生成翻訳だから、正確さは保証できないけど。

去年の暮れに、ぼくが働くレコード店で、去年一番外国人(おもに欧米圏)から問い合わせが多かった日本人アーティストは、福居良だった、とツイートしたら結構な反響になった。もっと正確に言うと、彼らが探しているのは1976年に福居がリリースしたアルバム「SCENERY」のLP(オリジナルでも再発でもかまわない)だった。

もともとこのアルバムに収められた「Early Summer」という曲は、ジャイルズ・ピーターソンのが選曲した「渋谷ジャズ維新」というコンピに入っていて、ひそかに話題を詠んでいたと聞く。だが、それならばその頃から問い合わせが数多く届いてもおかしくなかったはず(だって、そのコンピが出たのは2003年なんだから)。

いまあらためて福居良が“時の人”になったのは、音楽それ自体の雄弁さはもちろん、ストリーミングやサブスクリプションで音源に接することが容易になったということもあるだろう(じっさい、Youtubeに行けば、アルバム全曲を聴くことができる)。さらには、そこに近年のアナログ・レコード人気の再燃(おりよく再発もあったし。瞬時に市場から消えたけど)と、日本の音楽への興味の増大、さらに、日本に旅行してレコードを買って帰るという行為のちょっとしたトレンド化みたいな要素も合わさっているはずだ。

そういう種類の問い合わせで、最近増えたと感じているのが、フランク・シナトラだ。こちらは圧倒的にアジアからのお客さん。とくに目立つのが上海や北京など中国圏から来たという若者で、こないだは親子連れで来た子供のほう(たぶん12歳くらいの男の子)がシナトラを見つけて驚喜していた。そうかと思えば、ロバート・グラスパーが好きだという香港から来た女の子が、数枚試聴して選んだ最後に、「ねえ、フランク・シナトラはどこ?」と聞いてきた。

なぜフランク・シナトラなんだろう? 同時代のジャズ・シンガーやポピュラー・シンガーはたくさんいる。ナット・キング・コールも、お手頃な値段で手にはいる。メル・トーメだって歌が抜群にうまい。だけど彼らのトップ・ウォントは、シナトラなのだ。

彼らが惹きつけられているのは、声の持つナチュラルなぜいたくさ、なのだろうか。歌声にふっとはらむ危険さや色気、なのだろうか。そんなことを考えていたら、『ブレード・ランナー2049』に出てきた、未来のLAにあるエイジアン・タウンの3Dジュークボックスで、モノクロのフランク・シナトラがホログラムで浮かび上がって、歌を歌っているのを見た。案外、あれは未来を予見している気がする。

このことについては、まだ結論はない。もうすこし考えてみたいと思っているところ。

そういえば、「福居良のLPを探してます」と日本人のお客さんに聞かれたことは、まだない。これも不思議といえば不思議な話だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?