ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック/B面 30-10

2009年、HIS「セラピー」

自分のことを自分に教えてもらう。2005年からはじめたブログを読み返してみると、本当にそう思う。2012年に中断するまで約7年間毎日書き続けていた。まあ、当時ヒマだったからできたということもあるだろうけど。

2009年の記録を振り返ってみると、打海文三の小説「ぼくが愛したゴウスト」を読んだのも、このころ。

この小説にはすごくやられてしまった。翌年、「ミュージック・マガジン」から「相対性理論について4ページ書いてください」という依頼を受けたときも、その余熱で書いてしまったようなところがある。うなされたように書いたのに、編集者にめずらしく褒めてもらったことを思い出す。

打海文三さんは2007年に59歳で急死されていたと、本を読んだあとに知った。ぼくよりちょうど20歳上。すでに亡くなって2年が経っていたわけだけど、自分のなかでは勝手に「(残念な訃報が)続くなあ」という実感を持った。忌野清志郎さんがこの年の5月に亡くなっていたからだ。

清志郎さんに取材する機会は叶わなかったと、2011年のnoteでぼくは書いている。じつは、一度だけ、取材する直前まで行ったような話があった。

2006年に清志郎さんがナッシュヴィルでスティーヴ・クロッパーのプロデュースでアルバム『夢助』をレコーディングすることになり、そのドキュメンタリー映像のスタッフとして、リズム&ペンシルを一緒にやっていたぼくの友人が同行することになった。それに「文章面での記録も必要だと思うから、もしスケジュールがあけられるなら来ないか」というオファーがあったのだ。

そんな機会は2度とないと思ったので、それなりの準備をして待った。しかし、どういういきさつだったのか、結局ぼくの同行はナシになった。そんなの勝手についていけばよかったじゃんという話かもしれないが、レコーディングとなると勝手が違う。スタッフである友人の足手まといになるのも本意じゃなかったので、あきらめた。結局、取材も対面も一度も実現しなかった。まあ、これはちょっとしたおとぎ話みたいなもの。

ぼくが清志郎さん/RCサクセションのライヴを生涯でもっとも集中して見た時期は1989年から90年にかけて。つまり平成の最初の2年で、RCが永遠に活動休止をする最後の2年だった。

とりわけ89年のライヴは最高だった。前年の「ラヴ・ミー・テンダー」発売中止に端を発して『COVERS』発売に至る騒動は衝撃的だったし、バンドに「怒り」というパワーを与えた。しかし、それを経ての89年、清志郎さんは明らかに違うモードに入っていた。新曲を次々にライヴにかけるだけでなく、もはやそれが中心のセットリストとなり、お客を「ぜんぶ録音OKだから」と煽った。またその新曲もギターの弾き語りからできたような、とことんシンプルなものばかりで、小学生でも歌えそうな愛らしさと訴求力を持つ曲も多かった。RCのファンは、当時のぼくよりもすこし上の世代で、80年代の黄金期を体験してきた人たちが主だったから、すくなからずとまどいも客席にはあったように記憶してる。だけど、ぼくは89年のRCが好きだった。

もっというと、ぼくはRCサクセションのファンだったけど、彼らに求められている「理想のバンド像」みたいなものは、じつはすこし苦手だった。満員の野音や武道館で大盛り上がりするバンドというよりも、ひとりでさびしくしているときにほっときながらやさしくしてくれるような音楽として彼らのことを好きになったようなところがあるから。

だからいちばん好きなアルバムは『シングル・マン』。80年代ならバンド・サウンドというよりスタジオでの実験性の強い作品『ハートのエース』だった。でも、それをだれかにいうとよくへんな顔をされた。逆にいうと、ぼくの好きなRCを彼ら自身はうまくアルバムとしてまとめてくれていないという不満を10代のぼくは少なからず持ってもいたのだった。

90年に出たラスト・アルバム『Baby a Go Go』は、そういう意味では、とても心にフィットする作品だった。メンバー脱退のゴタゴタ、清志郎さんの方向性の変化、レニー・クラヴィッツのレコーディング・チームによる極端にアナログな音作りへの固執によるスタジオ内のムードの悪化など複雑すぎる背景があったことは当時は知らなかった。じっさい、20周年を大々的に祝った作品とはとても思えない地味で内省的かつ実験的なアルバムだったが、いまでも大好き。

清志郎さんはその後、メンフィスでブッカー・T&MGズと「メンフィス」というアルバムをレコーディングし、2・3'sという新バンドでの活動に進んでいったが、そこにはぼくはのりきれず、むしろ細野晴臣さん、坂本冬美さんとやったHISのアルバム『日本の人』のほうがしっくりきていた。89年のRCのライヴで聴かせてくれていた新曲は、いろんなかたちでその後に発表されたけど、たどりついた先としてはHISのたたずまいがいちばんピンときた。

「ちいさくて弱っちいほうの清志郎が好きなのね」と誰かに言われたことがある(昔の彼女だったかもしれない)。それは図星だけど、ちょっと違う。スターとしてふるまう清志郎さんの大きさや(舞台の上での)身勝手さに気持ちを救われたことも何度もあったから。だけど、ちいさいことを自分で知ってる清志郎さんだから、威張ったようなポーズをしててもちっともいやじゃなかったんだと思う。だから、まあ、図星なの。

こないだ(2019年)、レビューの必要があって「日本の人」をひさびさに引っ張り出して聴いたら、またさらに自分に響くようになっていて驚いた。サケロックオールスターズと寺尾紗穂さんがのちにデュエットしたタイトル曲のカヴァーもずっと好きだけど、いまは「セラピー」にめちゃめちゃはまってる。

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この連載が書籍化されます。2019年12月17日、晶文社より発売。


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