「あるショートショート」「日本の航空機産業」「スティーブ・ジョブズ」

「星新一ショートショート・コンテスト」の受賞作だったか、星新一の作品そのものだったか、そこは忘れたのですが、
こんな感じのショートショート(短編)がありました。

あるところに貧しいが希望に満ちあふれた青年がいた。
そこに紳士が訪ねてきて不思議な植物を与え、去って行く。
その植物は、球根部分に金(ゴールド)ができる植物で、その金が少しずつ大きくなっていく。
青年は、その金を換金して、働くこと無く、何不自由無く生活した。
その内、いつしか青年は、一人身の老人となっていた。ある日、老人は街角の占い師に自分を占ってもらった。
占い師は、興奮気味にこう言った。
「こりゃすごい。最強の運勢だ。何にだってなれる。何をやっても成功する。あんたは、成功者だ!」「あんたは、有名だろ?大金持ちだろう?」
「えええ!?」
「有名じゃない?成功もしていない?金持ちでもない?」
「おかしいな。確かに最強の運勢なのに」「まあ、今まで何もしていないのなら、そんな歳にもなって、今さら何をやっても手遅れかもしれないけど・・」

この話を思い出したのは、
冷戦で、日本は米国の航空技術に中毒したんです
オリンポス・四戸哲氏インタビュー(その1)
(2018/03/02 松浦 晋也 日経ビジネスオンライン)

を読んだから。

(戦後の)航空解禁の段階で、すでに戦争中に蓄積したノウハウが散逸しちゃってたんです。
ノウハウが散逸した一番の理由というのは、やっぱり高度経済成長の始まりだったと思います。自動車、鉄道、船に優秀なエンジニアがほとんど行きましたので。当時飛行機をもう一度ゼロから技術を積み上げて作ろうという人は非常にアナーキーな印象を持たれたんです。


その一方で、冷戦体制の中で防衛庁が設立されて自衛隊ができました。すると米軍の戦闘機をライセンス生産するという仕事が発生するわけです。
大きなメーカーにとっては大変ありがたいことです。それだけではなく、大メーカーのエンジニア、それも最先端技術を見る眼を持つエンジニアほど、米国からの情報に吸い寄せられたんです。
あの時期の日本は、米国から無制限に流れてくる新技術の中毒になった、ということです。あまりに彼我の格差が激しいものですから、来るものを学ぶことの喜びが非常に大きいものとなってしまう。
ですから、独自に自分の意志で航空機を開発しようというマインドが起きなくなってしまったんです。

お金が豊かでも、知識が豊かでも、独自に何かするマインドが起きないものなのかも知れません。

「ステイ・ハングリー、ステイ・フーリッシュ」

アップルの、スティーブ・ジョブズが2005年6月、スタンフォード大学卒業式辞で語ったスピーチの締めくくりの言葉として、有名な言葉です。

渇望し、愚かであることが何かを生み出すことにつながり、
事足りて、知恵を授けられることが、停滞につながるかも知れないという皮肉。

そんなことを思った本日なのでした。



追記です。
書き終わってしばらくたっての感想として・・・
事足りて、充足して、停滞するのは、日本のタイプ6文化の影響かも知れないと思い始めています。
そういう理由から、表題から「(エニアの話ではありません) 」という部分を取ることにしました。

日本でのベーシックインカム導入に思うこと』の追記部分に書いたことですが、内田樹が指摘するように、日本には、

ふたりで六畳一間のアパートに住み、発泡酒を呑みながらTVでサッカーを見て、たまの休みの日には甲子園球場の外野席で阪神戦を見て、帰りにラーメン屋に寄るだけで「ほっこりしあわせ」というような

そんな形での充足が有り得ます。

一方、『日本のITは何故弱いか』では、林晋がこう指摘しています。

日本社会という安定・安穏に寄りかかりたいという傾向を強く持つ社会が、現代の様に満ち足りた状態に置かれていれば、新しいものを拒否しようとするのは当然である。

このことは、『「日本のどこがダメなのか?」 中国人が指摘する日本についての感想』の中で、中国人から指摘された

日本人は「井のなかの蛙」に甘んじる

とも、つながってくる話です。

金銭的にも学術的にも、安心・安全・安定が得られれば、それ以上の向上を望まず、無茶や逸脱をしない。そんなところは、タイプ6らしいと言えます。

でも、そうなる(安心・安全・安定を得る)ために、ある程度の努力はしています。
伊藤祐靖の言葉から、日本の国民性な箇所を抜き出してみる』で引用したように、

「平均的でいたい気持ち」が非常に強いのです。
本当はただのグータラなのに「あいつはバカだ」と思われたくない。そこそこ目立たないでいたい気持ちがあるから、嫌でも勉強したりする。

こういった行動が、高度成長期の『一億総中流』を支えたのでしょう。
そして、ある時期の日本の成長を支えたりもしたのでしょう。


つまり、


これは「日本だけの話」と言えそうです。



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