3 「航」

りぃちゃんからの電話。

同じ部屋で1年間暮らして、仲良く話せるようになったのは、もう少しでクリスマスという頃だったなぁ。
3か月半くらいは同じ部屋にいたのに、殆ど会話は無く必要最小限の会話だけだった。
変わった人で、本ばかり読んでいて、なんとなく話し掛けるのが悪いようなオーラを発散していて。
本といっても勉強の本ではなくて、雑誌や普通の小説や、電子版でも日本の小説を読んでいた。
異常なくらいのきれい好きで、アルコール消毒をして、布の布巾は使わず全部ペーパー、空気清浄器は日本のものがいいからと、日本のものをネットで買って。
部屋から出て来ないなぁと、そおっと隙間を開けて部屋を覗くと、6枚板のパソコンに向かっていて。
変わった人だった。

航は苦手だった。なんでこんな人と同じ部屋なのかなぁと。自分のお金で来ているのではないので、学生ばかりのアパートメントに、割当てが決まっているようで。文句も言えないし。
話し掛けるな!そばに寄るな!と、体全体で他をはねつけているような感じだった。

「航ちゃん、元気にしてる?」
「はーい、元気です。りぃちゃんもお元気ですか?
お仕事は順調ですか?」
「ありがとう、大丈夫よ。 航ちゃん、何か必要なも のなぁい? ロボちゃんは元気?」

週に1度は決まって電話をくれる。

仲良しになるまで時間がかかったけれど、一旦仲良しになったら、濃い付き合いだったように思う。
りぃちゃんが日本に帰る日、泣いて泣いて、声を出さないようにベッドに潜って、いくら泣いても涙が止まらなかった。
りぃちゃんは、1年の予定だからと、1年が終わると、さっさと帰ってしまった。
家がある人はいいなぁ、親がいる人はいいなぁ、
航はりぃちゃんと接して、家族っていいものなんだなぁと感じて。

航は、女の子。母親は日本人、父親はイスラエル人。二人とも車の事故で亡くなって。
航は高校卒業までは日本の祖父母のところで暮らしていて。両親が共に学者で、その血をひいたのか
航は学校の薦めで公費で、大学はアメリカのマサチューセッツへ。
母親は、飛行機の中で出会って意気投合して、結婚して生れたから、名前は「航」にしようと決めたらしくて、あまり、べたべたタイプの母親ではなかった。男の子でも、女の子でも「航」だったらおかしくないでしょうと、子供に関しては興味がないような人だったから、あまり母親との深い思い出もないので、航にとって家族という定義は、ピンとこない。
父親は、殆どアメリカにいて、母親は日本にいるようでいて実際は、よくあっちこっち植物採集に歩いていたので、航はいつも家政婦さんと暮らしていたようなもので。

ロボット、背丈が20㎝ほどの小さなロボットが航の友達。父親が作ってくれたロボット。
母親は植物学、父親はロボット工学だったはずで。
小学校5年の時、二人は亡くなった。車の事故で。

もうすぐクリスマスの頃に、りぃちゃんのお母さんが来て。
その瞬間から、二人は打ち解けたようだった。
りぃちゃんのお母さんは、とっても優しくて、美しい人で、こういう人を非の打ち所の無い人というのだろうなぁと思って。

「航さん、りぃは変り者だけど、根は優しいのよ、
航さんとも仲良くしたいみたいだけど、りぃの方が6才かしら年上でしょう、、それでね、航さんに遠慮してるみたいよ、、何を話したら良いのか分からないみたい。 仲良くしてあげてね。」

そんな事をお母さんは話して、航は驚き、6才も上? 同じくらいと思っていたのに、、と。
りぃさんは大学院を終えて、少し経営学を学ぼうと考えたとかで。

航もりぃも小さい。小柄。それでも航は155㎝はあるのに対して、りぃは152㎝。
アメリカにいると、まるで子供。その上、二人ともに、童顔。

お母さんは、お米を炊いて、おにぎりを作ってくれて、大根を煮てくれたり、美味しい味噌汁を作ってくれたり、それに、航がうどんが好きというと、
小麦粉でうどんを打ってくれたりして。
航は、りぃちゃんのお母さんが大好きになって。
そして、りぃちゃんとも仲良しになって。
それからは楽しかった。航にとっては、生まれてから初めてのハッピーで楽しい日々で。
ずっと続いてほしい、このままずっと続いてほしいと願っていた。

いつか、航はりぃちゃんの不思議な能力を知って。それで、さらに二人は強く結びついたのかもしれなかった。あえて、口に出さなくても航が思うことは通じているのだから。

公費で来ている航に対して、りぃは自分のお金で来ていて、毎日株の取引もしてお小遣い稼ぎもしていて、航に色々なものを買ってあげたり、休みの日には、旅行したりした。
二人一緒にいると、双子?とよく訊かれ、それも航は嬉しくて。

りぃの方では、妹が出来たような嬉しさで、自分が姉の麗子からしてもらったように、航にいろいろしてやりたかった。両親が存在しないなど、姉も兄も何もかもいないなど、想像できなく、よく、寂しさに負けずに真っ直ぐに生きてきたなぁと感心していた。

日本に帰ったら、必ず私のところへ来るのよ、
それがりぃの口癖になって。
自分が日本に帰る時には、航のルームメイトになる人をりぃが決めて出ていくつもりでいて。

航は、母親より父親の血が強かったのか、父と同じロボット工学に進んでいた。
現在はロボットの進化は凄まじいものがある、
人間の感情さえもくみ取れるようなロボット。
行動的に何かをするだけでなく、人間の精神的な友達になれるロボットが生まれてきている。

航は、自分が幼稚園児の時に父が作ってくれたロボットをロボちゃんと呼び、片時も離さず持ち続けているが。
そのロボちゃんは、非常に優れていて、ほとんど人間のように航と会話が出来る。
航は、ロボちゃんをこえるものを作りたい、人の心を理解できるロボットを作ることが目標になっている。

航について、りぃちゃんの両親が親代わりのようになってくれていて、公費の方も打ち切り、経費はすべてりぃちゃんの両親が払ってくれている。

昨年の夏は、3週間、日本の北海道の札幌に。
ボストンと似たような気候で、とても過ごしやすく、大学を卒業後はとにかく、りぃちゃんのいる札幌に行こうと決めていて。

りぃちゃんの後のルームメイトは、知子さんという人。札幌から来ていて、知子さんも小さい人。
仲良くしている。知子さんは、りぃちゃんのお母さんの知りあいのお嬢さんとか。

今は、知子さんと一緒に、パンを焼いたり、うどんを作ったり、お味噌汁を作ったり楽しくやっている、いるけれど、早くりぃちゃんに会いたいと思う。

しっかり勉強して、今年の秋には札幌に行ける、行く予定で。4年間はあっという間。
札幌に行って、大学院に進む。りぃちゃんの家から通学する。そんなに甘えていいのかなと思ったりするけれど、りぃちゃんは、妹なんだから、よけいな心配しないのよ!と。

「欲しいもの無いの?
本当に大丈夫? 風邪引かないようにね。
知子さんと仲良くしてね。

あのね、太郎さんと決まったわ。結婚。
でも、家がすぐそばだから、いつも会えるから。」

「私、式に出られる?」
「勿論よ。それで、秋にするみたいよ。」

「わぁー! 良かった、、楽しみね。」
「私は、楽しみより、心配なの、なんにも出来ないお嫁さんなんですもの、今は、毎日、訓練よ、、」

じゃあね、、またね、、知子ちゃんにも宜しくね、

いつも、それで電話が終わる。

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自分の出来ることをしよう。
助けて、助けられて。
人が寂しそうにしているより、幸せそうにしているほうが、こちらも幸せ。

真っ直ぐに生きる人は美しいと思う。
寂しくても辛くても、必死に真っ直ぐに生きる人は愛おしい。

ありがとうございます。嬉しいです!
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風花会那

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