そよ風のしっぽ 「お雛様」

節分が過ぎる頃、母はお雛様を飾り始める。
桐箱から出して、丁寧に飾り始める。
母が実家から持ってきたものは、姉が結婚する時に持って行き、現在飾っているものは私用にと、姉が結婚した年に買ったもの。
無くてもよいのにと、私は思っていて、お雛様新しくしたと聞いても、特別な感情もなかった。
その頃はすでに私は札幌にはいなかった、いないのに新しく用意するものかなぁくらいの感覚で。

東京の母の実家には、古い雛人形が飾られてあった。母に用意して毎年飾っていたものを、母が結婚する時に持って行ったので、母の母、私にとっては
祖母がお嫁入りの時に持ってきたものを、飾っていた。それは、いかにも年代物というシロモノで、
リビングに飾ると、毎年、その雛人形を見るためだけに、または写真を撮らせてほしいと、人が来て。
病院なので、来客には慣れているのか、祖母は嫌な顔もせずに、客を迎い入れていた。

祖母の母親が嫁入りに持ってきたモノとかで、明治のモノらしかった。
私は、さして人形に興味もなかったけれど、来客達と祖母の会話から、人形の着物の織りが現代のものと違う、髪なども違うと知り。

人形を作る、雛人形に限らずに人形を専門に作っている人形作家が存在することも、その頃に知った。
日本人形や雛人形などは、日本の伝統工芸の部類にも入るようで、職人芸なのだろう。

母は、ゆっくり優しい手捌きで飾りながら、
「この人形は、太郎さんのお姉さんいるでしょう、
ほら、、先日、来られた淑子さん、淑子さんのお雛様と同じなのよ。
太郎さんはお姉さんが二人いらっしゃるでしょう。
上のお姉さんが結婚される時に、それまで飾っていたお人形を持って行ったでしょう、それで、淑子さん用にと新しく買ったのね、作家さんが同じなの、
これを買う時に、太郎さんのお母さんが紹介して下さってね。
目や口もとが、同じ。ちょっときつい、見方によると、気品があって、プライド高い感じ。

淑子さんも、りぃちゃんと同じで、人形なんて、
いらないって。
りぃちゃんは、淑子さんと仲良しになるかもね。
同じ雛人形なんですもの。」

そんなものかな、雛人形の作家さんが同じ、それって、仲良しになれる要素なのかな?
母は、私が首を傾げているのを気付いたのか、ふっと笑みを浮かべて、淑子さんはご主人と仲良しなのだと。
太郎さんの両親は、淑子さんに関しては、一般的な女性としての幸せなど諦めていたらしい。
それが、とても仲良し夫婦なんだそうで。
母はお雛様が導いて下さってるのねと。
まさか、ドクターでもあり、非科学的なことには無関心の母の言葉とは思えなかった。

母は続けて、
「りぃちゃん、太郎さんが来られたでしょう。婚約指輪を持ってきた日よ。
あの日は、お父さんが、あなたの事でね、太郎さんに来て頂いたのよ。
少し、書斎にいたでしょう。
お父さんは、りぃちゃんが男性との性的なことに無知だから、驚かさないように頼んだようよ。
清潔で潔癖なのは、良いことよ、でも、もう、りぃちゃんは今年30才よね。
それで、太郎さんに、よろしくってお願いしたのね。
すると、太郎さんは仰有ったそうよ。
任せて下さいって。りぃちゃんは、自分にとってはお雛様のようなものだって。
大切に大切に、雛壇に飾っておきたいくらいだって。

素敵ね。太郎さんだったら大丈夫よ。」

「素敵かな? それって、私が人形ってことじゃないの? 人形のように太郎さんには逆らわないで。

綺麗な着物を着て、雛壇に座って微笑んでいる。

全然素敵じゃない!」

母は、驚いた顔をして、
「まあ! 太郎さんの気持ち解らないのね、
りぃちゃんは、そういう点が、子供なのよ。
お父さんは、同じ男として、安心したみたいよ。

男は、短絡的に肉体の欲望で動くことあるの、
太郎さんは、それはしないと言ってるのよ。
ゆっくり、待つ。りぃちゃんを雛人形と思い、大切にするという意味よ。
太郎さんは、りぃちゃんの頭脳や能力は、きちんと評価している、、単純に人形になっていなさいという意味じゃないのよ。」

欲望ね、、こんど、太郎さんに、その欲望について訊いてみようと思った。

私だって、知ってる、学校で習ったし、結婚て、どんなことするかだって、少しは知ってる、本だって沢山読んでるし、結婚した友達だっているんだから、、無知とは、違うのに。
気がついたら、もう30才になるという事で。

私は、自分がお雛様になって、雛壇に座っている姿を想像して、窮屈なものだろうなぁと。
足が痺れて、立てなくなるんじゃないかなぁと。

式の日取り、披露宴など、着々と準備が進んでいるようで。私は、柏木理那になるのか、実印も変えなきゃ、あ、証券会社や銀行やカード会社や、
ぜーんぶ、変更しなきゃならないと思うと、なぜか寂しいような。すぐ近くであっても、寂しいような感覚に襲われてしまった。

嬉しい!! ありがとうございます!
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風花会那

コメント6件

とんでもないです!むしろ、本当に楽しく読んでいて面白いなと感じたので思わずコメントしたくなったのですが、気分を害しましたら申し訳ありません。
いいえ、ちっとも、嬉しく思います。shingoさんの文章は、完ぺきです。いつも、上手な人だなぁと。ビジネス文書のようで、エッセイの要素も含んでいて。いつも、勉強させてもらっています。

ありがとうございます。
立派なお雛さまに見えます。写真を取りにご来客がというお話、納得です。
宮崎県の綾町では、お雛様を戸外に飾るようです。バックが緑。面白そうとは思いつつ、未だ実物を見る機会がありません。
コメントありがとうございます。お雛様の行事は各地でありますよね。人形は、簡単に捨てるものではない、魂が宿っているから、、。我が家は、そのあたりのことにウルサクて、ぬいぐるみなども、勝手に処分出来ない雰囲気があります。

外に飾るお雛様、見てみたいですね。
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