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「思い出やったのにな」



母がフリマアプリにハマっていた、らしい。

らしい、というのは私はもう3年近く母と話をしていないし会ってもいない、偶然すれ違ったことが二度あるがそのときは一時間ほど動悸が止まらなくて、とにかく私と母はそういう関係性だから直接聞いたわけではなく実家に用があったときにオルゴールやらが減っているのに気がついて父に問うたらそう答えられた、というだけのこと。



父が今とは別の企業にいたときの記念品に、その会社のロゴの入った飛行機のプラモデルがあった。
いま飛んでいるのとは違う色で、だからその時代のものだと一目でわかる飛行機だった。

何度引っ越しをしてもいつもリビングボードに飾ってあった。
大人になってからも、実家を出るまでは年に2回くらい目に入っていた。

それを母は売った
父も私も知らないうちに、勝手に。


あの会社で働いていた当時の父はあんまり家にいなかったし、
ただただ大きくて怖くて
物投げるし怒鳴るし殴るし
塾のテキストとか破かれたし
入園式では抱きかかえられただけで恐怖でギャン泣きしたけど、
飛行機が嫌い(タバコが吸えないから)で出張がつらいつらいと嘆いていたけれど、
その後転職して40代で隠居みたいな生活に入ってからの父よりその頃の父の方が、なんというか生きているなって感じがしていた。している。

ないものねだりというか、ただ過去が美化されているだけなのかもしれないけれど、当時はみんな生きてたなあって、懐かしく思ってしまう。

だから、その当時をそう生きていたという証のような物がなくなるって、とっても悲しい。

お父さん、あの会社で働いてたよね、大変そうだったよね、でも充実してたよね。
そうやっていつか話せるようになったらいいなってずっと思ってたのに、そのときにあの飛行機がないって、すごく寂しいや。

いくら私と父の頭に残ってたって、目に見えるものがひとつもないなんて。

断りもなくそれを売るなんて、大した値段になってないとかそんなことは関係なくて、リスペクトがなさすぎるよ。

なんの役にも立たないけど
ただ場所をとるだけかもしれないけど
母にとっては嫌な時代の象徴かもしれないけど

「思い出やったのにな」

物に執着しない人がそんなことをぼそっと言うと、苦しくなっちゃう

みんなそれぞれ大切な物は違うけど、なんでそんなもの大事にしてんの?って思っちゃったりすることもあるけど、口出しせず手出しせずいたいよね

めちゃくちゃ嫌味たらしくて気分害してくるような、どうあってもリスペクトできない人もたくさんいるけど、できるだけ傷つけずにいれば傷つけられずに済むのかな、でもやっぱり嫌な人とは関わりたくないな。

かしこびとに囲まれて生きるにはまず自分が賢くならねばならない。

私には何もないなっていうのがコンプレックスでどうしようもなくて、せめて語学力くらいはつけたいなって気持ちもありつつドイツまでやってきたわけだし、なんかせめてもうちょっと、もうちょっとくらい外国語がんばって、ほかにも誇れるものを身につけて、少しくらいは自信つけたいよ。

胸張って帰国するなんて一生無理かもしれないけど、この先もずっと日陰でじゃないと息できないままかもしれないけど、もうちょっと。


父は被害者じゃなくてガンガンに加害者だけど、だからこそ見てると苦しくなる
人を傷つけたいわけじゃないだろうに、って。
不器用さに泣きたくなる

母は私のこと嫌いなんだろうな憎いんだろうなってわりと疑いもなく言い切れるけど、父は私のことが大好きで期待してて心配でたまらないんだろうなって思っちゃう。

そうやってあんなどうしようもない父親の肩を持つ自分が気持ち悪くていつか私も父のようになってしまうのではないかと悲観的になって誰も傷つけたくなくて嫌われたくなくて、人と関わるのをやめたくなる

私も彼に負けず劣らず不器用で、自意識ばかりが育って、やっぱり、どうせ、きっと。

傍若無人に振舞ってたら誰も助けてなんてくれないよ、近寄ってくれないよ
そんなことを父に思って自分のことのようで絶望する
バカみたいだ


どうせ私はそういう人間なんだ

みんな応援してるよとか口では言うくせに私の人生を遠いところから覗き見してエンタメかのように楽しんでるんだ、それだけなんだ

誰も近寄ってきてくれなくて助けてなんてくれなくて私の人生に巻き込まれる覚悟なんてないくせになにが、なにが。

能力はあるのに、なんて言われても私はなにも出来ないし例え能力があったとしても誰も近くにいてくれなかったらなにも出来ないんだどうしようもないんだ
サボってるんじゃないんだ一人じゃ無理なだけなんだ君だってそうでしょ

必要なら必要って言ってよ好きなら好きって言ってよ言ってくれなきゃわかんないよそうじゃないなら出てってよ私の世界から

触れたら怪我するかもしれないけど傷つけるかもしれないけどそれくらいの覚悟もなしに安全なところから勝手に見てんじゃないよ
私は違うなんてペラペラな言葉はいらないからもっと近づいてよ傷ついてよ
私が壊れても壊れない愛がほしいよみんな大嫌いだ


優しくなりたいのにちっともなれない

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