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旅なんて、だいきらいだ

旅をしたって、何にもならない。

お腹はすくし、
お金は減るし、
寒いし、
かと思ったら暑いし、
思わぬ日焼けはするし。

視力が良くなるわけでも、
愛する人に巡り会えるわけでも、
理想の体型になれるわけでも、
ムダ毛が減るわけでも、
偏差値が上がるわけでも、
まつ毛がぐぅぅんと伸びるわけでも、
世田谷区の一軒家が手に入るわけでも、
学歴がつくわけでも、
ホクロがなくなるわけでも、
そばかすが消えるわけでも、
虫歯がなくなるわけでも、ない。

行き先が先進国でも、発展途上国でも、いいや日本国内だろうと、
旅行なんてだいたい不便で、困ったことばかりで、いつもと違うことに戸惑ってしまう。

そもそも、旅の準備だってめんどくさいことばかり。

いつ行くのか
どこに行くのか
何日間行くのか
誰と行くのか
交通手段はどうするか
どこに泊まるか
何を食べるか
ビザの申請は必要なのか
現地通貨はいくら両替すべきか
気候はどうか
治安はどうか

全部考えて、調べて、決めないといけない。

「ああもう日本の湿度は無理だ、逃げよう。梅雨の間にオーストラリアに行こう!」と思い立ったって、

オーストラリアのどこ?
ビザはオンライン申請できる?
直行便のある都市は?
現地でUberは走ってる?
ドミトリーでも平気かな?
オーストラリアドルのレートってどれくらい?
Tシャツだけで平気かな?長袖もいるかな?
ああ、会社に休むって言わないと。
ベランダにいる盆栽のお世話を頼める人なんて、知り合いにいたかな。

など、たくさんたくさん、めんどくさい。

しかも最近は便利で不便で便利だから、だいたいなんでもオンラインで予約ができて、
でもどのサイトで予約するかも悩んじゃって、もう行きたくない!ってなる。

予約をミスってキャンセルする手続きとか、めちゃくちゃめんどくさいし、飛行機や電車の出発時間を気にして緊張している時間なんて、ほんとうに心臓に悪い。

こんなにもたくさんめんどくさくて、疲れて、お金が減って、眠くなること、誰がするんだ?と、思う。
満員電車や湿度やコンクリートの照り返しや物価の高騰や消費の冷え込みに文句を言いつつ悲惨な事件に悲しくなって自分が被害者でも加害者でもないことにどこかで安堵し、スーパーマーケットに立ち寄って安い蒟蒻と鶏肉、それに旬のアスパラなんかをカゴにつっこんでついでにバニラアイスの誘惑に負けたりして、ああ今日も生き延びたなあってどこかに犬の鳴き声を聞いたりする日々のほうが、ぜったいに、ぜったいに、ぜっっっったいに、楽だ。

「ときどき」とか「ふと」とかじゃなくて、もう、毎日毎時間、毎分毎秒、そう思っている。

なのに、なのに!
私は今、ヨーロッパにいる。

去年の今頃、何かに突き動かされるかのように、いや引っ張られるかのように、とにかく気がついたら「旅に出る!」と公言していて、気がついたら本当に旅をしていた。

親に連絡して、職場には辞めますって言って、
ロシアのビザを申請し、船やシベリア鉄道のチケットを予約し、初めてペイパルで支払いをした。
家の更新をしないと不動産屋に伝え、各地の宿を予約した。

ドイツ大使館にビザ申請の予約をし、満員の日比谷線に乗り込んだ。
混雑度がつらすぎてちょっと泣きながら、でも必死に耐え、それでも大使館の職員に突き返され、我慢できずふつうに声をあげて泣いた。
朝の広尾で。
もういやだあぁぁぁって。

面倒だし、つらいし、お金かかるし、体力足りないし、もうやめようって思ってもおかしくなかった。
なのに、私は旅をした。

ドイツに着いて、言葉がまったくわからないことに絶望し、現地でのビザ申請で気持ちを削られ、私はこの世界でなんの役にもたたない、最底辺の人間だと感じた。
それでも、その後、国内をふらふらとし、ルクセンブルクやフィンランド、スイスにリヒテンシュタイン、オランダ、そしてベルギーなど。各地をふらふらとしている。
交通手段や宿を決めるのに毎回泣きそうに悩んで、それでもなぜか、気がついたら、いつもどこかにいる。

旅をしたって、何にもならない。
他の人が言うように、綺麗な景色で心が洗われるだとか、息抜きだとか、経験になるだとか、見たことのない世界を知れるだとか、命の洗濯だとか、そんなことは一切思わない。

あれだけの移動をしたって、私は強くなんてなってないし、責任感とかもないままだし、お金の管理も苦手だし、虫歯にもなるし、すぐに高熱を出す。
先週なんて、たこ焼きを落としただけで泣いて、おにぎりを潰しただけで死にたくなった。
歯医者の治療費(300€)も払えていないままだ。

だから、私は旅になにも期待していない。
ただ、気がついたら私はどこかに吸い寄せられていて、抗う力を持たない私はいつもそれに流されているというだけだ。

ここまで私を突き動かすものはなんなのだろう。
旅が、目的地が、世界が、どこかにいる誰かが、私を呼んでいるのかもしれない。
そう自分を納得させ、今日も私はGoogleマップを開く。

次はどこへ行こうか、旅なんてだいきらいだけど。

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