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KNIGHT FALL 悲運の騎士団

『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』

夏休み中に山崎圭一『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』を読んだ。こうした類いの数ある世界史の参考書に手を出してきたが、どれも途中で挫折してしまったものだが、この参考書は読み通すことができた。それは、この本には画期的な方法がとられているからだ。大きく3つ。

①各地域ごとに歴史を学ぶ
②主語をなるべく変えない
③年号を書かない

①各地域ごとに学ぶ
通常、世界史の教科書は、中東のオリエント文明からササン朝なんとかが出てきたところでヨーロッパのエーゲ文明まで戻り、帝政ローマまでやったところでインドのインダス文明までいき……などと、ある地域の途中で別の地域に移り、また途中まで進むとまた別のところに行き、という具合にあっちにいったりこっちにいったりする。が、この本はそれがない。文明の成立から大航海時代以前までのところが、それぞれの地域ごとに書かれているので、ヨーロッパが終わったら、エジプト、インド、中国といったかたちで概観したあとに、大航海時代で世界が交錯していく模様がわかるようになっている。

②主語をなるべく変えない
地域ごとに説明されるので、あまり主語があちこち行かないので、いまはどこの話をしているんだなということが非常にわかりやすい。他の地域は、脇役として登場する。だいたい教科書では、じっくり読んでいないとあちこち行ってそもそも主語がよくわからなくなることがある。

③年号を書かない
これはあってもいいのではと思っていたが、あると案外ノイズになっていたことがわかった。だいたい、あの戦争は何年にあって、何年にどこどこが統一されたなんてことは時間が経てば忘れるものだから、まずは、あのあとにあれがあってああなったという流れがわかればよい。日常生活を送るくらいだったらその程度の認識でいいので、年号がないとすらすらと読めていい。

というわけで、受験生には、導入として、社会人には教養として、世界史の入り口としては非常にいい本だと思うのでおすすめだ。

十字軍の末路

さて、そんな世界史をおさらいしているさなか、十字軍のところを読んでいた。聖地エルサレムを奪還するために、何度となく遠征を繰り返しては大量の犠牲を出し、実質勝利は第一回目だけという悲しい結果に終わった十字軍。本のなかでは見開き1ページ程度で終わってしまうのだが、よくよく考えれば、地図を見るとすごい距離を移動している。この距離を何百人、何千人と移動し、野営し、戦い、殺し、死に、奪い、燃やし、殴り、犯し、……ということを繰り返していたのだろうことを想像すると恐ろしくなった。

しかし、その一方で、そこでどんな英雄が生まれ、どんな悪党が生まれたのか興味があった。Netflixをあさっていると、「KNIGHT FALL 悲運の騎士団」というドラマが見つかった。どうやらテンプル騎士団の最期が描かれたドラマらしいので見てみることにした。

KNIGHT FALL 悲運の騎士団

テンプル騎士団は十字軍の予備軍のような存在だ。テンプル騎士団の戦士たちはみな修道士(モンク)なので、女も酒も禁じられている神に身を捧げた戦士だ。伝説で「最後の晩餐」で用いられた「聖杯」を見つけたなどというものもあり、そうした神秘的なところが現在のフリーメーソンなどと結びついている。ドラマでも、そうした敬虔な戦士たちの様子が描かれ、シーズン1では「聖杯」を巡った争いがメインだ。

ただ、史実ではテンプル騎士団はフィリップ4世によって解散させられるばかりか、幹部は火あぶりの刑になる。テンプル騎士団の総長であったジャック•ド・モレーが死の間際に「王も教皇も呪われろ」的なことを言ったのだとか。実際、その年に二人とも死んでいる。そもそも、なぜフィリップ4世がテンプル騎士団を弾圧したのかというと、この王様はずいぶんながくイギリスと小競り合いをしていたこともあって、お金がなかったのだ。そこで、エルサレム巡礼者から謝礼をもらって存続しているテンプル騎士団は銀行のような仕事もしていることから、かなりお金を持っているのではないかと企んだと言われている。それにしては15000人もの団員を逮捕してしまうというのはやりすぎだ。罪状も、殺人、同性愛、異教崇拝、小児殺しなど、おぞましいものをならべたてている。

というわけで、この「KNIGHT FALL」というドラマは、なぜそうまでしてテンプル騎士団を弾圧に追い込んだのかということをフィクションとして想像し、その動機を描いている。

もう少し、史実の確認を。
フィリップ4世といえば「端麗王」として知られる。つまりイケメンだ。ドラマの俳優もイケメンだ。

だが、その「端麗」ということにはあまり触れられない。むしろ、イケメンであったとしてもなんのメリットもないというのがこのドラマでの描き方だ。先にも述べたが、この王はテンプル騎士団弾圧のためでもあるのだろうが、主にお金のために聖職者にも課税を行い、ローマ教皇のボニファティウス8世がブチギレてフィリップは破門にされてしまう。が、そんなものは御構いなしのフィリップはボニファティウスを襲撃して監禁。命からがらボニファティウスはローマに逃げのびるも「憤死」(ブチギレすぎて死ぬ)したと言われている。そして、ローマにいる教皇では「使えない」のでフランスにいて意のままに操れる傀儡教皇をたててしまう。これがアヴィニョン捕囚というものだ。これによって、神の兵であるテンプル騎士団を弾圧しやすくなるというのも狙いだったのかもしれない。

聖杯の行方

さて、シーズン1ではどんな話になるのか。
※ここからネタバレあり。
主人公はフィリップではない。テンプル騎士団のマスター(支部長のようなもの)であるランドリーという騎士が主人公だ。彼はフィリップと友人のような関係性であり、周囲からの信頼や人望も厚い。そして、彼の育ての親であるゴドフリーからもその才を見込まれている。

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