伝説としてのロバート・ジョンソン――天童荒太、ボブ・ディラン、古川日出男

(初出:「ロックジェット」Vol.33、2008年)

『孤独の歌声』

 天童荒太の『孤独の歌声』という小説のなかでは、ロバート・ジョンソンの〈カインド・ハーティッド・ウーマン・ブルース〉がたびたび流れる。天童といえば、子ども時代のトラウマをテーマにしてヒットした『永遠の仔』(1999年)で知られるミステリー作家。1994年に刊行されたサイコサスペンス『孤独の歌声』は天童のデビュー作であり、現在は大幅に加筆修正したものが新潮文庫に収められている。
 コンビニ店員として強盗の被害にあいながらも共犯だと疑われた青年・潤平と、女性連続監禁殺人事件を追う女性刑事・風希(ふき)が出会う。天童はこのデビュー作においてもトラウマを中核的な要素に使っており、潤平と風希はそれぞれ、過去に大切な友人を亡くしたという心の傷を持っている設定だ。そして、風希が初めて潤平の部屋を訪ねた際、彼がCDで流した曲がロバート・ジョンソンだった。潤平はアマチュアで音楽活動しているが、バンドでうまくやれない彼は、ギターで弾き語りしている。『孤独の歌声』では題名通り、主要人物がみな孤独を抱えており、潤平と風希がその意味で同類であることを察する場面で流れるのが、ロバート・ジョンソンなのだ。作中では彼の歌声について、潤平の視点からこう表現される。

 ときに太く、ときに高く、彼が孤高の魂を歌う。

 この場面で興味深いのは、潤平と風希が直前まで聞いていたのがドアーズであり、CDをロバート・ジョンソンにかえてから2人の会話で話題にされるのが、宮沢賢治とタルコフスキーであること。潤平と風希は、宮沢賢治の「貝の火」やタルコフスキー監督の映画に触れ、「ひとりぼっちの音、ひとりぼっちの色や光だけど、きっとひとりぼっちじゃないって感じさせるような」表現について語りあう。もちろん、この会話の背景で流れ続けているロバート・ジョンソンは、作者の天童にとって「ひとりぼっちの音だけど、きっとひとりぼっちじゃないんだって感じさせる音」としてとらえられているのだろう。

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