見出し画像

ゼッケン67


毎日新聞:2019年1月10日 夕刊
「諦めない」 東京五輪“ビリの英雄”の魂、孫娘が受け継ぐ
https://mainichi.jp/sportsspecial/articles/20190110/dde/041/050/023000c


 1964年東京五輪の男子陸上1万メートルで、周回遅れの最下位ながら最後まで走り抜き、観衆の胸を打った選手がいた。セイロン(現スリランカ)人のラナトゥンゲ・カルナナンダさん(当時28歳)。その姿は日本の国語の教科書でも紹介され、「67」のゼッケン番号とともに語られてきた。あれから55年。「諦めない」祖父譲りの精神を受け継いだ孫娘が、日本で介護福祉士の資格を目指している。(以下略、というか有料記事。LINEでは全文読めたので以下要旨)

カルナナンダ選手は、最後から2人目の選手がゴールした後、一人でフィールドを何周も走った。最初はあきれたように見ていた観衆が、どんどん声援を送るようになり、ゴールした時は優勝したような歓声を浴びた。この逸話は71、74年度版の教科書「小学新国語 四年」(光村図書)で「ゼッケン67」という題で掲載され、カルナナンダ選手が、娘に、東京オリンピックで、負けても最後まで頑張ったことを教えてやるんだと語った、と締めくくられている。

カルナナンダ選手は1974年に亡くなっているが、当時10歳だった娘は、長じて自分の娘にもそのエピソードを語り継いだ。「祖父は『他の国だったら、拍手は湧かなかっただろう。なぜなら日本人は戦争に負けて復活した。だから気持ちが分かるんだ』って」と語る、孫娘オーシャさん(27)は2年前に来日し、介護福祉士の国家資格を目指し、群馬県内の専門学校に通う。母に電話すると「負けてもいい。でも一度決めたことは最後まで諦めないで」と励まされる。祖父のゴール映像をスマホで見て、自分を奮い立たせる。「今もわたしの心の中で、おじいさんは走っているんです」(以上、記事要旨)

はい、わたしはその、74年の光村図書の国語教科書を使って勉強しました。

国語教科書に登場する、わたしの2大スリランカ人は、カルナナンダ選手と、ポディマハッタヤさんです(ポディマハッタヤさんについてはまた別の話...「いっぽんの鉛筆の向こうに」(谷川俊太郎)という名作絵本の中で、鉛筆の材料となる黒鉛をスリランカの鉱山で掘っている人がポディマハッタヤさんです。これが光村の教科書に掲載されていたのは平成4年~7年で、わたしも子どもも教科書では読んでいないが、偶然絵本を読んで感銘を受けたわたしが、子どもの教室で読み聞かせをした。自分の子どものいないクラスも全部回った)。カルナナンダ、という、今まで聞いたことのない響きの名前。かけっこいつもビリだった自分も、くさったりせず、真剣に走れ、と言われているような気持ちになるシチュエーション(冷静に考えれば、オリンピックの代表なんだから、自国では1,2番くらいに速い人だったんだろうけどさ)。そりゃ1万メートルという、トラックを25周する競技、たとえ周回遅れでも、2周3周遅れでも、既定の周回数走らなければ自分の記録は残らなくなっちゃうんだから、恥ずかしくても悔しくても25周しない訳にはいかない。そう思うと美談でもなんでもないといえばない。

でも、大河ドラマ「いだてん」の初回を見てわかるように、「オリンピックに出場する」ということがどういうことか、今のような、エリート育成システムの頂点にいる人が、成果をあげた結果として出場するというのと、まったく違った価値観があったことも想像に難くない。いだてん(1912年ストックホルム大会)とカルナナンダ(1964年東京大会)ではまた半世紀違う訳だが、スリランカ共和国が成立したのが1972年だから、カルナナンダが東京に来た1964年には、そこは自治領(英連邦王国)セイロンだったのだ。セイロンから唯一の陸上競技選手として東京に来て、5000メートルと10000メートルに出場。10000メートルを3周遅れでゴールした2日後に5000メートルも予選落ち。でも、それは祖国にどれだけ伝わっていたのだろう。帰国したカルナナンダを人々はどのように迎えたのだろう。

『他の国だったら、拍手は湧かなかっただろう。なぜなら日本人は戦争に負けて復活した。だから気持ちが分かるんだ』という、カルナナンダ選手の印象は本当に当たっているのだろうか。そもそも、当時の国立霧ヶ丘陸上競技場にいた観客のうち日本人はどの位の割合だったんだろう? 「いだてん」見ていれば、当時の日本人がどの程度オリンピックにinvolveしていたのか、わかるのかな?

スポーツエリートの歴史は、貴族とか大金持ちとかの歴史と伝統に較べればずっと短いものだよな、と書きながら思った。

#カルナナンダ #毎日新聞 #ゼッケン67 #陸上競技 #光村図書 #国語教科書 #スリランカ #セイロン #ポディマハッタヤ #いっぽんの鉛筆の向こうに #オリンピック #いだてん

 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?