思弁逃避行 10.態度とカトラリー

【10.態度とカトラリー】

 「あいつは人によって態度をコロコロ変える」という言葉を揶揄として耳にすることが多々ある。そんなもの当たり前ではだろうか。まるでそういったことをする人間は裏表がある底意地の悪い奴だとでも言っているようだ。

 パスタはスプーンでは食べない。プリンに箸は使わない。パスタはフォークに絡めて、プリンはスプーンで掬うように、対象が変わればその都度どういった言動のカトラリーが一番ストレスなく対応できるのかを考え選ぶことの方がよっぽど賢いやり方ではないだろうか。

 極稀にどんなものを相手にしても箸だけを器用に使う人もいる。けれども、そういったことを言ってくるのは概ね焼き鮭をスプーンでほじっては「これだから焼き鮭は食べずらいんだ」とぼやいているような輩だ。迅速に箸の持ち方を覚えていただきたい。

 そういえば中学の頃、プリンを箸で食べる阿呆がいた。いったい彼は何がしたかったのだろうか。スプーンという便利な道具があることを教えてやったが、俺はこっちの方が慣れてるからと意味のわからない見栄を張って頑なにスプーンで食べようとしなかった。全く意図がわからない。彼に対して私はいったいどんなカトラリーで挑めばよかったのか。食べ物に例えるならば彼はいったい何だったのだろうか。あれかな。ほら、なまことか。あれ、なまこって何を使って食べる料理になるんだっけか。いや、べつになまこなんてわざわざ食べなくてもいいか。

 そう考えると、世の中にはストレスを感じてまで食べなくていいものも、たくさんあるのかもしれない。

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