何色の何

何色の何
Bの住む街に引っ越してきたA
Aは引っ越しの作業をその街に住むBに手伝ってもらう

 引っ越しの作業をするAとB
A:おーしこれで最後かー
B:そうだな
A:いやー助かったよ。引っ越した街に知ってるやつが一人住んでるってだけでこっちの木もだいぶ楽だよ。引っ越しも手伝ってもらって悪いな。助かったよ。
B:いいんだよいいんだよ。俺も近所に友達とか全然住んでないしな
A:お礼じゃないけどさ、俺なんか飲み物買ってくるけどなんか買ってこようか?
B:お、いいの?あーどうしよ。じゃあ緑色の炭酸で
A:…緑色の炭酸?
B:緑色の炭酸
A:メロンソーダ?
B:緑色の炭酸ならなんでもいい
A:色の問題なのか
B:とにかく、緑色の炭酸ならなんでもいいから
A:なんだよそれ。わかった
 部屋を出ようとするA
 B念を押す
B:いいか、緑色の炭酸だから間違えるなよ。
A:その執念はなんなんだ
B:あとおまえ、
A:なに
B:赤色のクマには気をつけろ
A:なんだそれは
B:いいか、赤色のクマには気をつけるんだぞ
A:見たことないわ赤色のクマなんて。いるわけないだろうこんな駅から徒歩5分の穏やかな住宅街に。
B:ちがう、ちがうんだ。駅から5分の穏やかな住宅街だからだ
A:…そういう習性なのか赤色のクマは。もういいよ買いに行くぞ。
 B静かにうなずく
A:…いってくる。
 部屋から出て行くA
 しばらく心配そうに出て行った方向を眺めるB
ー 間 ー
 焦りながら戻って来るA
B:はやいな、ちゃんとお前緑色の
A:赤色のクマ!!!!
 出口を指さしながら
A:赤色のクマ…!
B:お前言ったやんか
A:赤色のクマ…
 出口を覗き込むふたり
A:…いったかな?
B:気をつけろっていったやんか
A:気をつける
 もういちど出ようとするA
B:あ、おい。お前、青色の鷹には気をつけろよ
A:青色の鷹
B:気をつけろ
A:どんな生態系なんだこの町は。コンビニスーパー郵便局まで近所にそろった住宅街に鷹?
B:コンビニスーパー郵便局まで近所にそろった住宅街だからだ
A:そういう習性なんだな?!そういう環境だと青くなるんだな?!
B:そういうんじゃない。青くなるとかならないじゃない。青い鷹がいる。(悟ったように)
A:わかった。気をつける。
 少し呆れてAは再び出口へ向かう
 Bは心配そうに出て行く方を覗く
ー 間 ー
 焦りながら戻って来るA
A:青色の鷹!!!
 呆れているB
A:青色の鷹…!
B:だから言ったやろが
A:青色の鷹……もういったかな?
B:俺の話を信じないからだろうが。あんなに気をつけろって言ったのに。
A:ごめん…今度は気をつけるから
B:ほんまやぞ。ここはただの町じゃないからな
A:なんてところに引っ越してきてしまったんだ俺は…
 気を落ち着かせるA
A:ごめんな、いい加減買ってくるよ。
 気合を入れて出口へ向かうA
B:おい
 悟ったように振り返るA
A:なに
B:桃色のチーターには気をつけろ
A:桃色のチーター
B:桃色のチーター
A:…わかった、わかったよ。もう正直何色の何が出てきても驚かないよ。
B:生きて帰ってこいよ
 深く頷くA
 ゆっくり出口へむかう
 出て行ったAを誇らしげに眺めるB
ー 間 ー
焦りながら帰ってくるA
A:空色のじじい!!!
B:空色のじじい?!それは俺も知らん!俺もどうにもしてやれんやつやそれは。
A:空色のじじい…!
B:何やそいつは。なに空色って、なにのどこが?!
A:もう、こう、全部
B:気持ち悪。
A:もういったかな…
 一度もと座っていた場所に座り直すA
A:なあもう俺怖いよ。
B:空色のじじいが?
A:それもそうだけど、この町がだよ。もはや生態系どころかそれぞれが独自の彩りを手に入れすぎなんだよ。もうさ、俺が出ようとするたびに一個ずつ言うんじゃなくて、一旦全部まとめて教えてくれないか。何色の何がいるのか。
B:この町のか。
A:この町の。自分の住んでいる場所を『この町』っていうやつ現実で初めてみたよ
B:しかたないな。そうだな…まず、瑠璃色の空
A:いい町やね
B:あと茜色の絨毯
A:紅葉もたのしめるのね
B:あと銀色の冬景色
A:季節折々のね、よさがあるんだね
B:あと薄紅色の可愛い君
A:…一青窈かな?
B:まあそのくらいかなこの町にあるのは
A:一青窈混じってたよね?いま。
B:おるからな
A:おるんや。あ、というかさ、お前気をつけろっていうだけで赤色のクマが出てきたときどうすればいいのか教えてくれないから、俺も逃げて帰ってくるしかできないじゃんかよ。対策を教えてくれよ
B:ああ、それやったら簡単や
A:おお、あるんだな、ちゃんと対策が
B:あのな、赤色のクマは青色の鷹によわい
A:ここでやくにたつのか!青色の鷹!
B:そういうことやね
A:いや、でもまって、青色の鷹に対する策がないよ
B:それも大丈夫。青色の鷹は金色の亀に弱い
A:新しいの出てきた!金色の亀!さっきので全部って言ったじゃん!
B:ごめん、金色の亀がおる。
A:おお、じゃあ、おるんやな、そのへんに。
B:おるおる。でも金色の亀にも気をつけないといけない
A:金色の亀も害があるのかー!
B:噛まれると実家の母親が寝込む
A:いややな。
B:いややろ
A:うん。どういう原理で実家の母が寝込むのかちょっとよくわかんないけど、いやだね。
B:心配になるもんな
A:…ちょっと母さんにメールしていい?
B:ええで
 Aが携帯をいじる
 二人の自撮りをする
A:送っとく
 ー間ー
A:送った。じゃあ、金色の亀の対策はどうすればいいん
B:金色の亀は、
A:あ!ちょっとまって!わかったかもしれない
B:お、いってみ?(嬉しそうに)
A:金色の亀は、赤色のクマに弱い…?
B:おいおまえ。…わかってきたな
A:なるほどなぁ。三すくみやったんや
B:結局な。
A:この町が平和に成り立っている理由がわかったよ。
B:これだけ知ってればもう大丈夫や
A:ありがとう。行ってくるわ。
B:いってらっしゃい

出て行くA

しばらくして何色とも何型ともいえない謎のものをもって帰ってくるA

A:なあこれ…
B:いやそれは何色の何

暗転

こちらから投げ銭が可能です。どうぞよしなに。