見出し画像

この若手劇団を見よ! 2022 @東京

無名の劇団を観て批評する演劇クロスレビュー。
年末特別企画として、今年観た若手劇団と来年観たい若手劇団をそれぞれが書きます。去年からタイトルが変わりました、長かったので。去年の貼っときます。

執筆者はヤバイ芝居、平井寛人、公社流体力学の3人です。  

          

        ヤバイ芝居(観劇者)

    正調演劇クロスレビューはそんなにできていないのに企画物はしっかりやる演劇クロスレビュー。そういうとこかわいい

さて「今年観た」でいうと去年「来年観たい」と書いた劇団をヤバイくらいに演劇を観ない演劇アカウントa.k.a.ヤバイ芝居は観られたのか?結果は2勝1敗。善戦。優しい劇団食む派を観た。1敗がとてつもなく痛い。コスタリカだ。違う。南極ゴジラだ。もう4連続で南極ゴジラを見逃している。気が狂いそう。優しい劇団は本拠地・名古屋で遂に観た。『どうしようもなく、別れ』この演劇への思いをどうしようもなく分かれと大声で静かに伝えてくる。いい。何回でも書くが全てのジャンルでアーカイブをディグってリブートする現在に最も不向きな演劇を深掘りして早稲田小劇場まで辿り着く劇団なんて優しい劇団だけだ。しかもガワは一見クラシックなのに中身はユースカルチャー。夏からの野外劇連発(全部面白い)とSNSによる動画拡散(YouTubeやTwitterで確認)はまさに「過去こそ未来」。古い皮袋に新しい酒を注いでも大丈夫。来年は東京公演が予定されている。食む派は『パへ』『ウインナ売り』とクオリティの高い作品(しかもブレない)を連発する手腕も凄いが足どりの速さが凄い。来年は座・高円寺のショーケースにアゴラまで決まっている。とっとこ先に進むとっとこ食む派。需要と供給を一致させる舵取りは楽ではないと思うが来年も注目。
 で、今年はショーケースや演劇祭やワークインプログレスという場でいっぱい観られたのがラッキー。SIMAISIBAI蔭山あんなぺぺぺの会令和座ザジ・ズーみちばたカナブンキルハトッテ安住の地。いきなり「来年観たい」に飛ぶがこの辺りの本公演を全部観たい。特に令和座とザジ・ズー。共に『劇的な昨夜』という優良ショーケースで観たんだけど令和座は底が浅いてか底が深いてか底がなくてもコップじゃないか(©︎岡本太郎)状態。プロレス的暴力は下手なのにガチの暴力はガチという不穏さにお腹よじれる。公社流体力学の「マッドマックスみのある盛夏火」という煽り文句に惹かれて観たらマジで「世紀末の盛夏火」だったザジ・ズー。しかもZ世代なのにX世代的な世紀末。BAR公演の20分で永劫回帰を幻視させた。シームレスとかナラティブとかそろそろ手垢のついてきた方法論を超えてきそうな野蛮さと見てくれが魅力。
 後、猿博打。メンバーの2人を南京豆NAMENAMEの舞台で観て劇団のアカウント見に行ったら、ちょっとエッジの効いた三角形。直感で観たい。そして、来年こそなにがなんでも南極ゴジラが観たい。もう絶対にだ。あ、来年こそ演劇クロスレビューをいっぱいやりたいてか読みたい。もう絶対にだ。皆様、よいお年を!

      

   平井寛人(尾鳥ひあり/FUKAIPRODUCE羽衣)

 今年は私にとって近年稀にみるほど豊作だった。その背景には様々な事象がもちろんあると思うのだけど、ごく稀にしか観れない根本的なアートとしての私好みの作品が、特に夏から秋にかけて、コロナウイルスが少し落ち着いていたように思えたタイミングで乱立したように感じた。とはいえ単なる偶然なのかもわからないけれど。
 若手劇団、というところに絞ると、まず書き置いておきたいのが(私は若手劇団を対象としたショーケース企画を2本プロデュースしていて)佐藤佐吉演劇祭関連企画『見本市』とLIVEバーでの舞台ショーケース《劇的》『劇的な昨夜』に参加した計15団体は職権を用いた上でいずれも紛れもなく私のイチオシで(2企画とも参加団体に被り無し、つまり推したい団体は他にも数団体あるのだけど)、どの団体も、参加企画で私も一観客として満たしてくれる上演をしていた。あんまり沢山自分で書くと本記事の本意に沿わないと思うので、団体名だけ書き置いて終わります(食む派、紙魚、南極ゴジラ、キルハトッテ、オドルニク、海ねこ症候群、蔭山あんな、ヴァージン砧、SHIMAISHIBAI、素人集団禅♡裸、ザジ・ズー、ハコベラ、令和座、ぺぺぺの会、みちばたカナブン)。
 『今年観た若手劇団の作品』で特に痺れたのは、キルハトッテ「どこどこのどく」、南極ゴジラ「ホネホネ山の大動物」「地底探検」、令和座「クリエイター偏差値35」、ムニ「ことばにない」前編、ダダルズ「QPQの地点」、紙魚「劇的なるものをめぐってまごつく二人」、劇団二進数「脇役人生の転機」だった。ムニとダダルズ、南極ゴジラは中では知名度も高めかと思っているけれど、なにがなんで名前が知られているかみたいなのが不透明で本当に私が好みで面白いと思えるのかは観ないと分からないのが小劇場での常なので、そういう意味でも、イチオシというところで書き置いておく。
 このあたりは、現在描かれているという演出家の肉体の軌跡が舞台に躍動感を与え、そこに時間・空間芸術に寄与する才気に触れられているという歓びが誠確かにあり、むずかしく言葉をこねくり出そうとして自己解釈に励もうとさせられるでもなく率直に観劇の嬉しさを芽吹かせてくれた。センスが瑞々しく、高い集中力でチューニングされている上演という事が、シンプルながら私の中でただ欲されているものなのかもしれない。その上での各々の世界観での真実は、神話のように私を刺激してくれる。
 上記の作品は、その単純明快な私のような人間を、単純明快に満たしてくれる脂が乗った事象であった。荒々しくても、見せ場の範疇では練られきっていて本来的な意味でのウェルメイドな(無難で小ぎれいというやつではなく)作品を、私は愛していて、上記へ強くラブを綴る。
個々の上演について、観た方がいれば、話を振っていただいてお喋りできると嬉しい(^^♪
 『来年観たい若手劇団』としては、まず魔女まじっく天国。来年の4月中旬に「劇場版 魔女まじっく天国01」を絵空箱でやるという。2017年旗揚げで、なんだか色々な経歴もあって、結構有名なのかもしれないが、私は知らないし、良い意味で無頼な予感を生んでくれている若手劇団と同じ匂いがしているので、鼻息荒くして上演を待っている。
 そして何のオファーの連絡を出そうとも梨のつぶてな魔法の竹馬ミナもやんの復活を未だに待っている。旗揚げ前の短編の上演がちょー面白かった。
今年東京学生演劇祭を制して来年3月の全国学生演劇祭に進んだ劇団二進数にも刮目するべきだと思う。ここも全セクションで華がすごい。ぐんぐんと伸びていくと思う。ただ公演前に触れられる数少ない諸要素のセンスが、圧倒的に私は気に食えず、その辺りの食えなさも私の事を演劇で殺してくれそうな雰囲気があって、今後の動向に注目している。
 あとは蒸気展望の安孫子さんと人格社の奥山さんが組んだ演劇ユニット部活の公演「叫び声」が大江健三郎を原作?、参考に来年2月に催されるらしく、骨太かつウェルメイドな作品を輩出していくユニットの登場になりそうで楽しみにはしている。
 それから演劇でいいから何か着てよ葛生くん。来年1月に何かを起こすと聞いているので、非常にワクワク。
 1月2日のアントーニオ本多氏の誕生日におこなわれる素人集団禅♡裸第4回公演「ロボコップvs猿かに合戦」はいよいよロボコップがなにかと戦うという題目的構図からロボコップという作品と古典作品?という作品ごとの衝突になっており、新境地に目が離せない。
 あとは名前だけ知っていて結成したての団体で注目しているところはあるけれど、活動最初期の団体の先行きが全く読めないこの頃なので(お笑いに転向とか、若手団体の次のステップ的な団体の解散のニュースとか、ちょっとステップアップのロードマップの作り方を明確に示している団体って大きな界隈に参加している団体を除いてあまり見ないですよね。バカでも夢を語るというか、そういう団体を応援していきたい。各視点に視座を置いた持続可能な創作の魅力って、結構共産主義的な仮想の魅力の面が強く、そうした時にその団体はどこまで外様と仲間を分けて持続していくのかなど、主宰の業務って繊細でないといけないと信じれば信じるほど年々キツくなっていると思う。そういう主宰も、刹那的なバカ野郎たちも、面白ければ参加できる土壌を用意できるのは、一観客あるいはプロデューサー的商業スタンスの持ち味であるから、どんどん良い意味で絡んでいったり、断絶が埋まっていく業界になっていくといいなと思ったりする。悲痛な声を叫ぶセクションに加えて、そろそろ、それだけではサイレントマジョリティは関わらないようになろうとするだけだから、紳士ににこやかに楽しんでいこうという見せ方も誰彼が担っていかないとならないと感じる。もちろん懇切丁寧に。大変な事だけど)、こんなところで。
開いた公演をやってくれている知らない若手劇団の公演なら、どこだって観たいけどね!
他薦でこの友達ヤバイんでこの友達の公演を観てくださいとか学生さんとか全然呼んでください! たまに芸大とかの学生が校舎でやっている公演を観てめちゃくちゃ痺れたりもするからそういうのもガンガン観ていきたい(^ω^)
 ではでは!(^^)/

       

     公社流体力学(美少女至上主義者)

 私は2020年代結成の劇団で若手四天王を作ってみた。
 
TeXi’s(2021年結成)
オドルニク(2020年結成)
キルハトッテ(2021年結成)
劇団ヅッカ(2022年結成)
 
四天王筆頭、TeXi’sは昨年書いたので割愛。
オドルニク、キルハトッテは共に佐藤佐吉見本市で初見。
 オドルニク「夜の踊り方」は、暑苦しくてバカバカしいギャグを連打しながら、大小様々な演出を目まぐるしく繰り出していき視覚が最も喜ぶ空間を作り出していた。でもきちんと物語で感動した。今年はコント短編集『全マシカタメ豚ダブルバイセップス』を上演する予定だったが中止。次世代のダウ90000はここだ。
 キルハトッテは、短編「バター」長編『どこどこのどく』を見た。どちらも人がバターになったり体にキノコが生えたりするナンセンス設定を用いながら女性同士の親密で複雑な(時には歪んで見えることもある)関係性を描いた。でも、一貫して重苦しい「バター」とトボけた味わいから破茶滅茶トンチキなラストに繋がる『どこどこ』と、どうやら色々書けそう。
 劇団ヅッカは今年旗揚げ準備公演を行った劇団で、実は正式には旗揚げしてない。『演劇:恐怖について』はスノッブ的な現代口語演劇だが、あまりにも無茶苦茶な、普通の劇団なら周囲に止められそうな大仕掛けが炸裂する。お前の目的は何や(©️おいでやす小田)と思うような謎の時間を過ごし、旗揚げ前なのにすっかり夢中。
 という感じで、四天王をまとめると
 手数のTeXi’s、力のオドルニク、
 関係性のキルハトッテ、正体不明のヅッカ。
何だかヅッカがいちばん強そう。勿論、今後入れ替わるだろう。ヅッカなんて旗揚げ前だし。
  紙魚は惜しくも四天王から外れた。「劇的なものをめぐってまごつく二人」は大量の情報と演出を濁流のように観客に流し込む生き急いでるみたいな演劇で、見終わって10ヶ月経ったいまが一番面白い。期待の劇団だが演出家コンクールで今年選出され世間が評価しているならわざわざ四天王にしなくていいじゃんと思って外した。
 複合創作ユニットwakka「phantasma alley」も観てから10ヶ月経った今が一番面白く感じる。無名ながら佐藤佐吉演劇祭に選出された劇団は、男と女のSF幻想譚をスポークンワーズを交えつつ演じる作品で難解な内容は賛否両論だったけど皆思い出せ、すっごく面白かった気しない?
 劇団生存煩悩『残滓』は交通事故によって娘を失った父親の話である。幸福だった過去と絶望の現在を対比して描くが、次第に幸福な過去に違和感が出てくる。終盤になり父親が妻と娘を支配するモラハラ野郎で幸福な家族は父親の妄想だったと明らかになる。ラストに父親は、なんの罪もない加害者の息子に心からの謝罪をしながら彼をメッタ刺しにする。平山夢明を髣髴とさせる邪悪な家族ドラマだった。
 四日目四回目は東京学生演劇祭で観た「うにこん」がナンセンス支離滅裂な話を勢い熱量団体芸で見せていきラストにシニカルな社会批評があるようなないようなみたいな作品。面白かったが入賞した劇団二進数、ターリーズと比べるとまだ粗さがあった。しかし、主宰の旦妃奈乃が演出を担当した多摩美術大学卒業公演『エッグ』は、野田秀樹の戯曲をリミックスし勢い熱量団体芸が見事に炸裂して見事だった。
 演劇ユニットにもじは特殊な団体で上記のキルハトッテ主宰の山本真生とみちばたカナブン主宰の渡邊結衣がそれぞれの団体の作品を試作するための団体。今年、ワークインプログレス『こうさてん』を上演。新たな団体の形に期待。
                             【 ここからが来年みたい所 】
  てては俳優・岡本唯とヴァイオリニスト・加藤綾子によるインプロユニットである。インプロ団体は数あれど今度上演する『作品 #2 -俳優とヴァイオリニストによるインプロヴィゼーション』はシアタースポーツ的なところとはまた違う即興芸術が観れるのではないか。 
 宮森みどりは、パフォーマンス、映像、インスタレーションを行ったり来たりするアーティストで現代人をテーマにしている。『Trace a Day』 vol.01 研修医、は実在の研修医の一日を再現するパフォーマンス。
 B子は、自作のパズルをドーンとのっけたりした謎のチラシを折り込んでいる人。内容もジャンルも性別も調べてもよく分からずまさに謎の怪人物。イズモギャラリーでの新作『JAPONISM』のチラシも怪しげで気になる。
 劇団お片付けパフェ、2023年旗揚げとなる劇団。何故気になるかというとまず出演者及びスタッフの名前。新井ブリュレ、橋本プリン、原田コーンフレーク、角田ストロゥベリィ、中田アイス、渡辺ウエハース、大島ジュレ、中﨑ホイップ 増田ポッキー。全盛期の超新塾かよ、みたいな名前の付け方。HPの劇団員紹介もバカ丸出し。更に作演が3人もいる。「パフェを食らわば皿まで」は1人1作であらすじもそれぞれの趣味が出てそうでかなり幅広い作風が見れるのではないか。
 才能のある若手がたくさん登場して嬉しいけれど、同時に才能ある人が演劇業界に絶望し辞める話も沢山あった。今年出たハラスメントもまだ氷山の一角という話もある。演劇は素晴らしい、演劇業界は最低。心から演劇を愛するものとしてはこの現状を悲しく思う。この記事は単なる一記事だけど、書かれた劇団のお客さんが一人でも増えたらそれは演劇業界健全化に何かの役割を果たせるのではないかという希望を込めている。
 来年は演劇人全員が金持ちになりますように。

執筆者の紹介

ヤバイ芝居
(1971生。ヤバいくらいに演劇を観ない観劇アカウント。since2018秋。Twitterでヤバイ芝居たちを応援していたら九龍ジョーに指名されて『Didion 03 演劇は面白い』に寄稿したのが、人生唯一のスマッシュヒット。
noteを始める。)

平井寛人
(演出家、脚本家、作曲家。尾鳥ひあり主宰。FUKAIPRODUCE羽衣所属。普段は、事態が膿んで膿ませてぐっじゅぐじゅになったところから思うままにやってみる、というテーマで表現活動をしている。佐藤佐吉演劇祭初のショーケース「見本市」、バーで行う演劇ショーケース「
劇的」のプロデュースも行っている。)

公社流体力学
(2015年旗揚げの演劇ユニットであり主宰の名前でもある。美少女至上主義啓蒙公演を行い、美少女様の強さを知らしめる活動をしている。やってることが演劇かどうかは知らんが10代目せんがわ劇場演劇コンクールグランプリ。来年、新作『ミッシェリーの魔法 -1928年、ラジオジャック-』(原作:萩田頌豊与@東京にこにこちゃん)をやります。
note

演劇クロスレビューは執筆者を募集しております。東京近郊在住で未知との遭遇に飢えている方を求めております。(一銭にもならない活動ですので、その点はご了承ください)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?