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忘れられたもの

―あれは、何だろう。

近所の公園の、少し奥のところに、それはあった。
木々が生い茂る場所。林というには足りず、かといって広場とも言えない。木々がお互いの居心地がいい距離感をもって空に伸びている場所だ。
初めて見かけたときは、そのまま通り過ぎた。夕刻で辺りが薄暗かったこともあり、家路を急いでいたから。
二回目に見かけたときは、昼間だった。夏の暑い日で、熱気による蜃気楼のように、空間が揺らいでいるように見えた。
三回目に見たとき、これはもう偶然ではないなと思った。
奇妙に感じられたのは、自分以外はまるで気づいていないように見えたことだった。
確かに木々が生い茂る場所に、それはあった。
それでも全く人目につかないかというとそうとも言えない。しかし、程近くを通るジョギング中の若者や、日課の散歩をしている老人といった、その辺りを毎日通っているだろう顔ぶれも、全く気づいていないように見えた。それどころか、その近くを通り過ぎるときに「完全に無視している」としか思えない。そこに建物のような障害物があるかのように「避けている」。
顔見知りでもない彼らに自分が「あそこに何があるんですか?」とは到底聞けなかった。ましてや家族にも聞く勇気はなかった。万一自分だけが見えていて、他の誰からもそれが見えていない場合、変人扱いされた挙句に、昨今の精神医学ブームに乗じて精神科に連れていかれてしまうかもしれない。
結局誰にも相談できることなく、ついに四回目に、それを見た。
これは偶然ではない。朝、まだ人がそれほどいない早朝に、家を出てその場所へ「確認しに行った」。
やはり近所の、木々が生い茂っていて目立つ場所ではないが全く目につかないというわけでもない少し奥まったところ。そこにそれはあった。
恐る恐る近づく。
付近を歩いた人が避けていたような、障害物はやはりない。しかし、確かにあった。
半径2kmはありそうな穴が、ぽっかりと空いていた。
淵へ近づき、そっと覗いてみる。

―今住んでいるところとは全く違う、地下の街が広がっていた。

白い建物のようなものが穴の周りをぐるりと埋めるように広がっていた。その建物を飾るかのように、蔓がはびこっている。古い建物のようにも見えるけれど、敢えて蔓をはびこらせている芸術作品のようにも見えた。
霞のような靄がかかっていて、すべてを見渡すことはできなかった。

吸い込まれそうな気がして、一歩下がってみる。
すると、穴の周りに階段のような、狭いけれど足を引っかけて降りていけそうなところが見えた。

この地下の街は何なのか。
自分だけが見えているようなこの穴の先は、何なのか。
好奇心がじわじわと疼きだす。同時に、何があるかわからないところに一人で飛び込むのは危険だという警鐘も響く。
どうするかとしばらく悩んだ。
どのくらい悩んだだろうか。ふと気づくと陽が先ほどよりも上っていて、人がまばらに出てきたようだ。
呆然と穴の前で立ち尽くす自分は見られているのかいないのかわからないが、気に留めている人は皆無のようだった。
この穴の中に入っていくことを見られるのは何となくいけないことのような気がした。名残惜しさを感じながら、地下の街を目に焼き付けて、踵を返した。
そして、改めてこの中へ進むのか、進まないのかを決めることにした。

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在宅リモートのWeb屋さん / 物を書くこと、好きです / 4歳と1歳を育児中のフリーランス / サイト : https://wm-web-se-pg.com/ /WordPressテーマNao Light-NAOT-開発者
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