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デイヴィッド・マンロウのCDが久しぶりに発売

今回はCDの宣伝です。

古楽奏者のデイヴィッド・マンロウのCDが久しぶりに発売されました。今回、そのCDの一部の解説の翻訳と執筆をさせていただいたので、みなさんにデイヴィッド・マンロウについて知っていただくことも含めた記事です。
お付き合いください。

デイヴィッド・マンロウってどんな人?

今でこそ、バロック音楽を中心として古楽を当時の楽器や奏法、スタイルで演奏することは一般的になりつつありますが、それが実践されはじめたのは半世紀ほど前の1960年前後からです。
先年亡くなった、指揮者のニコラウス・アーノンクールリコーダー奏者で指揮者のフランス・ブリュッヘンチェンバロ奏者のグスタフ・レオンハルトなどはまさにその草創期からの古楽奏者のレジェンドみたいな人々だったわけです。

これらの3名は生まれが1930年前後ですが、デイヴィッド・マンロウは1942年生まれで、10年前後年下にあたります。そのため活動は1960年代中頃以降と少し遅れます。
マンロウは最初、ファゴットを学びますが、学校に飾られていた古楽器と民族楽器に興味を持ち、リコーダーをすぐに習得し、その後、木管系の古楽器を幅広く演奏するようにあります。同時に当時の文献、楽譜を渉猟、研究し現代に甦らせるようになります。
その基盤となったグループがロンドン古楽コンソートであり、このグループを主宰し、中世からルネサンスにかけて当時はまだほとんど取り上げられていなかった、マショー、デュファイ、デ・プレなどに始まり、中世からバロック時代、さらには現代の作品を録音していきます。
そして、初来日公演が1976年秋に予定された矢先、1976年5月15日に謎の自殺を遂げます。まだ33歳でした。

マンロウがアーノンクールたちと大きく異なるのは、演奏スタイルやレパートリーがどうのこうのということ以前に、単に演奏にとどまらない活動を旺盛に行ったことです。
自らが演奏し、グループを指揮するだけでなく、研究し、古楽や古楽器を一般のリスナーに広めるための様々なプログラムを実行して、まさに伝道者であったことです。テレビ局と共同で古楽器を紹介する番組を作成し、それは現在でもDVDで購入することができますが、とても貴重な映像資料です。
またBBCのラジオ番組のパーソナリティとして5年以上勤め、古楽だけでなく、プログレッシブロックに至るまでを語り
紹介したことは伝説となっており、このような活動によって、イギリスのリスナーは古楽を知り、知識を得て、それが今まで継承される基盤を作ったといえます。
そして旺盛な録音活動で50枚以上のアルバムを残し、さらには研究の成果として「中世・ルネサンスの楽器」という包括的な楽器解説書とともに、それらの楽器の音資料というべきアルバムも作り上げられたのはマンロウ以外にはいなかったでしょうし、これからもいないでしょう。
さらに少し風変わりな仕事としては、ケン・ラッセルと映画作成に携わり音楽を担当してもいますが、なんといっても、ショーン・コネリー主演のチープな風変わりなB級SF映画「未来惑星ザルドス」の音楽も担当していたりするのです。
さらにいえば、彼とロンドン古楽コンソートが演奏した録音の一部は宇宙探査機ボイジャーに搭載されたゴールデンレコード(地球の生命と文明を伝えるレコード)に選ばれ入っているのですから。

たった33年の人生(モーツァルトよりも短い!)でこれだけの活動をしたのは驚異であると同時に、やはり早世は惜しまれるわけで、だって今まで生きていてもまだ74歳ですから、まだ音楽活動してて不思議ないんですからね。
今年はちょうど没後40年ということもあり、タワーレコードからは「ゴシック期の音楽」が復刻されましたが、このワーナーによる5タイトル10枚のCDの発売は、この天才的古楽の万能人の業績を偲ぶにはとてもよい機会だと思われます。

さて、やっと今回のCDの紹介ですよ。

今回発売のCDについて

11月9日に発売されたのは次の5タイトル計10枚です。

1)「宮廷の愛」(3枚組)
2)「デュファイ ス・ラ・ファセ・パル」(1枚組)
3)「ネーデルランド楽派の音楽」(3枚組)
4)「リコーダーの芸術」(2枚組)
5)「グリーンスリーヴズ」(1枚組)

発売はワーナーミュージックジャパンの古楽レーベル「オリジナーレ」からです。

まず、特筆すべきは音質です!!

今回のCDはマスターテープからデジタル化したものをリマスタリングしているのですが、40年前の録音とは思えないクリアさに驚いてしまいます。楽器を演奏する息づかいもわかるほどです。これだけでもLP時代も知っている方にもぜひ聞いていただきたいし、えー、今更40年前の演奏?って思っている新しいリスナーにもぜひ聴いてもらいたいところです。

さて続いて各アルバムの内容です。

1)〜3)までは14から16世紀の声楽曲、器楽曲、ミサで、
1)が以前ヴァージンから出ていた「デヴィッド・マンロウの芸術vol.1〜3」に相当、
2)がvol.4、
3)がvol.5-7に相当します。

ただし、1)には以前の盤には入っていなかった楽曲が1曲追加され、2)では以前CD化された時に削除されていた1曲が戻り、3)では現在販売されている輸入盤ではCD2枚組とするために削除された14曲が含まれています。(上記のバラ売り3枚の時の状況に戻されてセット化された状況になります)
4)と5)はマンロウがリコーダー奏者として録音したもので、4)は国内盤
初CD化、5)に至ってはLP発売以降どこでもCD化されておらず、今回の日本語版が世界初CD化
という貴重なものとなっています。

次に簡単に各タイトルの内容を紹介しておきます。

1)「宮廷の愛」

マショーとバンショワ、デュファイを軸に14、5世紀の愛を歌った音楽、さらにエスタンピやバスダンスといった当時の舞曲からなります。レスキュレル、ソラージュなどいろんな同時代の作曲家の作品も入っています。

2)「デュファイ:ス・ラ・ファセ・パル」

当時の有名なシャンソン「もし私の顔が青いなら」の原曲と器楽編曲とともに、ディファイがこのメロディを元に作ったミサ曲がセットで聞くことができます。

3)「ネーデルラント楽派の音楽」

ジョスカン・デ・プレを中心に16世紀のフランドルの音楽を、シャンソン、ミサ曲、器楽曲と多彩に集めています。バンショワ、イザーク、アグリコラなどこちらもいろんな作曲家の器楽曲、声楽曲を聞けます。

4)「リコーダーの芸術」

中世、ルネサンス、初期バロック、後期バロック、現代とリコーダーがどのように変遷したかを曲目で描きます。中世のエスタンピからホルボーン、ヴィヴァルディ、バッハといった代表的なバロック時代の作曲家の作品からブリテン、ヒンデミットという20世紀を代表する作曲家の作品までと多彩です。

5)「グリーンスリーヴズ」

これはマンロウが亡くなる3ヶ月前に録音した生前最後のアルバムです。イギリス音楽の黄金時代をリコーダーで表すアルバムで、17世紀のパーセルやダウランドを前半、20世紀のヴォーン・ウィリアムズ、ラッブラ、ウォーロックなどを後半に配置しています。

マンロウを再び甦らせよう!

先ほども述べたようにマンロウが亡くなって40年も経過し、録音もあまり売られていない状況だったので、最近の古楽ファンの中にはマンロウを知らない人も増えてきているようです。リコーダー奏者といわれてもブリュッヘンは知っていてもマンロウは知らないなんてこともあるようです。
今回の声楽、器楽アンサンブルのアルバムの日本語版は約二十年ぶり、リコーダー系はいずれも初の日本語版です。輸入盤でももちろん購入できますが、日本語解説、歌詞対訳付きでお安く買える貴重な機会です。

これほどの内容で1400円から3100円って日本語盤として超お買い得!

1)から3)については基本的には以前の日本語版の解説等をそのまま掲載していますが、4)と5)については初の国内盤CD化ということもあり、4)のマンロウによる詳細な曲目解説の翻訳、さらにそれに付随する形でのリコーダーの歴史についての小文、さらに5)の曲目解説を担当させていただきました。
拙い文章ではありますが、最新の情報
盛り込んだものになってますので、ご興味のある方はぜひ手にとっていただければと思います。
どんな内容が書いてあるかはこっそり、次の写真をみてくださいね。。。

こんな感じで盛りだくさんです。
「リコーダーの芸術」なんて解説だけで40ページ近くありますから。。。

ってことで、ぜひ、これを機会に再びマンロウのすばらしい演奏に耳を傾けてみませんか?

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