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クラシック音楽ファンが減ってるってほんと?!(データで確認してみよう)

一昨日あたりツイッター(そして、そのまとめ)で話題になったのが、これです。

「なぜクラシック音楽の人口が減り続け、今も激減しているのか」をとてもわかりやすく説明→分かり易すぎると話題に

この発言の内容(というか比喩)にわかりやすい、という人がある程度いる、ということについて、少し考えてみたいと思います。

要点としては3つにわかれます

1 クラシック音楽はそんなに敷居が高いのか
2 クラシック音楽を敷居高いイメージにしてるのは誰か
3 実際のところクラシック音楽のファンは激減してるのか

ってことで、最終的には具体的な数値の一つとして「日本プロフェッショナル・オーケストラ年鑑」のこの10年ほどのデータを参考にしてみたいと思います。

1 クラシック音楽はそんなに敷居高いの?

まずは、冒頭のツイートの比喩の私の解釈は、

「クラシック音楽に全く無縁だった人が興味を持とうとした時に、気軽に入れるものをアドバイスしようとする人がいる一方で、高級で高尚で勉強しないとダメだよ、という上から目線の人がやってきて、その人のおかげで敷居が高く、楽しめず、結局クラシック音楽のファンは減っている」

と言っているのだと思います(この解釈自体が全然間違ってるよ!っていうなら、それを教えていただけるとありがたい!)。

私自身は、この発言自体が正しいかということよりも、(共感する人が多いことからもわかるように)そのように「クラシック音楽」のイメージが作られているということに問題を感じます

で、実際のところ体感的にどうでしょう?
冒頭の発言者は、何をもって激減していると感じているのかは不明ですが、少なくとも私の周りのクラシック音楽のコンサートにある程度行く機会のある人は、クラシック音楽ファンが減っていっている印象なんて持ってないようです。
悪くて現状維持、もしかしたら増えてるかもしれないという感じが率直なところ。

とりあえず体感的なことでいえば、今、ちょうど開催されている「東京・春・音楽祭」にせよ、ゴールデンウィークに全国各地で開催される「ラ・フォル・ジュルネ・ジャポン」にせよ、盛況が続いています。
たしかに日本の経済状況が良くない状態が続いて、オーケストラの運営は厳しい、自治体からの補助金は減少気味というのはあっても、それはファン層の量とは別のところですしね。

そして正直なところ、冒頭の発言者が言うような、敷居の高さを、先に挙げた音楽祭は率先して取り除いていますし、以前私が取り上げた書籍「わからない音楽なんてない 子どものためのコンサートを考える」で取り上げられている、東京交響楽団による子どものためのコンサートシリーズも常に会員は埋まります。
コンサートの質やコンセプトに疑問が残るものや上手くいかないものもあるでしょうが、そんなにしかつめらしく行くのがクラシック音楽のコンサートではない、という状態に着実になっていってると思うのですが。

では、そうなると冒頭の発言者のイメージはなんなのか、ということになります。

2 クラシック音楽を敷居高いイメージにしてるのは誰か

実際にはそれほどいない、というか、いなくなりつつあると思いますが、ごく一部のクラシック音楽は高尚でお勉強しないと聞いちゃいけなくて、ということを言いたい人、または書籍のせい、ということになるんでしょうかね?

おそらく、

学校の音楽教育もまずいんだと思います。

レコード鑑賞しても、結局は作曲家と作品の名前を覚えて、歴史の勉強みたいになり、その他に楽譜の読み方やら何やら楽典的なことも記憶させられるし、それでいて音楽の先生自身がすばらしく音楽を語ったり、演奏を選んで聴かせたり、自分が演奏したりするわけじゃないし。これじゃ、クラシック音楽を学校時代に好きになるのはちょっと無理ですよね。。。
そして一方では、そういう知識がないと聴けないし理解できないかのようなイメージだけは刷り込まれるし。。。

もちろん、美術作品もそうですが、勉強して知識を持った方がより理解できて楽しめるようになることも間違いありませんが、優れた作品はその予備知識なしにも楽しめるということが両立してるところもあるわけで。そこのところを、

知識を持った方がより楽しめるよ!

と言ってあげるのか、

勉強してこいよな、そうじゃないとわかんないから!!

と言われるかの違いは大きい。

で、日本人は昔から西洋文化をお勉強体質で取り込んできたし、そうやって理解するものだと思ってきたから、クラシック音楽もそういうものというのが抜け切れないし、そういうお勉強体質や、知識を持ってるのがエライと勘違いしてる上から目線の迷惑なファンもいて、それが冒頭の発言者が指摘するような害を及ぼしている、ということになるし、クラシック音楽のお固く、敷居の高いイメージが拭いきれてない(冒頭の発言をわかりやすい、と思う人が多いのならね)のでしょう。
これはぜひ変わっていってほしいことだと思いますし、変わりつつあることでもあると思います。
**その点では私は楽観的です。 **

3 実際のところクラシック音楽のファンは激減してるのか

で、実際のところクラシック音楽ファンは増えてるんでしょうか、減ってるんでしょうか?

昔からよく言われるのは、様々な音楽の嗜好を尋ねるアンケートで、クラシック音楽は興味がある、ある程度聞くという人が多くて10%あたり、ファンだと明言できる人たちが1、2%程度というものです。
全体からしてみれば、たしかに少ないといえるかもしれませんが、それは元々少ないだけであって、そこであまり増減してるかは感じませんよね。

で、イメージの話ばかりしてきましたが、クラシック音楽ファンの増減を少しは説得力を以って語れるデータはないかなと思い、ここでとりあげるのが

「日本プロフェッショナル・オーケストラ年鑑」に掲載されている年度別の演奏会総数、演奏収入、会員数、入場者数です。

バブルな頃、5万円の外来コンサートチケットも完売していたのと違い、最近は外来オーケストラでも売れ残ることがあります。でもそれはファンの減少というよりは日本の経済状況やみなさんの懐具合でしょう。
一方で、様々な大小コンサートが開かれていますが、それをすべて包括的に計測したデータもないようです。
そこで、日本のオーケストラ連盟に加入しているプロのオーケストラの定期演奏会などにやってきてくれる人数をファンの基盤を測る物差しとしようと思います。国内オーケストラに来てくれるファンはそれなりにしっかりしたクラシック音楽ファン(ブームで海外オーケストラやソリスト、オペラにいく人に比べれば、程度に)だと言えると思いますし。

では、データを見てみましょう。

オーケストラ連盟には2005年の段階で正会員は23団体、2014年には25団体加盟しています(2008年に兵庫芸術文化センター管弦楽団、2011年に東京ニューシティ管弦楽団が加盟しています。この他に準加盟団体があります)。

2005年〜2013年のデータを見てみると、公演回数は2005年の3000回程度から、2010年代には3200回前後へと増加しています(ただ、自主公演回数は1200回前後を行き来していて、依頼公演の増減がトータル回数を左右しているようです。
そして、これらの演奏会に対する入場者数の推移を見てみると

2005年 約335万人
2006年 約337万人
2007年 約348万人
2008年 約385万人
2009年 約359万人
2010年 約355万人
2011年 約379万人
2012年 約371万人
2013年 約388万人

2008年のリーマンショック後に入場者数も演奏会回数も落ち込みますが、それ以前のレベル以下にならず、東日本大震災の影響も最小限で、実質は右肩上がりだと判断してよいでしょう。1演奏会あたりの入場平均人数も1100名あたりから1200名近くへと増えています
もう一つの重要なデータである、固定ファンともいうべき会員数の推移を見てみると

2007年 48857名
2008年 55816名
2009年 58337名
2010年 59657名
2011年 59030名
2012年 60216名
2013年 61908名

と、こちらはもっと明確に右肩上がりです。

これらのデータを見る限り、クラシック音楽ファンが「激減してる」なんてのは眉唾といえそうです。もちろん、この入場者や会員数の年齢層や頻度の内訳がわかれば、また違う面も見えてくるのかもしれませんし、若い人がやっぱり少ないよね、とかあるのかもしれませんが、少なくとも、クラシック音楽のコンサートに興味を持って会員になったり、通ってくる人の人数は増えているっぽいので、嬉しいことですし、この傾向が続いてほしいものだと思います。

おまけのような話ですが、このように入場者や会員数は増えているのに、演奏収入はほぼ横ばいなのです(2013年で約133億円)。現時点ではオーケストラの収入の50%が演奏収入で、公的援助が25%、民間援助が15%、助成団体などで10%という感じです(総額で2013年は約253億円)。
演奏収入が増えてきてない(つまりは客単価は少し下がっている)というのは、オーケストラ運営の基盤をやはり揺るがすことですから、ここが改善してほしいですよね。まぁ、そのためには日本全体景気がもう少し良くならないといけないのでしょうけれど。

ということで、今回の結論!

日本のクラシック音楽ファンは少ないかもしれないけど、全然減ってないよ!

どっちかというと増えてきてると思うよ!!

ということでいかがでしょうか。

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