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浅井忠の晩年を知ることのできる展覧会

昨日9月9日から10月13日まで六本木の泉屋博古館分館で開催されている特別展「浅井忠の京都遺産 京都工芸繊維大学美術工芸コレクション」の内覧会に行ってきました。

浅井忠といえば日本の近代洋画の初期を代表する画家ですが、晩年5年間が京都高等工芸学校の、それも図案科というデザイン系の教授であったことはあまりしられていません。
この展覧会はその晩年の活動、事績を追い、日本のデザインへの影響を、彼のコレクションや、その時代の本人と弟子の作品、その後の影響をみることで明らかにするものです。
細かな工芸作品から大型の絵画作品、ポスターまで100点あまりが展示されいます。
今回の内覧会では、学芸員さんによって歴史的な流れ、展覧作品の見どころなどをその場所に移動しつつ1時間近く解説していただく、すごく贅沢なものでした。

(以下掲載の写真は美術館の特別の許可により撮影したものです)

展覧会の期間もわずかに1ヶ月と少しの5週間程度ですが、面白いテーマの展覧会なのでおすすめすることも含めて簡単に展示内容を紹介します。

浅井忠(1856-1907)といえば黒田清輝(1866-1924)と並ぶ明治中期から活躍した洋画家として有名です。1895年の内国勧業博覧会で両者は代表的画家として出品し高く評価されますが、10歳年下の黒田清輝は10代で渡欧し、欧州の技術を習得したというキャリアのため、東京美術学校の西洋画科創設時は黒田清輝が先んじることになり、両者は1898年にやっと教授として並びます。そして浅井忠は教授就任後の1900年に初めて渡仏し、パリ万博を体験します。そして帰国後、日本に3番目にできた工芸学校である京都高等工芸学校の図案科の教授に就任し、その他、京都でいくつかの美術研究会を立ち上げ弟子を育て(その中には10代の梅原龍三郎や安井曽太郎がいます)1907年に没します。

今回のこの展覧会は、従来の東京美術学校時代までの洋画家として高名な浅井忠ではなく、京都高等工芸学校でデザインへも足を踏み入れた晩年の5年間を、後身の京都工芸繊維大学に残る美術工芸コレクションと泉屋博古館のコレクションによって見渡すものです。

まず、浅井忠が渡仏時代にコレクションし日本へ持ち帰った欧州の工芸品や、ミュシャ、オラジのリトグラフポスターが目を引きます。

ショワジー・ル・ロワやルイス・C・ティファニーの陶磁器、ガラス器のデザインが当時の画家たちにどのように映ったのか興味深く思われます。
実際、日本の画家で渡欧したり、日本で情報を得て、印象派の影響を受けた画家も多い一方で、日本の西洋画の歴史から見て、あまりの変化の早さに日本人にとって印象派的なものへ足を踏み入れるのは時期尚早または無理だと思った画家たちもいたことを思えば、個人的には日本が西洋音楽の技法を学んで曲を作るときに世界のトレンドとの整合性を悩んだのと同様のことを感じます。

浅井忠自身の作品も20点ほど展示されていますが、京都の風景(東山や比叡山など)を描いた小ぶりな水彩画には、知られている画家の油彩作品とは全く違う雰囲気が感じられます。

そして今回の展示の一つの中心は、1905年の大作「武士山狩図」とその下絵、さらに弟子たちによるその作品の素材スケッチ、そしてその弟子たちの作品です。

「武士山狩図」も絵画として大作ですが、赤坂離宮のためのタペストリーの1/2下絵となる作品です。画題は馬に乗った武士3名の山狩の様子ですが、3名それぞれが年恰好が異なり、それが天皇家の子々孫々の繁栄を寿ぐ意味も示します。
この作品と並んで、この作品制作の協力者であった弟子の鹿子木孟郎、霜鳥之彦、間部時雄などの作品も展示されています。

もう一つの展示室には、浅井忠の大津絵などの図案、そしてそれ以降、京都高等工芸学校のデザイン教育がどのような素材をもってなされ、どのように展開し、どのような作家の作品に影響していったかが展示されています。


ミュシャの装飾人物集、装飾資料集が教材とされ、さらにデザインの教材コレクションとしてロイヤルウースターやショワジー・ル・ロワのデザイン的な陶磁器が購入されていたことがわかります。
浅井忠のユニークで滑稽味もある鬼ヶ島の掛け軸、デザインしたエジプト模様湯呑み、蒔絵文庫などモダンな作品も見られます。


この他にも清水六兵衛の茶碗、初代宮川香山や板谷波山の欧風と和風の折衷したデザインの花入、花瓶なども展示され、浅井忠の没後、京都でこのような新たなデザインを取り入れた工芸品が作られていたことがわかります。


この展覧会はあまり顧みられていない日本の洋風デザインの黎明期、その教育が行われた形、そしてそれも京都で、というマイナーなものを大きく取り上げたものとして注目です。
会期は短いですが、浅井忠のちょっと違う面、そして日本の洋風デザインをコンパクトに見渡せる展覧会としておすすめです。

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