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中世を舞台にしたエンタメ小説のおすすめ5選(+α)

先日、中世以前の音楽について書かれた本のオススメをしてみたので、ちょっと中世系で攻めてみたい。
本当はルネサンスでもやってみたいのだが、ちょっと手に負えないような気がする。

ということで、とりあえずは、道筋として、中世を舞台にした小説で楽しんで読めそうなものの紹介、さらにできれば、中世について書かれた本でのオススメの回も作りたい(これはけっこう無茶だと思うけど)。

で、今回はとりあえず、

中世を舞台にした文学作品の個人的オススメを紹介してみたい。

といっても、中世のような舞台といえばヒロイックファンタジーのようなものとか、それこそゲーム的な世界なんてみんなそこに入りそうなので、中世を知るのに役立つという線引きから

中世社会をリアルに描いたもの
楽しんで読めるようなエンタメ系

ということにしてみたい。
別にリアルな歴史小説がダメとかいうわけではないんだけど。で、選んだ結果を見てもらうと、ミステリっぽいものばかりになってしまってるのは、ちょっと問題かw

**とりあえず5作品選んで、それにプラスアルファとして、やや外れたものを3作品紹介します。 **

▶︎薔薇の名前(ウンベルト・エーコ)

https://www.amazon.co.jp/dp/4488013511/

なんか今更この作品をトップに持ってくるのも気恥ずかしいほどの傑作。先日亡くなったウンベルト・エーコの出世作にして代表作。1320年頃の中世北イタリアの修道院を舞台として起きる連続殺人にバスカヴィルのウィリアム修道士と見習い修道士アドソが挑むミステリー。

もちろん、ショーン・コネリー主演の映画版もすばらしいですが、やはり一度は原作の小説も読んでもらいたい。修道院の生活臭、異端審問、写本室など、中世の雰囲気満載でありつつ、連続殺人の動機につながる書物と思想といった部分では、まさにエーコならではというか、古典のことや、中世キリスト教の歴史を知ってた方が楽しめるという、まぁ、読者がどの層にいても大丈夫につくってあるすばらしい作品。
まぁ、文庫化されない有名小説の筆頭なので、我慢して重たい単行本を読んでください。

▶︎大聖堂(ケン・フォレット)

https://www.amazon.co.jp/dp/4797332565/

12世紀前半の中世イングランドで、王位継承でやや無政府状態に近い中、大聖堂再建に向かう職人を中心に語られる、これまた大ベストセラーです。文庫で3冊。さらに18年後に「大聖堂 果てしなき世界」が出て、これまた文庫で3冊という大作です。まぁ、この「大聖堂」の方を読んで気に入ったら、続編もって感じでいいでしょうけど。
まぁ、「薔薇の名前」に比べれば、重さも深みもないし、中世の社会は描かれていても、ややそこで起きる悪事や事件はいまいち現代的というか、なんでそんなに続々似たようなことが起こるねん!って突っ込みたくなるところはありますが、うまくはまれば3冊は全然苦にならない作品です。

▶︎修道士カドフェルシリーズ(エリス・ピーターズ)

https://www.amazon.co.jp/dp/4334761259/

「聖女の遺骨求む」で始まる、修道士カドフェルシリーズは長編20作、短編集1冊からなります。
本当は「薔薇の名前」よりもこちらを先にあげるべきだったかもしれません。中世の修道院を舞台とし、そこの生活を綿密に描きつつミステリーという意味ではこちらが先駆者なのですから。ですが、実際は「薔薇の名前」がヒットして、こちらも売れたという部分もあるという作者としては忸怩たる部分もあったよう。

時代は「薔薇の名前」よりも百数十年遡る12世紀前半のイングランド。そしてヘンリー1世が亡くなり継承者争いが起きている、という点では「大聖堂」も近い設定です。
ウェールズに近いシュールズベリ修道院の修道士カドフェルが主人公で、若い頃十字軍などに参加した経験や薬草などの医療知識によって、様々なの事件や謎を解いていくというシリーズです。同じ修道院生活が中心とはいえ、これだけ長いシリーズなので「薔薇の名前」とは異なり、様々な事件と世情の変化が絡む分、いろいろ楽しめます。

▶︎折れた竜骨(米澤穂信)

https://www.amazon.co.jp/dp/4488451071/

あと2作は日本人の作品を紹介したいと思います。まずは、2012年のミステリーの賞を受賞し、各種ランキングでも上位になったベストセラー「折れた竜骨」を。
12世紀末の北部ブリテン、デーン人やヴァイキングと接触するような世界を舞台に起きる殺人事件をめぐるミステリーです。ただ、魔法や呪いが存在するので現実社会とは異なるのですが、領主の館で起こる密室状態の殺人を解いていくロジックは、その魔法や呪いの存在を前提としてすっごくきっちり詰められていきます。その意味では、今回挙げた作品の中では一番バリバリの本格ミステリです。

この作品で描かれる中世的な世界は、辺境が舞台なだけに歴史上のメインストリーム的な雰囲気ではなく、辺境で常に争いが存在するので世界での世界観や論理思考といった面に反映されています。 文庫で上下巻2冊ですが全く苦になりません。

▶︎火蛾(古泉迦十)

https://www.amazon.co.jp/dp/4061821490/

最後、5つ目に紹介するのは、12世紀の中東、イスラーム世界を舞台としたミステリー作品です。
今までの作品(そしてこの後紹介する番外編としてのプラスアルファも)はすべて中世ヨーロッパまたはそれを模した世界が舞台ですが、この作品は、イスラームのそれも神秘主義的なスーフィーを主題としています。それだけでもけっこう珍しい。

神の側にいるために、ひたすら修行に励むスーフィズムの行者たちの中で突然発生する殺人事件。人と触れ合うことを求めてない人々の中ではなぜ殺人が起きたのかを解くために、延々、主人公を含め宗教議論続きます。このミステリの特徴というか、ここに取り上げた理由はこの中世イスラームの宗教論をミステリの中に組み込み、最終的にはちゃんと(納得しづらいところもありますが)事件の解決にもつなげているところです。これで少しはそういう世界にも興味持てるかもですよ。 今回紹介した作品の中では最も短いかな?ただ、こんなすばらしい大傑作なのにもう新刊では手に入らないってのが最大の問題!

この作品は第17回メフィスト賞を圧倒的支持で受けましたが、この作者にはこの作品しかありません。2000年に25歳だったらしいのですが、その年齢でどうしてこんな主題でこんな作品が書けたのやら。。。どういう人が書いたんでしょう?それも大きな謎です。

ここから番外編です。

▶︎アーサー王宮廷のヤンキー(マーク・トウェイン)

https://www.amazon.co.jp/dp/4042142087/

まずは、トウェインの、一説では史上初のタイムスリップ小説ではないかと言われている作品です。
アメリカ人が6世紀のアーサー王の時代にタイムスリップしてしまい、そこで現代(といってもトウェインだから19世紀末)技術を駆使して、宮廷内で重要な人物になり、兵器とかで戦争勝っちゃったりする話です。考えてみれば、このような趣向の小説は今は手を替え品を替え大量にあるとおもえば、最初に考えたトウェイン偉い!

ただ、時代考証的にどうかといわれると、そんなことよりもトウェインお得意の現代社会風刺のために過去を持ち出しているので、そこはあまりちゃんとなってない、、、なので、番外編扱いとしました。
まぁ、男女の感覚や宗教を風刺するために「アダムとイヴの日記」を書き、晩年は風刺しすぎたせいか厭世観にとりつかれて、これまたSF的でありつつ15世紀を舞台にして、神のような少年を主人公とする「不思議な少年44号」を書いたトウェインですからねぇ。

▶︎狼と香辛料(支倉凍砂)

https://www.amazon.co.jp/dp/4048669311/

次はライトノベルです。
といっても、この作品は作品世界が異色なものといえるでしょう。冒頭に書いたようにファンタジーなどで中世っぽい世界を描いたものは数多あるわけですが、この作品の大きな特徴は、主人公が行商人であり、中世世界の交易システムを中心に描かれていることです。それが目指されていることはこの「狼と香辛料」という題名が、中世経済を扱った「金と香辛料 中世における実業家の誕生」に因んで付けられたことから示されています。なので、世界観としては、たしかに獣にして長寿で人と交流できる生物がいる、という一点だけは現実社会と異なるにせよ、それ以外の部分は見事に中世経済社会と貿易を描いた異色ライトノベルです。
小説は全17巻で完結していますが、マンガ版は現在13巻で継続中
あと、アニメ版は通算2期で26回分放送されましたが、これもとてもよくできています。
そうそう、音楽に興味ある人は、古楽関係者が音楽に参加してますし、アニメ上にも古楽器らしき(でもちょっと違う)ものがたびたび出てきて楽しめるでしょう。

▶︎ベルセルク(三浦建太郎)

https://www.amazon.co.jp/dp/4592135741/

これは冒険ファンタジーに分類されるマンガです。魔術も魔物も様々なものが出てきて、一人の剣士を主人公に話は展開していきます。ですが、この作品を取り上げたのが、作者がおそらく相当いろんな中世史の事柄を調べて、それを元にストーリーを作りちりばめたことがよくわかる、つまり、現実世界での中世的な雰囲気は異世界でありながらとっても濃厚だからです。

宗教の位置、王族や貴族、宮廷の仕組み、権力争い、平民から下層民の暮らし、そういったものはすべて、歴史のどこかで見たことがあるようなモチーフで紡ぎ上げられています。
その点で、異世界だけど中世的な雰囲気を楽しめる作品としてこれを挙げておきます。現在、38巻まで出て継続中ですが、刊行スピードは落ちる一方、世界を広げすぎて収拾がつくのかどうか不安いっぱい、、、未完成に終わるんじゃないのか、という気もひしひしする作品です。(ロマンとしては正しいあり方かもしれませんが)

以上、いろいろ紹介してみましたが、何か興味をひくものはありましたでしょうか?
もし中世社会に興味をそそられているようでしたらぜひ!

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