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坂口安吾『桜の森の満開の下』から、キャラクターの対比を学ぼう【文豪の名作をエンタメに生かす】

小説が上達する一番の近道は「読んで書く」こと。ここでは文豪の名作を紐解きながら、エンタメに役立てる方法を探っていきます。今回のテーマは坂口安吾の名作『桜の森の満開の下』から、キャラクター設定をするときに大切な「対比」に注目して、学んでいきましょう。

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坂口安吾『桜の森の満開の下』

まずは作品を読みましょう。
青空文庫で『桜の森の満開の下』を読む

近代日本文学を代表する小説家「坂口安吾」|作者概要

坂口安吾は、昭和期に活躍した近現代日本文学を代表する小説家です。太宰治と並び、無頼派(反秩序、反権威的な作風を特徴とする作家)として知られています。新潟新聞社社長で衆議院議員の父を持つ、名家の出身。20歳のとき、仏教を研究するため東洋大学印度哲学科に入学しました。大学を卒業した坂口は、1930年11月、友人らと同人誌『言葉』を創刊。翌年、処女作『木枯の酒倉から』を発表します。その後は続々と作品を発表し、文壇に認められました。1947年には、雑誌『肉体』に『桜の森の満開の下』を発表。48歳で急逝するまで、多くの名作を生み出しました。

『桜の森の満開の下』のあらすじ

鈴鹿峠に住む山賊の男は、山も谷もすべて自分のものだと思って暮らしていました。しかし桜の森だけは恐ろしさを感じ、近寄ることはできませんでした。ある日、都から来た旅人の夫婦を襲った山賊は、女の美しさに心を奪われます。そこで亭主を殺害して、女を連れ帰り、8番目の妻としました。その女はとても残酷な心を持っており、女に言われるがまま、次々と人を殺す山賊。やがて2人の関係だけでなく山賊の心境は変化していくのです。

『桜の森の満開の下』を読み解くポイント

女の望むままに山賊が人を殺していく様子や、女が死体の首で遊ぶ描写など、とにかく残酷なシーンの多い『桜の森の満開の下』。そのインパクトに囚われてしまいがちですが、ここは物語に込められた作者のメッセージをじっくり探っていきましょう。

1:山賊と8番目の妻の関係性は?

  • 山で暮らす「野蛮」で「飾り気のない」「無骨」な山賊

  • 都会から来た、「美しく」「優雅」で「狡猾な」女

単純に男女の典型的な例でもあり、正反対のキャラクターによって、お互いの特徴を対比させる設定でもあります。

2:山賊はなぜ桜の森を恐れる?

山賊は桜の森を恐れていましたが、都の暮らしを捨て、山に戻ったときには恐れを感じていないようです。これはどうしてでしょうか。

山賊は「人の手が及ばない美しさ」に恐怖を感じていたのかもしれません。女の希望によって都会で生活し、未知の世界を知り、女を通して他者とのつながりを知りました。そのことで、何も知らなかった頃のような「恐ろしさ」を感じないほどに変わったという解釈もできます。

3:山賊はなぜ消えてしまった?

都での生活に嫌気がさした山賊は、女を連れて山へ戻ります。その道中、満開の桜の木の下を通りかかった山賊は、背負っていた女が鬼になっていることに気づき、鬼の首を絞めて殺しました。しかし山賊の腕の中で冷たくなっていたのは女でした。女も山賊も桜の花びらとともに消えてしまいました。
行くところも帰るところもなく、「孤独」になってしまった彼は、そもそもそこにいる必要もないから消えてしまったとも考えられます。

桜に似た「女の美しさ」にも恐怖を感じていた山賊ですが、その女を殺したことで、彼は本当の意味で孤独になってしまいました。悪の限りを尽くした山賊でしたが、彼がもっとも恐れたのは、かつては知る由もなかった「孤独」だったのかもしれません。

エンタメ小説に活かすなら|『桜の森の満開の下』の役立ちポイント

山賊と女の関係をみてみると、「登場人物の性質を対比させる」キャラクターの配置が現代のエンタメ小説に通じるものがあります。うまくアレンジできればお互いの違い(魅力)を引き立てる主人公・ヒロイン像ができあがりそうです。

また、この物語において読者を引きつけるフックになっているのが、山賊の乱暴な行為や女の残虐さではないでしょうか。あまりに不快な描写が続くのは一般的に受け入れられにくいものです。しかしこの「エグさ」をすべて消し去ってしまったのでは、おもしろさも目減りします。「どの程度のエグさを残すのか」さじ加減を考えることでエンタメ小説にふさわしい物語になりそうです。

現在ヒットしているエンタメ小説には、世の中や人間の性(さが)をせせら笑うような作品が多くみられます。小説は「どんなテーマに目をつければ読者の気持ちを強く引きつけられるのか」が重要です。そのためにあえてエグさや苦味、嫌な雰囲気を出すことの是非について、じっくり考えてみるのがオススメです。

【当記事は『榎本メソッド-on-line-公開講座』編集部によって執筆されました】

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