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矯正医のためのアルミナサンドブラストのススメ その2

その2ではパウダーについて粒子の径や圧力についてつらつら書いていきたいと思います。

今回、これを書くにあたり様々な文献を読ませていただきました。この分野に関して多くの時間を使い研究し、発表してくださった先生方に敬意と尊敬を表したいとおもいます。
またもし、何か間違ったことなどあればどんどん教えてください。

アルミナサンドブラストと接着

アルミナサンドブラスト処理の歴史は同処理が非貴金属の接着に有用であり、接着性レジンセメントを用いた接着性ブリッジ世界に先駆けて発信された山下敦先生までさかのぼることが出来ます。
その発表が1982年のものなので40年くらいの歴史ということになります。

山下先生らは
平均50μmのアルミナ(パーシェ社)を使い
3気圧の噴射圧で 
5mmははしたところから 
5秒間行う
という条件を示しました。
山下 敦, 山 見 俊 明. 
架 工 義 歯 に お け る 接 着 性 レ ジ ンの 応 用 そ の1. 
〜非 貴 金 属 合 金 の 種 類 と金 属 被 着 面 処 理 が 接 着 力 に 及 ぼす 影 響 につ い て. 〜
補 綴 誌26: 584-591, 1982.

ちなみにパーシェ社はPaasche Airbrush Company(https://www.paascheairbrush.com/)のことです。(国内の流通は未確認です。)


アルミナサンドブラストの接着効果の文献

1.非貴金属/貴金属:山下先生ら
「歯科接着性レジン・パナビアEXの歯科用合金に対する接着強さ その2」
 補綴誌 1984;28(6):1023-1033 

2.ポーセレン:今井先生
「歯科用ポーセレンと接着性レジンの接着における被着面処理に関する研究」
歯科材料・器械 1990;9(2):301-313

3.コンポジットレジン:Swift EJ Jr. 先生 ら
「Evaluation of new methods for composite repair」
Dent Mater 1992 ;8(6):362-365

4.ジルコニア:Kern M先生ら や Blatz先生ら
Kern M, Wegner SM
「 Bonding to zirconia ceramic: adhesion methods and their durability」 
Dent Mater 1998;14:64-71
Markus B Blatz, Marcela Alvarez, Kimiyo Sawyer, Marco Brindis
「How to Bond Zirconia: The APC Concept」
Compend Contin Educ Dent  2016 Oct;37(9):611-617; quiz 618.

この辺りの文献読ませていただくとやはりサンドブラスト処理が様々なマテリアルとレジンの接着に対して有効であり、長期安定性についても効果的であるようです。

アルミナサンドブラストの条件(平均粒子径/気圧/時間/距離/その他)

文献抜粋


アルミナサンドブラストの条件を上記文献からピックアップするなら

山下先生 :50μm /3気圧/5秒/5mm/
今井先生:50μm /約4気圧 /?/ 5mm /噴射投影 角度 90°
Swift EJ Jr先生:50μm/?/5~10秒/?/マイクロエッチャーの使用
Blatz 先生:30~50μm/3気圧 /5秒/?/アルミナだけでなくシリコートアルミナ(ロカテック処理)
Kern M 先生:110μm/2.5気圧/?/?/アルミナ
先に挙げた文献からの条件のみの抜粋です。
いずれも対象の素材はバラバラですし、指定している条件の種類も異なります。


その他文書抜粋

さらに他の情報として松風のビューティボンドエクストリームの添付文書では口腔外使用の条件として砥粒のサイズと圧力についての記述があります。

出典:ビューティボンド エクストリーム 添付文書

上記データついては松風の社内検証によるもので参考文献などは無いみたいです。

また最近モリタさんから発売されたアドプレップは調圧バルブと圧力ゲージがついていてきめ細やかな圧力調整ができるのですが口腔内では使用不可です。
そもそもヘッドも本体も大きくて無理なんですが圧力ゲージがついているので圧力を調整することが可能です。なので一応素材別に調圧してくださいというコンセプトの商品です。
カタログの圧力の記述の部分の記述を下記しました。

出典:モリタ アドプレップ カタログより
出典:モリタ アドプレップ カタログより

添付文書抜粋

口腔内で使えるアルミナサンドブラスターの添付文書での条件には何が書いてあるかというと
(平均粒子径/気圧/時間/距離/その他)
1.ミニブラスター 50μm/5.5~7.0気圧/?/2~10mm/(パウダー未指定)
2.マイクロエッチャー ? /2.6~5.0気圧/?/?/ (パウダー未指定)
3.ロンドフレックス プラス 360 27 or 50μm/3~6気圧/?/1mm/アブラシブパウダー
4.アクアケア 29 or 53μm/4.0~7.0気圧/?/1~2mm/酸化アルミニウム 53μm 酸化アルミニウム 29μm 重炭酸ナトリウム Sylc(バイオガラス) 


まとめ:補綴物へ接着するためのアルミナサンドブラスとの最適条件は?

もはやここまでさまざまな条件があるとわからなくなります。また今で上げた条件は口腔内サンドブラスターでは実現できないものもあります。
なのでここからは独断と偏見で
「矯正アタッチメントをしっかり補綴物につける!」という目的を達成するためのアルミナサンドブラストの最適条件を自分なりにまとめると

1.平均粒子径
→50μm
2.圧力
→口腔内で使えるものはほとんど調圧不可なのでそのまま使用するしかないのが現状
調整できるなら
レジン系、セラミックス系:1~2気圧 
ジルコニア系、アルミナ系:2~3気圧 
金属系:4気圧 が目安。
学術的な裏付けや検証が進むことに期待。
3.時間
ほぼ指定はない。見た目で十分に色が変わるくらい。
学術的な裏付けや検証が進むことに期待。
4.距離
表面からの距離は各機種での先端形態で広がり方が異なるので各種メーカーの使用方法に従うこと。
5.粉の種類
アルミナサンドブラストといても粉の製造方法で角が丸かったり、尖っていたり色々異なります。
基本的にはメーカー指定のものがいいと思います。
何か別の目的で使用したい粉がある場合はメーカーの方で粉の種類の指定のない機種を選んでください。

補綴物に矯正アタッチメントを接着する為の口腔内アルミナサンドブラスト処理条件のまとめ
「平均粒子径50μmで酸化アルミナ粉を各サンドブラスターのメーカー指定の条件で使用する」
ってのが自分の結論です。

おまけ:特殊な粉

1.ロカテック処理(トライボケミカル反応)

ロカテック処理系と言ったらM Kern先生ですが、自分がこの処理法を知ったのはGCのマニューバーブラケットの試作段階で接着検証をした田邊先生の「ジルコニアセラミックス製試作ブラケットに対する矯正用接着剤の接着性向上のための表面処理ならびに表面改質効果」Dental Medicine Research  2011;31(2):102‒112でした。
ロカテック処理とは表面をシリカコーティングしたアルミナサンドをサンドブラスターで吹き付けると表面にシリカの層ができるというものです。原理はトライボケミカル反応が強力な摩擦力と熱反応でおきます。イメージは熱で陶材が焼き付けられる様な感じです。
シリカの層ができることでシランカップリング処理が可能になり、レジンと化学的結合が可能になるというものです。
ロカテック処理ができる粉は平均粒子30μmのコジェットサンドです。
口腔内での使用可能ということですが処理後にシリカ層の剥離を防ぐため水洗不可になりますので注意してください。

出典:メーカーHP

2.オーソプロフィー SA85


Dr.Kからも質問があった粉です。
自分も詳しく知らなかったのですが「歯質を傷つけずにレジンを取り除ける アルミナ」とのことでした。カタログではブラケットベース面についたレジンを取り除くとのことを書いてありました。
メーカーサイト(ZEST DENTAL)さんのHPで確認すると「Resin Removal Powder」とも書いてありました。
角のない丸い平均直径85μmのアルミナ粒子のようです。

モリムラ社 Mリポ新聞 から転載

添付文書では

との記述がありました。
詳しい使用条件や学術的な文献をまだ確認できていないので継続して調べてみて報告していきたいと思います。

口腔内でレジンを取るとなれば大量に使うことが想定されるので注水下で使用が粉の飛散を防ぐのにいいと思います。よって使えるサンドブラスターはKAVOさんのものになるのか?使用しても問題ないのか?歯肉保護についてはどの程度行うか?使用後の歯面のSEMを確認できていないので本当に傷つけていないのか?など情報収集していきたいと思います。


その2は以上になります。
次回のその3では口腔内で使用する際の注意点(特に歯肉保護について)まとめていきたいと思います。

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