見出し画像

読み終わった時に「あれ、俺もしかしてダサい?」と唸ってしまう青春小説。

カッコイイ人とは、どんな人だろう。

思春期を迎えて、モテたいと思い始めた頃から、現在進行形でカッコイイ人になりたいとずっと思い続けている。

カッコイイの定義には人によって色々あると思う。

料理ができる家庭的な人、外見に気を使うおしゃれな人といった頑張れば自分でも到達できそうなラインから、自分よりも知識が豊富でどんどん問題解決ができるような社会人の先輩。それを超えると、例えば起業した人や、何かの分野で突出して、プロとして活躍している人。どんな風に生きていきたいか、どんな人でありたいかによって、カッコイイ人は変わってくる。男性であれ、女性であれカッコイイ人はカッコイイ。

最近思うのは、自分を貫いている人は分野・職種を問わずカッコイイということ。

それは成功・失敗で分けられるものではない。

例えば、僕の高校時代の演劇部の先輩で、高校を中退した後もずっと演劇の道にひたむきに取り組み続けている先輩がいる。中学時代のアマチュアな演劇時代を含めたら、先輩はもう14年近く演劇をしていることになる。

当たり前だけど、演劇の世界で、役者だけで食っていくことは本当に厳しい。

どんなに素敵な脚本でも舞台に見にきてもらわないと意味がない。

三谷幸喜さんや、鴻上尚史さんのように、一般の人でも何と無く名前だけは聞いたことのある脚本家の人ならまだしも、大半の劇団はその名前すら知られているかわからない。

役者として日の目を見ることは確率的に低いのはわかった上で、先輩はずっと役者を続けている。そこには、ただ部活で満足していた自分とはかけ離れた「熱狂」がある。

何かに「熱狂」して貫いている人はそれだけでカッコイイ。

大人になると、時々、自分が昔ふんわりと思い描いていたカッコイイ大人から、少しづつ離れていっている気がしてくる。

周りに迎合してしまったり、ルールや誰かのせいにしてしまったり、自分で考えないで既存の枠にとらわれてしまったり、自分では波風立てない一方で高いところから批評だけしたり。

自分ちょっとダサい大人になってしまっているかも。そんな焦りを感じていたお正月、改めてカッコイイとは何かを考えさせられる一冊の小説に出会った。

タイトルは「僕は勉強ができない」。

タイトルだけを見ると、一体何がカッコいいのか正直わからない。
勉強ができないって、むしろダメなんじゃないか、そう思えてくる。

超能力や必殺技を持ったスーパーヒーローが出てくるわけでもなければ、めちゃくちゃ頭の切れる探偵が出てくるわけでもない。

主人公は男子高校生、秀美くん。

秀美くんは彼の言葉を借りると、「素晴らしき淫売」なお母さんと「くそじじい」なおじいちゃんと3人で住み、高校生なのに(少しだけ当時の僕自身の嫉妬が混じっている)ショット・バーで働く年上の女性、桃子さんと付き合っている。

プロフィールだけ書くと、ますます「カッコよさ」から離れてしまったかのようだ。

ところが、秀美くんの紡ぐ言葉は、ちょっとカッコよすぎて、思わず小説内に並ぶ言葉達にドキリとしてしまうのだ。

彼の言葉が心にスッと入り込んでくると、人によっては「そんなこと言わないでくれ」と思うかもしれない。

それは、頭ではそうしたほうが良いとわかっているけど、実際にはちょっとズルをして隠してしまっていることとか、見ないふりをしてしまっていることを、見透かしたように代弁しているからだと思う。

読みながら「痛いところついてくるなぁ」と目を背けてしまいたくなったシーンもある。

例えば、秀美くんは、ワイドショーに夢中になる主婦たちについて、こんな考えを述べている。

自分の確固たる価値観を持つのは難しい。多くの人々は、それが本当に正しいものでありえるのか不安に思っている。そこに他人の言葉が与えられることで、彼らは、ある種の道しるべを与えられる安心を得るのだ。

有名人でも、そうでなくても、豪雨のような情報のシャワーを毎日毎日浴び続けている僕たちにとって、揺るぎない自分の価値観を保つのは難しい。

自分自身、自分が正しいと思うことよりも、会社から評価されることの方を優先してしまうことがある。

自分で正解を見つけるよりも、誰かに見つけてもらって、「はい、君の考えは正しいよ。100点満点だ」と言ってもらえる方が遥かに楽だ。

秀美くんのカッコよさは、自分の信念を曲げないことにある。自分の中で何が大切で、何が正しいことなのか、押しても引いても倒れない柱を持っている。たとえ、その信念を先生や友達に否定されたとしても、彼はブレない。

僕を始め、多くの読者が秀美くんの虜になってしまうのは、生きていると「弱い自分」に否応なしに出会ってしまうから。秀美くんは、僕たちが憧れる「強い自分」を体現しているから。

タイトルにある通り彼は勉強が苦手だ。きっと、学校の試験問題の点数は悪いのだろう。
だけど、人生のテストに対しては、自分で答えをぶつけて乗り越えている。

そういえば、今日はセンター試験の2日目だ。
勉強を疎かにすべきだとは思わないし、学歴ははっきりいって強い。
だけど、答えのあるテスト以外にも、この先沢山のテストがあることを1人でも多くの受験生が知ってくれたら嬉しいなと思う。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

最後まで読んでいただきまして、有難うございます。 あなたが感じた気持ちを他の人にも感じてもらいたい、と思ってもらえたら、シェアやRTしていただけると、とっても嬉しいです。 サポートは、新しく本を読むのに使わせていただきます。