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自分が作ったものなんか価値がないんじゃないかと思っているあなたへ

ちょっと恥ずかしい話なのだけれど、小学生の頃とある作品の二次創作小説が掲載されているウェブサイトを見つけ、自分も書いてみたいと思い、半年くらい投稿していたことがある。

一人っ子だった僕は、小さい頃体が弱く、何度か入院生活を送っていた。その頃、母親が買ってくれたレゴブロックの基本セットで遊んだことを皮切りに、自分の頭で描いた設計図を現実の世界で作り出すのが好きになった。

だから、面白い二次創作小説を読んだ僕の中で、むくむくと「自分も書いてみたい!」という思いが湧き上がったのも必然な気がする。

小学生の考えるストーリーなど稚拙で、御都合主義で、やたらかっこいい漢字を使いたがる今では読み返すに耐えないものなのだけれど、(この前ちょっと覗こうとしたらそのサイトは閉鎖されていた)そんなストーリーに感想を書いてくれる心優しいユーザーの方に支えられて、中学受験の勉強が忙しくなる頃まで、不定期でその物語を更新していた。

ここで僕の創作欲が消えてなくってくれたらどれほど良かったことか。

中学ではなぜか演劇部に入ることになり、今度はチームで一つの作品を作り上げる面白さにはまってしまった。自分が演じた物語でお客さんが感動して涙を流したり、手を叩いて笑ってくれたりすることで精神が満足してしまうことを覚えると本当に危険だ。一度舞台に立つと、その面白さから抜けられなくなると先輩に言われていたけど、本当だった。実際大学も当初は某大学の芸術学部に行こうとして、顧問の先生に「選択肢を減らすのはまだ早い」と言われて止められたくらいだ。

物創りに囚われてしまえばしまうほど、その網からはどんどん抜け出せなくなってくる。それで食っていこうと思ってしまったが最後、底なし沼のようにズブズブと落ちていく。お金が稼げないことがわかっていても、どうしても誰かの心を動かしたときの快感と、自分がちくしょうと嫌になるほどいい作品に出会って心動かされたときの衝撃が普通の道を閉ざしていく。

そんな創作欲にとらわれた人たちが、一つ屋根の下で暮らす物語がある。
辻村深月さんの「スロウハイツの神様」だ。

舞台となるシェアハウスには画家の卵、漫画家の卵、映画監督の卵、世間を賑わせている超人気小説家とその編集者、そして現在メキメキと頭角を現し始めた脚本家が住んでいる。

物語は超人気小説家の”コウちゃん”が書いた小説がきっかけで起こった集団自殺事件の報道のシーンから始まり、その10年後の世界が軸に話が進んでいく。

創作物が人に与える影響の尊さと恐ろしさを書いたこの小説は、全てのクリエイターがクリエイターでいることを肯定してくれる小説だ。

自分の手から一度離れてしまった作品は、自分はどうすることもできないウイルスのように広がっていく。

昔、格闘ゲームをやりすぎる子は暴力的になるとか、漫画を読みすぎると頭が悪くなるとか、そんなことを言われたこともあった。ニュースで取り沙汰されることもあった。きっと、矢面に立たされたゲームを作った本人はどうしようもない気持ちになっただろうし、もう作品を作るのを辞めてしまおうとすら思ったかもしれない。

人は、物事の悪い面ばかりを取り上げて、批判してしまいがちだ。僕もそうだ。

だけど、この小説はそういう批判を受けながらも、それでも人の心を満たす作品を作ることがいかに価値のあることかを改めて教えてくれる。君は作品を作り続けていいんだと背中を押してくれる。

もしかしたら、この小説はクリエイター以外の人にはそんなに響かないのかもしれない。辻村先生はいつも作品をハッピーエンドで終わらせてくれるから、どこか綺麗事のように感じるかもしれない。

それでも、クリエイターが果たす役割は、誰かの人生を肯定し、生きる望みを与え、「明日からも頑張れよ」、と誰かの手をそっと引くこと。小さくても希望を見せることが仕事なんじゃないかと思う。

自分が作っているものに価値なんかあるのか。そう悩むあなたにこそ、手にとって欲しい本だ。

そうそう、この小説の解説は西尾維新が書いており、最後の1ページまでまるっと面白いので、読み逃しのないように。


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