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本日、天気晴朗ナレドモ浪高シ~演奏会の振り返りインタビュー、ファゴット編☀️🌊~

今日は2022/7/10に開催したアンサンブルSAKURA第38回定期演奏会の、団員目線での感想をお送りいたします。演奏会やそれに向けての準備の裏話等々、話題が満載です。ぜひご覧ください。

今回はファゴットパートです🎼

先日は演奏会お疲れさまでした!!

Q1.演奏会において、ロビーコンサートからアンコールに至るまで終始ご活躍されていましたが、何か感想などありますか?

そうですね、今回の演奏会が技術的にも、体力的にも精神的にも、これまで経験してきた中で一番つらい演奏会でした。

交響曲第2番しかり、交響曲第6番「悲愴」しかり、冒頭に今回の演奏会の印象を決定づけると言っても過言ではない、静かでプレッシャーのかかるソロがありましたからね。

しかも本番は湿度と気圧が目まぐるしく変化する梅雨のど真ん中。リードや楽器の状態も不安定な時期です。ファゴット吹きであれば、誰もが恐怖と重圧を感じますし、避けたい内容ですよ、今回の演奏会は。

仮に私がコロナにかかったとして、代わりにこのプログラムを引き受けてくれるようなファゴット吹きはいなかったと思います。

そうですよね。演奏を聴いた方なら分かると思いますが、特に悲愴の冒頭は聴いている方も手に汗握ります。


ただ、せっかくやるからには「毒を食らわば皿まで」。

今回のファゴットパートの目標は、とにかく演奏の質にこだわる、ということ。
そのために、夫婦(※)共々最大限に練習し、工夫を重ねたと自負しています。

※アンサンブルSAKURAのファゴットパートはなんとご夫婦。以下、ご主人の発言は頭に「夫:」、奥様は「妻:」と表示します

工夫、と言いますと??

夫:そうですね、例えば悲愴の第1楽章の160小節目、展開部の直前の「pppppp」と書かれたファゴットソロ。

pppppp(ピアニッシシシシシモ)の指定があります。

夫:通常だと音量を絞るのが得意な「バス・クラリネット」で代替するのですが、今回は高石先生の指示で楽譜通り「ファゴット」で吹きました。普通に吹いたのではこんな小さな音は出せません。かといって、クラリネットに配慮させるのもなんだか本末転倒ですよね。音量を絞るからこそ、クラリネットの音色の美しさが際立つのですから。

そこで、小さな音を出しやすいよう、今回はミュートを使って吹きました。

もしかして以前、noteに掲載されてた、100均のフェルトのことですか?

夫:そうそう!ケチなのがバレるからあまり100均というのは強調しないでほしいんだけどねw

妻:実際ケチですよ。名前をもじってうちではケチマと呼んでます。

夫:わざわざここで言わんでも良かろうがね!

本番は、ベルをつけた状態でミュートしました。

確かにppppppでしたね…!

夫:ありがとうございます。お世辞でも嬉しいものですね。
ここだけの話、クラリネットが練習の時とは比較にならないくらい音量を絞ってきたのには驚きましたよ。手汗が止まらなかったですね。

演奏会が終わって、悲愴のレッスンをしていただいた群馬交響楽団の石川先生に、お礼と報告かねがねメッセンジャーを送ったら、心臓の音は聴こえたかい?と聞かれました。図星でしたよ。それだけ、このppppppのソロは極度の緊張を強いられます。

今回の演奏会を向かえるにあたり、群馬交響楽団の石川先生に夫婦共々レッスンいただきました。


演奏会の直前なんかはストレスのせいか、蕁麻疹に悩まされましたよ。もう、身体中が痒くて痒くて…。


お大事になさってください…。

妻:ご心配なく。演奏会終わったらスッキリ治りましたよ!!

夫:ほかにも色々ありますけど、とにかく悲愴の4楽章の冒頭なんてのはファゴット2本で、上の音域から下の音域までずーっとユニゾン(同じ音で吹くこと)が続くんですね。音程を正確に取るのが大変でね。

とにかくここは二人で運指を揃えました。ファゴットは他の楽器と違って、運指のレパートリーが膨大で、普段使っている運指が奏者ごとに異なるんですね。二人で持ってる楽器のメーカー(FOXとモーレンハウエル)も違うんだけど、運指を揃えればわりかし揃えやすい。二人で楽器を練習するときはいつもここをやってましたね。

そういえば、ご主人はリードを自作されると思うのですが、リードには何かこだわったんですか?

夫:もちろん!当初は二人でそれぞれ違うシェーパー(リードの形を作る型)を使っていたのですが、演奏会3ヶ月ぐらい前から私が使っているリーガーのH2というものに統一しました。これで劇的に音程を合わせやすくなりましたね。

奥様のリードケース。ご主人曰く「宝の山」。ご主人のものより吹きやすいリードがゴロゴロあるそう。
シェーパー

夫:妻は歯列矯正してるので、あまりリードを深く咥えられないんです。だから、発音のしやすさ重視で薄めに削って、柔らかめの材料でリードを作るなど、とにかく音が出やすいように工夫しています。糸玉も小さくして、固定するために塗る接着剤も出来るだけ薄く塗って、口元で発生したリードの振動をできるだけ止めないように気を遣ってます。

妻:私は吹いてみて、重い、削って。と言うだけです。

夫:唯一の顧客にして最強のモンスタークレーマーですよ、マジで。

妻:あん??何だって????

Q2.今回の演奏会、ここが良かった、上手く行った、というところはありましたか?

夫:決まってるじゃないですか、私のソロですよ。交響曲第2番の冒頭も、悲愴の冒頭も、ppppppのソロも。我ながら完璧ですよ!!

奥さま、実際のところどうでした?

妻:もうちょっと謙虚な言い方した方が身のためじゃない?

夫:それはそうね(笑)

妻:まあ、良かったとは思うよ。
2ndの方が技術的には難しいけど、そこも触れてほしかったな。

2ndファゴットのパート譜。左上の低い音の3連符は演奏至難です。

2ndの譜面、エグイですね…

妻:そう。1stは技術的には実はそんなに難しくないの。まあ、あのソロはそれを補って余りあるぐらいプレッシャーがすごいんだけどね。私はそういうソロの方が嫌だから今回は全部2ndを吹きました。

なるほど…。

夫:基本的に嫌なパートを割り振られますね。同じ楽器の人間同士で結婚したら、夫となる人はそれを覚悟しておいた方がいい。

Q3.プレッシャーのかかるソロへの向き合いかた、心得のようなものはありますか??

夫:本番を迎えるにあたって「本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」と思えるまで練習することです。

妻:またそれか。

「本日、天気晴朗ナレドモ浪高シ」…日露戦争における日本海海戦の直前、いよいよバルチック艦隊を迎え撃つという時に、参謀の秋山真之が起こした有名な一文ですね!


夫:良くご存じで!秋山真之は私の郷里の大先輩です。
シンプルすぎるのでちょっと付け足すと、日本にとって有利な気象状況です。ロシアのバルチック艦隊(※)の襲来に備え、波が高くて艦砲の狙いが定まりづらい日本海において、入念に訓練を積んだ我々が勝利するのは確実です!ということを、当日の天気予報をもじって述べています。

※バルチック艦隊の本拠地であるバルト海は波が穏やかであり、波が高い日本海においては砲撃の精度が低かったと言われています。

三笠艦橋の図。ご主人は司馬遼太郎の「坂の上の雲」の主人公である秋山兄弟、正岡子規と同じ、四国の松山出身です。
横須賀にある「戦艦三笠」の艦橋からの眺め。

それはつまり、本番に臨むにあたっては勝利(成功)を確信、実現できるぐらい入念に練習、準備を行えということですね!

夫:そういうことです!!!本番なんて、ただ練習を再現するだけのものだと、ステージ上で落ち着いていられるぐらい突き詰めるのが理想です。

例えば、2番の冒頭のソロであれば、2小節、2小節、3小節で歌う。
悲愴の1楽章のソロは、リードは発音しやすいものを用意する、ミュートを準備し、差し込む深さ、さらにはベルの部分を取るか取らないか、曲のどのタイミングでミュートを着脱するかをよく検討する。
4楽章のユニゾンは運指、リードを揃える。

やることはいっぱいあるんです。これらの不安要素、不確定要素を一つ一つ確実に潰し込むことで「根拠がある」自信がつき、いい演奏ができるようになります。

難しいパッセージがあったとして、弾けないから、吹けないからと、焦ってインテンポで練習したところで、いつまでたっても出来るようにはなりません。車に乗ってても道に落ちてるお金なんて見えないですよね?でも、歩いてたら見える。そう思ってゆっくりしたテンポで練り上げるように練習することを心がけています。

妻:案外的を射たこと言うのね。

音楽に対する心構え、準備の大切さが良く分かりました。次回の演奏会も楽しみにしています!!


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アンサンブルSAKURA第39回定期演奏会
日時:2023/3/19(日)昼公演
会場:浅草公会堂
指揮:高石治
曲目
カルメン組曲(ビゼー)
オーケストラストーリーズ組曲「となりのトトロ」(久石譲)

ほか

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