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大型書店も閉店。本はもう売れないのか? by キンコン西野

このnoteは2020年2月4日のvoicyの内容を文字起こししたものです。
voicyの提供:横山桂子さん

どうも。キングコングの西野亮廣です。

お笑い芸人をしたり、絵本作家をしたり、国内最大のオンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』の運営をしたりしております。

今日は、
「大型書店も閉店。本はもう売れないのか?」
というテーマでお話したいと思います。

売れていないのは『情報』だ

先日、ジュンク堂の大型店舗が閉店になり、業界がざわついたということがありました。町の小さな本屋さんがなくなるという話は、ちょこちょこ聞きますが、大型書店も続々となくなっているということで、業界内でも「いよいよか…」という雰囲気になっています。

出版業界に身を置かない人でも、『出版不況』という言葉は、さすがに耳にしたことがあるでしょう。事実、紙の出版物全体の売上が前年実績を下回り続けています。本屋さんが、次々と潰れているのです。

このようなことは、出版業界だけじゃなくて、どの業界でも起こっていることです。特に、日本は人口が減り続けているので、基本的にあらゆるものの売上が下がっていくと言えるでしょう。人が減るのだから、売り上げが下がることはすごく自然なことです。

ただ、自然なことだからといって流すわけにはいかなくて、当然、その業界に身を置いている人は、何かしらの対策はしなくてはいけません。出版業界も、この出版不況というものに対して、対策をしなければいけません。

この出版不況はがんのようなもので、ピンポイントで原因を潰さなければいけないのですが、その時、そのがんが大腸がんなのか、肺がんなのか、はたまた胃がんなのか、原因の箇所を明らかにしなければいけません。漠然と『がん』とだけ捉えてしまうと、治すに治せないのです。

これを本屋さんの話に当てはめると、出版不況を出版不況として広く捉えてはダメで、何が売れていないのかを細かく明らかにする必要があるということです。そして、それをみんなで共有していく必要があります。

出版不況の中でも、売り上げが沈んでいるのは、主に雑誌と文庫です。一方、それらの売り上げが沈む中でも頑張っているのが、絵本です。

個人的に、これは結構興味深い結果だと思っています。大体、絵本というのは、お父さんお母さんが子どものころに自分が読んでもらって面白かった作品を、子どもに買い与えるじゃないですか。あとは、本当に時間に余裕があるお母さんであれば、本屋さんで立ち読みして、最後まで読んで面白かったら買って帰ります。

僕が作った『えんとつ町のプペル』という絵本は、ネットで全ページ無料公開されているのですが、その無料公開ページのリンクから買われていたりします。要は、「家に置いておきたい」と思ってもらって、無料公開で全部読んだ後に、購入してくださっているということです。


とにかく、絵本というのは一か八かで買うものではなくて、基本、ネタバレしているものを買うということです。言い換えれば、みんな答えが見えているものを買うという流れです。

雑誌はその逆です。内容を知っている雑誌を買う人なんて一人もいません。

つまり、ここからわかるのは、『出版不況』と言っても本そのものが売れていないわけではなく、今は『情報』が売れていないのです。なぜなら、情報はネットで取り込めてしまうからです。文庫本が、少し安くてポケットに入れて持ち運べるという売り出し方をしたところで、そもそも持ち運んで使われているスマホに勝つことができません。

このように、現在は『情報の価値』がぐんと下がっています。なので、本を作ったり売ったりする人間は、情報を売るのではなく、本に内包されている『情報以外の機能』を売らなければいけません。

『お土産』としての絵本

今(2020年2月)、舞台『えんとつ町のプペル』が上演されているのですが、終演後、物販ブースで絵本『えんとつ町のプペル』が、めちゃくちゃ売れます。絵本よりも、もっともっと内容を掘り下げた舞台を上演した後にも関わらずです。お客様の目の前で、1時間半かけて、絵本よりもより深い情報を見せたにも関わらず、多くの方が出口で絵本を買ってくださるのです。

つまり、あそこで売れている『えんとつ町のプペル』というのは、本ではなくて、『お土産』だと言えます。絵本には『お土産機能』が備わっていて、物販ブースではその『お土産』としての絵本が売れているという風に考えると、この現象が説明できます。

別の例を挙げると、幻冬舎の編集者である箕輪さんが、数々のビジネス書でヒットを飛ばしていますが、彼が売っているのは本ではなくて、『コミュニケーションツール』とです。

実は、昔はテレビバラエティ番組が、この『コミュニケーションツール』の役割を果たしていました。今ではもう考えられませんが、学校の朝の教室は、「昨日のダウンタウンの『ごっつええ感じ』見た?」という会話で始まっていました。そして、それを見ていなかったらその会話に参加できなかったのです。

つまり、あの瞬間、『ダウンタウンのごっつえぇ感じ』という番組は、もちろん『お笑い』も売っていましたが、それと同時に『コミュニケーションツール』も売っていたということです。

原因をひとまとめにするな

僕たちは『不況』と言われる現象と向き合う時、ここと向き合うべきなのです。「そもそも、何が売れなくなったのか?」、そして「それに含まれている別の機能、別の意味は何なのか?」ということを考えなければいけません。

ここでいう『別の意味』とは、絵本であれば『お土産』や『インテリア』、そして箕輪さんのビジネス書であれば『コミュニケーションツール』としての意味です。これを明らかにすることで、それぞれの売り方が見えてきます。

例えば、絵本に『お土産機能』があるということが分かれば、お土産を書いたくなるような『体験』を用意すれば良いのです。だから僕は、絵本の個展や舞台を積極的に行っています。まず個展や舞台という『体験』を用意し、その出口でお土産として絵本を買ってもらうという方法をとっているのです。

これは、出版業界に限った話ではなく、どの業界にも言えることでしょう。おそらく、今後ますます人口が減少し、様々な売り上げが下がっていく中で、あらゆる人が考えなければならない問題です。

もう一度みなさんも「そもそも何が売れなくなったのか?」ということを考えてみてください。

本の場合だと、『情報』が売れなくなりました。では、それに含まれている別の機能、別の意味は何なのか?

本の場合であれば、「『情報以外の機能』は何かな?」と考えてみると、『お土産』だったり、『インテリア』だったり、場合によっては、『お守り』であったり、『コミュニケーションツール』です。そういった様々な意味を売っていくべきなのです。

そのためには、原因の精度を上げることが非常に重要です。絶対にやってはいけないことは、売り上げが下がったという現象を『不況』という漠然とした大きなくくりで捉えてしまうことです。

例えるならそれは、あらゆる部分のがんを『がん』とだけ、ひとまとめにくくるようなことです。そういう風に捉えてしまうと原因が分からず、対策がとれなくなってしまいます。くれぐれも、原因の精度を上げておくことが非常に重要だということです。


というわけで、
「大型書店も閉店。本はもう売れないのか?」
というテーマでお話させていただきました。

それでは、素敵な1日をお過ごしください。西野亮廣でした。


※オンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』では、毎日、議論&実験&作品制作&Webサービスの開発&美術館建設を進めています。
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