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Keith Jarrettの2枚組"Staircase"を巡る逸話

Keith Jarrettのこの作品、アルバムタイトルが『Staircase』であるのかどうかは、実は若干微妙だと思っている。2枚組見開き仕様の表1に『Staircase』(階段)とあるから、まあアルバムタイトルがそれなのであろうという推測は妥当なのだが、ジャケットを開いて表2を見ると、そこには表1と同じ字体で『Hourglass』(砂時計)とある。続いて表3には『Sundial』(日時計)と書かれていて、裏表紙の表4は『Sand』(砂)となっている。そして、そのタイトルは2枚のアルバムのI面、II面、III面、IV面のそれぞれのタイトル(楽曲名)に対応している。つまり、このジャケットデザインから言えることは、厳密にはこの作品自体の総タイトルは曖昧なままで、それぞれの「面」にのみタイトルが付けられていると考えることもできる。

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もちろん表1が『Staircase』となっている以上、それがアルバム全体の見出しであるとも取れるようなデザインにはなっているが、同時にそれは第I面の作品タイトルも意味しているというダブルミーニングが意図されていると読める。本で言う「背」に当たるところにはレコードにもタイトルは付けられていて、そこが『Staircase』になっているから、アルバム総タイトルは『Staircase』であると断定できるのは疑いもない面があるが、それは便宜上のことで、Keith Jarrettは、それぞれの面にタイトルが付けられているというアルバムコンセプトを提唱したのではないか、と自分は想像しているのである。つまり、本来は『Staircase, Hourglass, Sundial, Sand』というアルバムタイトルであると考えることもできるのでは、というのが自分の勝手な想像なのだ。

ところで、Jan Garbarekの1979年にリリースされた、John Taylor、Bill Connorsらと録音した作品に『Photo with Blue Sky, White Cloud, Wires, Windows and a Red Roof』という長〜いタイトルが付けられているものがあるのだが、それはアルバムの美しいジャケット写真をそのまま英語で記述したものだ。そして、そこに収められている6曲のタイトルは、それぞれ『Blue Sky』、『White Cloud』、『Windows』、『Red Roof』、『Wires』、『The Picture』などとなっていて、ほぼ写真を構成している要素を抜き出しただけで、少々おふざけというか遊びを感じさせるものになっている。Keith Jarrettのくだんの作品のジャケットコンセプトも似たようなところがあって、少なくとも表1と表4についてはそれぞれのタイトルに合致した写真を見せている。表2と3には砂時計も日時計も写っていないのであるが、おそらく この録音の行われたフランスロケ中にKeithらが目にしたものなのではないか、と想像を逞しくしてしまうのである。

Keithは1974年に空前の大ヒットとなる『The Köln Concert』以来、実はピアノソロのアルバムを優に2年以上発表していない。あれだけのヒットとなったのであれば、すぐに似たようなアルバムが出ても良さそうなものだと素人的には考えがちなのであるが、この『Staircase』が1977年に出るまで、彼のソロ作品は「お預け」だったのだ(ひょっとすると大変なヒットになってしまうと、却ってつまらない作品を出すわけにはいかなくなる面もあるのかもしれない)。そしてこの2枚組の作品が出るきっかけになったのが、フランス映画のサントラ録音であったという興味深いエピソードが英語版Wikipediaでは紹介されている。それによれば、Michèle Rosier監督の『Mon coeur est rouge (aka Paint my Heart Red)*』(1977)という作品のサントラを録音するためにEicherとKeithはパリのスタジオに入ったのだが、その作業がトントン拍子で進んで、すぐに終わってしまったので、押さえていたスタジオ時間が大いに余ってしまった。しかもそのスタジオのピアノがあまりにもいいクオリティだったので、二人は直ちにそこで作品を作ろうと決断して、それを実行に移したというのだ。つまり『The Köln Concert』以来のこの秀逸なる即興音楽作品(2枚組)は、偶然がうまく作用し、余った時間を利用した二人の即興的な企てだったということなのだ。

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* この映画作品自体について詳細に述べた英語版Wikipediaは存在していない。フランス語版は存在しており、ある程度の詳細が分かる。英語に自動翻訳してみると、Technical sheetにおいて、しっかりと「Music: Keith Jarrett」と記載があるのだが、そのサウンドトラックはおそらくリリースされていない。もしそれが聴ければ、『Staircase』と同レベルの美しいピアノが聴けるはずだと思うのだが・・・

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