NEW MAP(DANIEL YERGIN, PENGUIN BOOKS)を読み解く。-第六講。

DANIEL YERGINの”NEW MAP”(ペーパーバック版)を読み始めたので、本欄を用いて少しづつピックアップしながら、自分の思考の整理することを目的としている。

本日はChapter14の"PUSHBACK"である。PUSH BACKとは計画からの遅延を意味する。

おさらいをしながら以下、本題に入る。
詳細は捨象しながら骨格のみを書く。

前回までの解説で、米国が、シェールガス革命によって巨万の富を手に入れる事に成功した結果、ヨーロッパの国々は、競争力のある(安価な)天然ガスを調達できるようになり、さらにロシア以外にも調達先の多様化できる事によって地政学リスクを減じることが出来るようになった。

ヨーロッパはロシアに「依存」しており、極めて弱体化していた。Nord Stream2パイプラインは、「複合的な脅威」(Hybrid Threats)であった。トランプ大統領をプーチン大統領は"天才"(聡明で輝かしいと言う意味で、ロシア語で"yarkii"と言う)と評した。

2019年の全世界のLNG需要は実に2000年の4倍に達しており、天然ガスをLNG化する液化能力は5年ほどで30%増加する見込みとなった。

ウクライナはもはや、直接ロシアのガスに依存することは無くなってしまった。

ウクライナはヨーロッパの中でも比肩する国のない程の巨大な天然ガス資源を所有している。Burisma社は、(当時)ジョーバイデン副大統領の息子のハンターバイデン氏が取締役にいるとして、ドナルドトランプ氏が調査を求めていた。

そんな中GAZPROMに実に驚くべき競合が現れた。ロシアは極東やサハリンから調達した
LNGを輸出してた。ヤマル半島、キダン半島に極めて莫大な天然ガス資源が発見されたのである。Novatek社のCEOはヤマル半島に目をつけた。

"ヤマル"とは"地の果て"を意味している。

この土地はいわば、凍土に覆われた遠隔地であり、開発のコストが高く、塩漬けとなり放置されていたガス田であった。

実現可能性が大いに懐疑的(Great Skepticizm)に包まれて開始された、日本円にして2兆7000億円にのぼる一大プロジェクトは、フランスのスーパーメジャーTotalをも迎え、2013年に前進する決定がなされた。ロシアは世界で最大のLNG輸出国の一つとなったのである。

この寒冷地においても、LNGは圧倒的に顧客に求められていた。

マサチューセッツはマーセラスシェールの巨大で安価なガス田の近隣にあったが環境活動家や地元政治家によってペンシルバニアからの新規
パイプラインの建設が中断されていた。

2018年8月ヤマルLNGは、北海の北海航路によって最初のカーゴを中国に送り出した。

ヤマルLNGは氷と気象への挑戦であり、砕氷をも必要とした。ヤマルはアジア市場をターゲットとし、中国市場に20年に渡ってLNGを供給する死活的なプロジェクトであった。

ヤマルのLNGはヨーロッパマーケットも目指している。ロシアのウクライナやNord Stream2へのパイプラインガスにロシアのLNGという新たな競合が生まれた。

ロシアは米国、カタール、オーストラリアと並んで、カタールが今世紀最初に得た国際的ポジションである、東へも西へもアクセス可能な柔軟性を手に入れたのである。Arctic LNGは主要な地政学的なシフトをもまた意味している。ロシアの東方への戦略転換(Pivot to the east)を成し遂げることになったのである。

〈私感〉
どんなプロジェクトにも歴史や目的、そこにかける人々の想いはある。しかし、このYamalほど政治的ないわばロシアの覇権を賭けたプロジェクトは無いかも知れない。エネルギー、地政学、プーチンの野望、世界戦略全てがこの地の果てYamalに凝縮している。逆に米国のシェールがなければ、この開発も無く、もしかしたら今でも、塩漬けの資源の埋まる地の果てに過ぎなかったのかも知れない。ここで想起したいのが、米国が今年に入って切った新たなカード、アラスカである。天然ガスをめぐる大国間のエネルギー覇権の分捕り合いにおけるアラスカとよく似ている。一朝一夕には進まないのが世の常だが、さて、どうなる。


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