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ロケット・インターネット

 成功したビジネスモデルを丸ごとコピーして、まだローンチされていない国で創業させる…そんなコピペ戦略で発展した会社がある。ドイツの『Rocket Internet』は2007年に設立された。創業者のひとりオリバー・ザンバーが最初に作ったクローン企業は「Alando」。これは世界最大のオークションサイトを運営する「ebay」のドイツ版だ。ただそれだけ、もろパクリ。しかしebayはのちにドイツ進出の為、Alandoを約51億円で買収するハメになった。これを機に『Rocket Internet』は味を占めた。Airbnbをパクった「Wimdu」。Grouponのクローン「CityDeal」。Amazonの東南アジア版「Lazada」は2016年に約130億円で中国のアリババグループに売却された。米国のザッポスをパクったネット通販企業「Zalando」は現在フランクフルト証券取引所での評価額は89億ユーロ(約1兆円)となっている。2012年に立ち上げたアマゾンのアフリカ版『Jumia』は現在、14ヵ国で事業を展開し、アフリカにおける82%のインターネット利用者が使えるサービスとなった。投資ファンドと企業アクセラレーターを兼ね備えた同社は、これまでに200社以上の企業を立ち上げ、110カ国以上に進出し、世界で3万6千人以上を雇用している。

▼創業から約10年、Rocket Internetはネットビジネスにおける世界的成功のひとつとなった。同社は毀誉褒貶が激しいものの、シンプルで強力な戦略を続けている。既存のITビジネスをコピー&ペーストして、そういうサービスがまだ存在していない市場で立ち上げる。ただそれだけ。「米国と中国以外で最大のネットビジネスのプラットフォーム」となることを狙い、米国企業があまり重視しない新興市場をターゲットに投資している。どうやらここにもロングテール理論が成り立つ。経済大国1位、2位のアメリカ、中国からの利益がゼロだったとしても、その他100カ国以上で利益を積み上げれば莫大なものになる。

▼コピペ企業ばかりで、技術革新がないことへの批判には「私たちは常に多くの企業を創り出している」と反論する。これこそが「ドイツのマーク・ザッカーバーグ」とも呼ばれるオリバーが巨万の富を生み出した方法だ。オリバーの天才的なところは、新時代の「企業の卵」は20世紀初頭の製鉄工場と同じように管理できることに、誰よりも先に気づいた点にある。きわめて合理的に組織化された方法で仕事をしているだけだ。

ネットビジネスに国境はない、そう言われて久しいが、正真正銘、現実になってきた。むしろ意識した者が負ける世界なのかもしれない。ひとつの国でしか有効でない法律、特許、戦略など、もはやなんの意味もない。

▼爆発的な成長拡大を目の当たりにして、疑問が生まれる。Rocket Internetのこれを「資本主義3.0」と呼んでいいのだろうか。なにか新しい時代の波を感じるし、急成長に納得もできる。しかしなにか引っかかるではないか。我々が身を呈した資本主義の行き着く先はこれでいいのだろうか。サイトのコピーを作る、それを新たな国で展開する、そのあと事業を大金で売る。したがって、明日の世界を創造しているわけではない、複製を作っているだけなのだ。そこに誇らしげなものは、ない。

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