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一人旅二日目の日記(中):中谷宇吉郎の雪の結晶科学館と、素敵な場作りって難易度高いって加賀のケーキ屋さんで思ってしまった話

那谷寺を出たあとは、加賀市にある中谷宇吉郎雪の結晶科学館へ。12時45分頃、風がビュンビュン吹いて入口のガラス戸がバタバタするのを押し開けて中に入る。

ここは2022年に亡くなった、磯崎新さんの設計。磯崎さんは大分のご出身で、九州でたくさん仕事をされた方。北陸にぃも〜、あったんだぁ〜🎵と福山雅治の東京にあったんだ〜🎵の出だしのメロディを口ずさみながら入館する。でも実は、9月に行った富山は利賀村の舞台も磯崎さんの設計でした。

雪の結晶をイメージした、六角形をした平面の展示棟が3つ繋がった形のメインの建物と、潟(海から水を引き込んだ湖みたいなもの)沿いにあるカフェ棟の間に中庭がある。こういう回遊性(ウロウロできること)のある動線が私は好きなのだけど、中庭空間は北陸のコロコロ変わる天候も呼び込んでいて味わいたっぷり。

中庭のスロープから展示室を見る。晴れているように見えるけど風がビュンビュン吹いていてちゃんと寒い

⾃然の光景がさまざまに窓によって切りとられる。御息⼥中⾕芙⼆⼦さんの霧の作品のたちこめる中庭もやはり外にむかって開いている。そんな光景の変化を感知しながら、展⽰室で中⾕宇吉郎さんのさまざまな芸術的な仕事や科学的研究が追体験できるようにしている。そのために、建物に使った素材も、⽊や⼟や草や⽯といった⾃然のものが⼤部分で、それがはるか昔からこの場所に建っていたと感じられたらいいと想いながら、設計をまとめていった。中⾕宇吉郎さんは「雪は天から送られた⼿紙である」といわれたが、さしづめこの建物は、その雪をうける両の掌でありたいと思っている。

科学館のウェブサイトより、建築についての磯崎さんのコメント


展示室を一通り見てから、25分の動画をシアタールームで見る。中谷宇吉郎が東大で寺田寅彦に物理学の手解きを受けた様子や、グリーンランドで作った実験室などの映像が残っている。

雪と氷でできた実験室など、いよいよ寒そうだなこりゃ・・・と感想にもならないことを思いながらシアタールームを出る。

きっと私の全身から「このあとなんの予定もない人」のオーラがでていたんだと思う。中庭を眺めていると、施設のおじさんが近づいてきて話しかけられる。

この中庭の石はね、グリーンランドから運んだんですよ。中谷さんのお嬢さんがアーティストでね、と。何分かに一回霧が出る仕掛けで、中庭全体がけむっている。

グリーンランドの石。


その後、「お時間あるなら」と、1 on 1で実験を次々に見せてくれる。

過冷却(0度以下)に冷えた水も、振動を与えないと凍らないらしい。それがきっかけを与えられると氷状になる。

何本も過冷却の水が特別な冷蔵庫にしまってあって、取り出しては見せてくれる。これは氷の上に過冷却の水を垂らす場合。できた氷が筍のように見えることから氷筍(ひょうじゅん)て呼ぶんですって。へぇ。

垂れた水が凍っていく
過冷却水に刺激を与えることで面的な氷ができる
雪のキッカケ(スターダスト)を作り出す機械の中は零下


最後に見せてくれたのはこちらの、光が氷の表面ではなくて奥を溶かすことで真空の中に水が泳ぐような、チンダル現象。

光の波で氷の奥が溶ける

写真ではわからないけど、この小さな丸い泡がプルプル動くのがカメラ越しに見える。

泡が動く様子はとてもキレイ

おじさん:「ほぉら」
ワカメ:「すごーい!」

といったやり取りを繰り返す、雪が好きなおじさんと暇で中年な私。ここでも誰も他に客はいなくて、なんだろうこの構図、と思いつつとっても楽しんだ。きっと彼も楽しかったと思う。

たっぷり1時間半も滞在して、14時半に科学館を出たときに、ランチがまだだったのを思い出す。もうこの時間はどこも空いていないので、お昼はケーキにしてしてしまえと決める。金沢の友人から勧められていたイヴェール・ボスケというケーキ屋さんへ。

店内に入ると色々な説明をされる。

ここは静カフェ(しずカフェ)というコンセプトなので、喋っちゃだめよ、カメラダメよ、できればスマホじゃなくて本を読んでね、など。
一人だから喋るなと言われても全然困らないのだけどお喋りをしようと思って来た客はここで帰らされることになる。

カフェの外は畑が広がる

広い田畑に面して立っている平屋のお店。席からは大きな窓が望めて、この写真だとまたしてもまるで晴れているけど、滞在した30分くらいの間に吹雪みたいになったり雨が降ったり晴れたり忙しかった。北陸の冬はツンデレ乙女です。

普段ひっきりなしに触れてしまうデジタル機器や人の会話などから離れて静かに過ごしてほしい、というオーナーの意図は素敵だしとっても共感する。スマホが無ければ私も人生もっと豊かだと思う。

席に着くとまた注意書きが繰り返し、書いてある。きっと何回も言わないとルールを守れない人がいるのだろう。明朝体で書かれて綺麗に書いてパウチしてあるからおしゃれ風にはなっているけど、本質的には銭湯の壁に「シャワーは座って流してください」「歯磨き禁止」と貼ってあるのと同じで、注意書きっていうのは美しいものではない。

黙食でいただくモンブランは美味しく、大きな窓から眺める北陸の天気の変化は面白かった。

ただ、食べながら場づくりのためのルールを人に従わせるのは難しいよね、ということの方に意識が行ってしまう。その点、そういえば滝ヶ原ファームには、全く張り紙がなかったことを思い出す。アクセスが悪いので通りすがりの人がこないのと、家具がカッコ良すぎて普通の人は気後れするからその場の空気感に共感する人しか来ないからだろうな、と思う。ちょっとした聖地みたいな感じがするし。

モンブランを食べながら、通りすがり客にルールに従ってもらう方法、あるいは言わないでも分かってもらえる空気作りの方法を一人ブレスト。

  • 頑固親父のいるラーメン屋方式(親父が怖くてみんな様子を伺いながら過ごす。怖くなくてはいけない)

  • 神社仏閣方式(一般的に知られているお作法がある、あるいは知られていなくても特殊ルールがありそうという前提を社会的に分かち合っている)

  • 張り紙ベタベタ方式(よくある銭湯や旅館)

  • 高級フレンチ方式(これだけ高いお金を払うのなら、何かきっと私の知らないルールがあるだろうと思わせる)

  • 山小屋方式(ほとんど誰も来ない僻地で、ここにはここのルールがあるに違いないと感じさせる。たどり着くのが大変すぎてなぜか人が謙虚になる)

・・・・でも、難しいよね。

ケーキ屋さんは、単価もラーメン屋さんと変わらないだろうから、高級フレンチみたいには出来ないし。子供の頃からケーキは楽しいイベント!と思って育った人には、ケーキ屋を神社仏閣とは感じないだろうし。かと言ってピリッとした空気を作ってくれる常連客ばかりで埋めることもできないし、きっとラーメン屋の頑固親父みたいなプレゼンテーションはしたくなかったんだろうし。で、経営者の苦労を想像すると(本当に勝手に!)ちょっと気の毒になってしまった。

私がやるならどうするか?を考えたけど、まずは料金を上げるのがいいんじゃないかな、思った。ケーキ代ではなく、そこで過ごす時間に対して1時間3000円くらいを課金。そうすれば大騒ぎするおばちゃんたちはこない。でもあの立地で1時間3000円出せる人は少なそうなのでケーキ屋さんだけで採算は合わなくなってしまうから、隣りで料理教室とオンラインショップとサウナでも始めるか。(支離滅裂)

・・・・という余計なお世話な想像をして、ランチがわりのケーキは完食。


時刻は15時半くらいだったので、宿に帰るか迷ったけど、「せっかくなので」という魔法の言葉が頭の中に渦巻いて山中温泉に行くことにする。

<つづく>

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