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だから、いまを。

尻尾 続き



姫ちゃんは見つかった。

鳴いているのを捕獲されて、

下半身がほとんど削ぎ取られた状態だったそうだ。



おしりの骨が露出して

丸々皮が剥がれたそれは、

何がどうなってそうなったのか誰もわからなかった。


動物のおいしゃさんは、こんな状態は見たことがないと、言った。

安楽死させるしか方法はないかもしれない、と言った。

ひめちゃんはしゅじゅつをして、

その日から病院の、小さな集中治療室にいる。

助かるかどうか、まだわからない。

人間をふくむ、動物のいのちなど、

あっけなく、どこまでも、

どこまでも

はかない。


わたしは、そして、自分のことが
とても、恥ずかしくなった。


数日前に、近所のお気に入りお茶やさんの4周年祝いのアコースティックライブがあった。



とっても素敵なギターとemotional な歌声のすぐ横で


その4年間を振り返るようにして、
わたしの大好きな店長さんは
涙をこらえていた。


わたしが行き詰まっていたとき、たびたびそのお茶やさんに足を運んで


時間を潰す姿をみて
彼女は
お店を始めて数年の間に苦しかった時期のことを

つらつらと、話してくれた。



周年のときに、毎年ライブをやっているらしく


年々お店が大きくなって充実していく姿、


その店長の毎年の変化を、
アーティストはしみじみと語っていた。



彼は大きなレコード会社を自らやめて
恵まれたキャリアも何もかも捨てて

そして初めて身ひとつで
旅をしながら歌い始めたその夜の話をした。


わたしは、そのはなしをきいて、

数ヶ月前ににわかに人気が出て
一時的にチヤホヤされたあとに

そのコミュニティから離れ、ひとりでもういちど
小さな世界を築き上げようとしているところの


自分の苦悩とそれが重なって



そのふたりを前に、


自分のことが
とても、恥ずかしくなった。




ひとりになって、一向に仕事がうまくいかなくて、

届けたいことと
必要とされるバランスがちっとも噛み合わない時期が続いて


そのあと
わたしはずっと、世界に対して怒っていて苛ついていた。




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