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ホーボーケンと秋とパセリ一把3


つづき



所帯染みた家家を横目に歩くと

一軒だけ小さめのスーパーがあって

手ぶらで訪れるつもりしかなかったわたしは
特に何かを買う予定もなく、

ぶらりと

その古くて汚い、店の自動ドアをくぐった。



ドアが開く瞬間の

独特の乾いた、アメリカのgrocery store 食料品店の匂い。



マンハッタンにも同じように山ほどのスーパーと呼ぶにふさわしいような店もあったが、
わたしはその、スーパーマーケットではなく”食料品店”という言い方が

とても、好きだった。


それは日本にはいつか昔はあっただろう、
24時間営業のコンビニとかスーパーじゃなくて

個人の埃くさい商店のような情緒があった。



棚の下の奥の洗剤はかならず水垢がついていて
棚の下の奥のほうの小麦粉の、賞味期限が切れている割合はフィフティフィフティ。

日本ではとっくの昔に絶滅したであろう

そんな光景が大好きだった。


食料品店(grocery store)とも呼ばれない、
コンビニに対するデリ(deli)という小さな個人の便利店に

太って汚く、可愛げのない猫がふてぶてしく入り口を占領しているところを

「よいしょ」とまたいで

1pint(473ml)のハーゲンダッツを抱えて

店の主人と夜遅い時間に交わす、ひとことふたことの

距離感



それは、わたしがニューヨークに住んで

4番目くらいに好きなところだったかもしれない。


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