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【73回】死にかけた経験。まだ生きていたい。(190226)

「私の人生のほうがあなたの人生よりもずっと大変なんだ」と誰かに言われても、「僕は僕が体験した人生」からしか言葉を作ることはできない。

読書も僕が体験した人生の一部である。相手の苦しみは、想像することと、共感することはできるが、真実にはたどり着くことはできない。

自分の経験は言葉で書くことはできる。
生かされているという経験である。

最近、2人から、死にかけた経験の話を聞いた。
一歩間違えれば、死んでいた話。
助けが来なかったら、死んでいた話。
なんというおそろしさ。なんという運命。
2人とも今は元気に生きていて、社会で活躍している。

死にかけた経験は、心を切り替えるのか。
2人は前を向いて、進んでいる。

僕にも、死にかけた経験はある。

北海道を自転車で1周したことがある。まだ19歳。
忘れもしない。雨の日。場所は十勝。士幌町の国道にて。この日は帯広市に向かっていた。
当時、自衛隊の車が走っていたこと、また、帯広市に向かう国道ゆえ、車は連なりながら走っていた。対向車も頻繁だ。僕は道路の端っこをゆっくりとこいでいった。

路面は濡れていた。
この旅行では一度も怪我をしていない。転んでもいない。
なんだ。原因はわからない。
突然、スリップした。
直後、倒れた。

路肩に落ちていたらよかったのに。なんということだろう。
道路の真ん中に投げ出される格好になってしまった。

一瞬何が起こったかわからなかった。
路面に顔がついているようだ。
音が聞こえる。車の音が。近づいてくる。体が動かない。
なぜだ。
どうしても体が動かない。
だめだ。目をつぶってしまった。
もうダメだ。
音が消えた。

一瞬。
目を開けると。
僕の前方数メートルの位置に、車が止まっていた。
僕が立ち上がると、車は走り去っていった。

道路には荷物が散乱していた。
痛みをこらえながら、急いで荷物を回収し、自転車を起こして路肩に寄った。

何が起こったのか。
雨の中ボーッとしていたら、声をかけてくださる人。
そばに住んでいる方だった。

どうして出てきてくださったのか。わからない。
もしや、車のタイヤの音がしたのだろうか。僕には全く聞こえなかった。
チェーンがはずれてしまった自転車。
直さないといけない。

「うちのビニールハウス使え」

なんというありがたいことだろう。
ビニールハウスの中に自転車を入れて、直すことになった。

「気をつけないとだめだ」

注意を受けながらも、お菓子か何かをいただいたと思う。

転んだ時のことを思い出す。対向車も頻繁だった。転ぶ直前まで、車はすれ違っていた。転んだ時、後ろの車は、反対車線に出て僕を避けたはずだ。そうしないと轢いてしまう。
たまたま対向車が来なかった。だから、後ろの車は、僕を避けることができた。

まさに偶然。
荷物を拾い直して呆然としているとき、車は変わらず、どちらの車線も行き交っていたのだから。

自転車をじっくりと直した。
お礼を言って、出発した。
まだ雨だったか。記憶がここははっきりしていない。
無事に帯広市についた。

この後、帯広〜広尾〜襟裳岬〜浦河〜門別〜登別と進んでいく。
広尾でタイヤがおかしいことに気づき、登別の自転車屋で「タイヤがバースト寸前」と言われてタイヤを購入。
結局、タイヤがつるつるだったことが、スリップの原因だったのだろう。

轢かれてもおかしくなかった。
思い出すと、今も怖い。
生きている。
まだ死ぬなということなのか。

ただこのとき生きたからこそ、妻や娘にも、生徒たち、様々な教師、子ども支援のプロに会うことができたわけだ。

精神的に追い詰められていた病気休職前は「死にたい」と言っていた。
今は死にたくはありません。
まだまだ生きていたいです。
運命様。
よろしくおねがいします。