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本物のリーダーは無知を自覚し、「学びの旅」に人々を巻き込む

原文:Power of Ignorance, Especially for Leaders – Toshi Iwata – Medium

無知は役立たずであるが、英知の必須条件でもある。特にリーダーの立場にある人にとってこの認識は重要である。わからないことを素直に ”I don’t know” と普段から言っているか。特に部下からの核心をついた質問に対してだ。仮定のシナリオをでっち上げ、地位に物を言わせて納得させたりはしていないだろうか。

リーダーとは一般に「5つのE」ができる人を指す。将来像を描き示す (envision) 、組織の問題を取り除き機能させる (enable) 、人を巻き込み (engage) 勇気付ける (energize) 、そして指図するだけでなく、リーダー自らが重要な仕事を実行する (execute) 。このモデルは将来も変わることはない。

しかし、人間が今日やっている作業の多くが人工知能 (AI) に取って代る時代を考えると、このリーダーシップの定義には、最も重要なことが欠落している。

AI時代のリーダーにとっての最も重要な役割は、人類全体の知識の外側に何か有用で意味があるかもしれない物事を見出すことだ。指揮官が歩兵部隊を率いて、未知の領域に真っ先に足を踏み入れることと同じだ。リーダーは、自分を含めた組織が何をわかっていないのかを認識している必要がある。無知を認識するためには、開かれた心で見るもの聞くもの全てを受け入れる、謙虚な姿勢が大切だ。人間の目には自分がすでに認識しているものだけしか見えないからだ。人類は長い間、空気の存在や地球が丸いこと、重力の存在、細菌やウィルス、分子や原子、量子の存在を知らなかったではないか。

AIはどれだけ進化しても自らの無知を認識することはあり得ないが、人間は自らの無知に気づくことができる。ただしそれは心がけ次第である。未知の開拓には地道な努力の積み重ねが必要だ。しかし現実には、私たちの多くがそれを怠るという愚行の罠にはまってしまっている。なぜなら私たちの周りには溢れるほどの情報が氾濫し、それを取捨選択することに時間を費やしてしまうからだ。

リーダーにとっての罠とは、ビジョンを策定し、戦略を練り、目標に向かってのプランを立てることに囚われてしまうことだ。人間が描けるビジョンは、人類がすでに認知している範囲内でしかない。想像力を働かせてもせいぜいSFの世界だ。自分の専門性と組織がもつ知識を総動員し、つまりすでにある知識をベースに、目標を達成するための効果的な戦略や、成功が確実だと思われるプランを描くことはできる。このタイプのリーダーは、20世紀において、あらかじめ策定された目標を達成するのには絶大な力を発揮した。しかし彼らは21世紀には確実に壁にぶち当たる。なぜなら彼らは組織を未開の地へ進軍させることがないからだ。さらに、遅かれ早かれアルゴリズムとビッグデータを用いて自ら学習できるコンピュータが、ビジョンの策定や計画や戦略の立案を圧倒的な速さと信頼性でできるようになる。

人間にしかできない21世紀のリーダーの役割とは何か?その鍵の一つは「実験をする」ことだ。自身のビジョンや夢、顧客のニーズに基づき、何か違うことをする。何か今まだにやったことのない事をやってみる事だ。そして何が起こるかよく観察する事。結果が自分の期待した通りであれば、そこで喜んではいけない。それはあなたがすでに認識している事を再確認しただけだ。ほとんどの場合、同じアイデアを世界の何処かの誰かがすでに特許として出願していたり、製品化していたりする。ノーベル物理学賞をとったEnrico Fermiは以下のように言っている “an experiment that successfully proves a hypothesis is a measurement; one that doesn’t is a discovery.” つまり「仮説を立証した実験は単なる測定でしかない。仮説を立証できないのが発見である」と。

二つ目の鍵は、予想を裏切った実験結果や失敗について詳細を観察し、分析することだ。予想外の結果は何を意味するのかを批判的に思考し、どのようにうまくいかなかったのかをよく観察することだ。何か新たなことに気付けばその意味をよく考えることだ。最初に考えていたのと全く違う方向性でさらに実験をするべきなのか、あるいは観察された結果に対して別の解釈があるのか、またはそうした発見を何か世の中の役に立つための別のアイデアにつながるのか。このように試行錯誤することが人類全体の知識の外側へ踏み出す重要な第一歩なのだ。その第一歩は、Steve JobsがiPhoneのプロトタイプのプラスチック・スクリーンの傷を見つけ、ガラスに変更させたたことのように小さいことかもしれない。あるいは、ニュートンがリンゴが木から落ちるのを見て重力の存在と方程式を閃いた瞬間のように重大なものかもしれない。しかしその大小が問題なのではない。重要なのは、常識をかなぐり捨て、自分にとって快適な枠から飛び出し、新しい事を試し、新しい見方、考え方をしてみること。一歩づつで良い。これは「実験をする」ことでしか実現しない。試行錯誤をし、目の前で展開する現象を先入観なく真っ白な心で観察する。そしてそこから考える。このステップを繰り返すことでしか、自分自身の知識と人類全体の英知から外へ踏み出す方法はない。

リーダーとは、無知を知覚し、発見や気づきの積み重ねの学習 (heutirsic method) を自ら実践し、その「学びの旅」に人々を巻き込むことのできる人である。これは21世紀のあらゆる分野(イノベーターや起業家だけでなく、ビジネスや政府、芸術や非営利団体、ボランティア組織など)のリーダーにとって普遍の必須条件となる。

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