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「首から下はシータケを」

1月23日に出た電気グルーヴのアルバム『30』がすごくいい。妙に頭に残るし、何回聴いてもそのたびに発見がある。わたしはGoogle Play Musicに入っているので配信で聴いているけど、これならCDも欲しいと思える。

30』は、電気グルーヴのデビュー30周年を記念して制作された14枚目のフルアルバムで、収録曲の多くが定番曲のリメイク版。ベスト盤っていうのともちょっと違って、いわば電気グルーヴのエッセンスみたいなものをちゃんと今の音にアップデートした2019年版になっているのだ。とりあえずこれを聴けば電気グルーヴがどういう2人組でどういう音楽をやってきて、今どういう感じなのかがだいたいわかる。

いちご娘はひとりっ子』のソリッド感とかすごいですよ。音響的に煮詰まってる音の良さみたいなのももちろんあるんだけど、歌詞のなかに現れる日本語の歯切れの良さ!

カセットコンロ持って待ってる 市場イチのベッピン
コサックダンス出来たっけ? いくらでしたっけ?

これとかもう、言葉を「音」として発音したときの気持ちよさの極限みたいなところまで行っていて、もはや単に語尾が韻を踏んでいるとかじゃない…全体がそこにすぽっと収まるようなかたちの音を選んで当てはめている感じ。読んだだけじゃわからない。聴けばわかる。きっとシンセサイザーの音選びに近いような、意味としての必然よりも音としての必然性がある。

っていうかね、30周年のアルバムでタイトルが『30』って言ってるのに、1曲めが『電気グルーヴ10周年の歌 2019』っておかしくない? 「電気グルーヴ10周年」を連呼しているんだよ! ここでもう、どれだけブランクがあっても「あっそうだ、電気ってこういうのだった」ってなる。

Slow Motion』もかっこいいし、『富士山』や『Flashback Disco』は相変わらずだし、『WIRE WIRED, WIRELESS』はもうなくなってしまったWIREを思い出してしまい相当エモい。WIREでは、卓球さんのDJで『WIRE, WIRELESS』のブレイクのときに出力全開のレーザーが空中を満たして無数のワイヤーを張り巡らせるような演出が恒例のピークタイムだったのだ。

言い切ってしまっていいと思うんだけど、わたしの世代…というかわたしよりもちょっと上の世代のテクノ・ファンは、たぶんほとんどすべての人が多かれ少なかれ電気グルーヴの影響を受けている。電気が1990年代、日本中にテクノの遺伝子をばら撒いたことは本当に大きかった。自分のときは、高校生で『A』を聴いたときにはもう電気以外を経由してテクノ(=エレクトロニック・ダンスミュージック)にアクセスする手段がたくさんあったんだけど、それでも電気グルーヴのラジオ番組では生まれて初めて聴くようなタイプの曲にたくさん出会った。

マイク・ヴァン・ダイクの9-10-Boy名義の"Robocop"とか

"Mayday Anthem"とかもそうだった

わたしにとっての電気グルーヴは、大好きなアーティストで大ファンとかいうのではなくて…もちろん好きな曲もアルバムもあるけど(『ORANGE』が一番好き)…テクノのエヴァンジェリストみたいな感じで見ていた。最近の活動についても、アルバムをたくさん出して相変わらずライヴも精力的にやっているらしい、みたいな話が流れてくる程度で積極的に追ってはいなかったのです。

だから、電気の新しいの出るのか~久しぶりにちょっと聴いてみようかな、みたいにして気軽に聴いてみたら、想像をはるかに超えてすごい完璧な作品だったので驚いている。こんなにカッコよかったっけ! みたいな。このアルバムほんといいですよ。ナタリーの記事でインタビュアーさんも言ってるけど、「軽く振ってホームラン」みたいな感じ。

今回メディアにはいろんなインタビューが出ているっぽいけど、こっちのやつも良かった。卓球さんが茶々入れてるのをこんなに忠実に文字に起こしている媒体も珍しいんじゃないかと思う。脳内再生がすごい。

「首から下は地井武男」

でそういえばね、アルバムに収録されている『電気グルーヴ30周年の唄』(これがまためちゃくちゃカッコいい曲!)のなかで、繰り返し繰り返し、「首から下はシータケを」って歌っているところがあるんです。

これ、「シータケを」のとこは絶対元は「地井武男」だ…そういえばなんか聞いたことがあるフレーズだ…でも何だっけ…と思ってググったら完全にこれだったのでした。

こんなの覚えてないよ!

しかもこの「首から下はシータケを」が「すべからく質がいいだけよ」になって、「これ電気グルーヴの30年」に繋がるんだ。…かっこいいじゃん!

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