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【映画】『ザ・コンサルタント』『ブレードランナー』

部屋での映画鑑賞メモです。

『ザ・コンサルタント』 (The Accountant, 2016)

8月の逆噴射映画祭でも取り上げられたベン・アフレック主演『ザ・コンサルタント』がNetflixの新着に入っていたのでようやく観ました。おもしろかった。いろんな伏線が最後にビシッとハマる、とても巧妙な映画でした。

と言っても作劇はわりとシンプルなんですよね。何でもない町の会計士が実は筋肉ムキムキのマッチョマンで、会計をチョロまかしていた企業の闇を暴いたら殺し屋に狙われて逆に返り討ちにするという、要はそれだけなんだけど、構成の工夫でこんなにおもしろくできるのかみたいな。

メインのストーリーラインのほかに、過去の事件を追う財務省の捜査官というふたつめのストーリーラインが走っていて、繰り返される冒頭の回想シーンの「ある事件」が「いつ」「誰が」「何のために」起きたことなのかが徐々に明らかになっていく。でもそのふたつのラインは直接的には交わらずに、「えーっ、そっち!」みたいな伏線が活かされていく驚きがあった。ラストは「あれは君だったのか!」ってなる。

アクションはそんなに派手ではないし、雑なところもあるにはあるのです。主人公が投獄されることになる経緯はいまひとつ分かりにくいし、弟のくだりとか…そこは逆にもうちょっと伏線あってもいいんじゃない?みたいな。

自閉症傾向のある人が超人的才能を持っている、というようなキャラづけも10年、20年前ならともかく、もはや時代遅れというかあまり正確な表現ではないと思うんですよね。超人でなくても適性を活かして社会生活を送っている人はいっぱいいるわけだし、広義の自閉症スペクトラムに含まれる人々を単に共感性の薄い人としてではなく、もうちょっと魅力的に描くほうがリアルになったはず。

それはともかく、クライマックスでとっちらった伏線を一気に回収してきれいに終わるタイプの謎解き作品、個人的に久しぶりでした。エンドロールの曲もなんだかしんみり良くて、イエーイっていう感じではなくて、あ~おもしろかったという。

ところで、邦題難しいですよねこれ…。コンサルタントって別に会計士じゃないし、かといってアカウンタントって言われてもみたいな。"The Martian"が「火星の人」にならずに『オデッセイ』になったときと同じような難しさを感じます。

『ブレードランナー』 (Blade Runner, 1982)

新作の公開を控えて、4年ぶりに見ました。今回はとりあえずと思ってGoogle Playのレンタルで済ませちゃったけど、これBD買って手元に置いておきたいな。バージョンはファイナル・カットです。

ラストシーンがじんわり沁みて、余韻がとても味わい深かった。初めて観たときとも、多分ちょっと感じかたが違う。

『ブレードランナー』というとよくカルト映画の代表みたいに言われて、難解な作品のように思われがちだけど、改めてお話の枠組みだけを見るとすごくシンプル。捜査対象の女性に惚れてしまった刑事が、職務との葛藤のなかで女性と逃亡を図るという古典的なロマンスで、その枠組みに「人間」と「レプリカント(またはアンドロイド、クローン)」とを区別する「境界」への問いを持ち込んだのが新しかったわけですよね。

見た目ではまったく区別できない、人間とレプリカント。レプリカントであるかどうかを、たとえば一皮剥いたら機械だったとか、そういうビジュアルで区別できないという設定にしたことがまた画期的だったのだろうと思います。

まあ、共感性という区別の仕方も今にして考えれば相当アバウトなもので、例えば『ザ・コンサルタント』の主人公が共感性テストを受けたなら、ほぼ間違いなくブレードランナーによるretirementの対象になってしまう…。なので、あくまでも本作に限定された架空の概念なわけですが、そういう世界においてロイがプリスに示す明らかな共感、あるいはデッカードがレイチェルに示す共感って、まさしく人間もレプリカントも違いはないんじゃないの?という問いなのでしょう。ユニコーンの折り紙のくだりもいいですよね。

そしてとにかく映像美に圧倒されたというか、ワンカットごとのセットのディテールの細かさに唸った。今のCGならそんなに苦も無くできるんだろうなというようなことを、ホントに手間暇かけてやっていますね。美しい…。

今回はヴァンゲリスの音楽の良さもしみじみと楽しむことができて、サントラを探してみたらGoogle Play Musicにあったので聴いてます(おそらく1994年版)。これ、作中のセリフ音声とかを織り交ぜた編集版なのだけど、様々なシーンが映像で思い起こされてすごく良かったです。セリフがまた楽曲を引き立てる感じで、繋ぎのところだけに入っている。映画のサントラって、原曲だけで聴くと素材を並べた感じで案外そっけなかったりするので、こういうバージョンはすべての映画サントラにあってもいい。

にしても、明日10月27日公開の『ブレードランナー2049』楽しみですね!

作品の出来に関しては、私はヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』(Arrival)における詩的で瞑想的な雰囲気は『ブレードランナー』にかなり近い類のものだと思うし、そもそも聞こえてくる前評判の高さもあって、まったく心配はしていないのです。

何をもって『ブレードランナー』なのかというと…つまり、あの作品の特色は典型的なSF未来都市ディストピアの原風景を形作った、という点にももちろんあるけれど、その表面をなぞっただけでは『ブレードランナー』にはならない。それだけじゃなくって、結局、人間と非人間を隔てるものはなにかというシリアスな問いにどういう態度で向き合っているかなのだと思います。そういうことがおそらく、もはや「あの風景」ではない、アップデートされた「新しい近未来の原風景」として映像にも表れてくるのではと期待しています。

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