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【映画】バーフバリ 王の凱旋 完全版

観てきました。まさしく完全版でありました。インターナショナル版においても内容に過不足はまったくなく、あれだけを観ても十分と言えるのですが、今回の編集版は細部がさらに補強されて、2度目でも3度目でも楽しめるものになっていました。

前回の感想文はこちら。

言っても前回観た日(1月10日)から5ヶ月弱経っているわけで、細かく編集の差分を指摘できるほどでは全然ないです。もっと熱心なバーフバリフリークみたいな方がたくさんいるし、絶叫上映会とかも行っていないし。でもですね、ここは前なかったかも…みたいなシーンがことごとく良くて、本筋ではないんだけど、そうだよねそうそうみたいな感じでした。

例えば、既にレーベル公式YouTubeでも観ていたデーヴァセーナの子守歌「かわいいクリシュナ神よ(Kannaa Nidurinchara)」のダンスシーンなんかは、デーヴァセーナがアマレンドラのことをどう思っているかという心の機微と、それに対するアマレンドラとカッタッパのかわいいリアクションが描かれていて、別にこのシーンがなくても2人が心で通じ合っているのは十分に伝わるんだけど、描いてくれてありがとう…みたいな。

強い! あまりにも!

それにしてもほんと、物語としての強度というのか、逆噴射聡一郎先生が言うところの「そもそもおまえの遺伝子が知っている話」「グーに手を抜かなければ最強につよい」というのを観ながらつくづく感じました。

わたしが知るうちでこの『バーフバリ』に一番近いエンタメは、実はバッハの『マタイ受難曲』だと思うんですね。あれもイエス・キリストの受難という神話的光景を多彩な"キャラソン"でいろどった長大な物語で、どんなに反駁されようとビクともしない普遍的な人間性を描いている(わたしには、ある面でカッタッパがイエスを否認したペテロに思えて仕方がない)。バーフバリにも、同様に世界的ミームになりうるポテンシャルがあると感じます。

追加されたシーンがある一方で、やはり物語の芯の部分が一番おもしろい。特に後半、青年シヴドゥが己の使命を自覚してマヘンドラ・バーフバリになるシーンは、すべての伏線が回収されて一点に繋がり、クライマックスに向けて絶大なベクトルが発生する瞬間で、とんでもなく熱く心を打たれて自然と泣いてしまう。素晴らしい映像作品には、ああやって心のスイッチがカチッと入り、ダムが決壊したように脳内麻薬がドバー湧きだすポイントが往々にしてある。そういう強さで言えば、先のインターナショナル版で既に十分完成されていると感じました。

パンフがヤバイ

にしても、今回新たに制作されたパンフレットの情報量がおかしい。普段映画パンフレットってほとんど買わないほうなんだけど、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』以来で久しぶりに購入した。

48ページの平綴じ本で、監督インタビューやキャスト紹介、コラムなどの定番コンテンツももちろん、各国語版ポスタービジュアル、イメージボード、さらには本作の全シナリオまで収録している。セリフのみならずト書きが細かく色分けされ、各シーンの宗教的・文化的バックグラウンドに関しても注釈で都度解説が入るというこだわりよう!カタカナの歌詞集も入っている。これで1,000円は全然ありですね。公式ガイドブックみたいな充実度です。

今回、配給会社さんの働きが本当に素晴らしくて、『伝説誕生』『王の凱旋』って邦題や「王を称えよ!」というキャッチコピーもそうだし、そもそもソフト発売後に完全版の劇場公開みたいなことを実現したのもすごいなと思う。なんというか、配給会社にしたっていつも名作ばかり買い付けられるわけじゃないし、自分とこの売り物が正真正銘のおすすめというのは仕事冥利に尽きるのだろうなあというのは想像に難くない。

やっぱり『伝説誕生』から観てほしい

ちなみに今回も冒頭に前作『伝説誕生』のダイジェスト映像が入りました。インターナショナル版公開時と同じもの。なので、何も知らずにいきなり『王の凱旋 完全版』を観に行っても大丈夫です。100%お話は分かります。

分かりますが…やっぱり初めて観るなら『伝説誕生』から観てほしい!今回の完全版を観てさらにそう思うようになりました。この映画の後半で描かれる、さまざまな形の積年の願いの成就(結願)は、前作『伝説誕生』のフリに対するオチになっている。その帰結、あるいは円環構造にこそ"神話"の重みと完全性があるのであって、それはただお話の筋がわかるということとは質が異なるものだと思います。

バーフバリ 伝説誕生』、配信でもレンタルでも、観ようと思ったらハードルは決して高くないし、ぜひともおすすめします。わたしは最初Amazonビデオのレンタルで観ました。

強いて言えば2時間強、後半にあたる『王の凱旋』と合わせて5時間という上映時間こそがハードルといえますが、観てしまうとたった5時間がなんだと思ってしまう。わたしはこの5時間で、一度きりの人生では絶対にできるはずのない体験をしました。それは、「"神話"の目撃者になる」ということ!こんな映像観たことないし、こんな音楽聞いたことない…ただ魂がこの話を求めている。

あと、今回の完全版で追加されたもののなかで一番印象的だったのは、具体的にはもちろん伏せますが、エンドロールでのほんの短いある「語り」です。これが追加されたことによって、わたしがバーフバリに対してぼんやり抱いていたある疑問…「王たる資格というのは、結局は"血統"なのか?」という問いに対して、「そうじゃないよ」という明確な答えを提示してくれています。そうとは分かっていたけれど、そうだよね!みたいなね。

もはや、ただ臣民として王を称えるだけであってはいけないよ。誰もが皆、バーフバリのように強く気高く生きることができるのだ…。


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