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【映画】『メッセージ』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー・リミックス』

5月19日、立川シネマシティで公開初日の『メッセージ』と公開2週目の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー・リミックス』を観てきました。ネタバレなしの感想です。

『メッセージ』("Arrival")

原作小説『あなたの人生の物語(Story of Your Life)』(テッド・チャン著)を未読の状態で観に行きました。これはポスターなどのビジュアル・インパクトに反して、なんとも瞑想的な映画です。

私は原作小説のロジカルで哲学的なトーンをふんわりと聞いていたのでほぼ期待通りだったのですが、いわゆる異星人とのファーストコンタクトもの…宇宙戦争!人類の危機!みたいな…をイメージしていくと、あまりにも地味な展開にびっくりするかもしれません。要するに意外とコンパクトな密室劇で、カルト的とは言わないまでも、誰にでもウケる分かりやすいエンターテインメントとして作られていないのです。どちらかというとアートに属する部類の作品。

で、アートとは何かというと、エンタメや娯楽作品のデザインが「答え」だとするならば、「問い」です。観終わったあとに去来するのは、主人公ルイーズの境遇に馳せるぼんやりとした思いと同時に、自分ならどう考えるか?という、極めて内省的な問いなのでした。

宇宙的なマクロの視点を捻じ曲げてミクロの問いにつなげるという意味では、クリストファー・ノーランの『インターステラー』に近いところもあると思うのですが、小難しい理論を全部すっ飛ばして、構成の妙と詩的な雰囲気「のみ」でまとめた本作のほうが、私は映画としては好きです。むしろ、この映画で省かれた理論の部分を知るために原作小説を読んでみようと思わされる。

また、この映画はヨハン・ヨハンソン(ポスト・クラシカルの代表的な作曲家のひとり)の手がける音楽がとても良くて、メインテーマに採用されているマックス・リヒター(Max Richter)の"On the Nature of Daylight"も、長ーい残響のように心に残りました。

マックス・リヒターは私も大好きな作曲家で、ミニマル・ミュージックを基点としてヴィヴァルディの楽曲を"再作曲(recompose)"したり、最近でも眠りをテーマに8時間演奏し続ける作品"Sleep"を発表したりと、「時間」という概念に真摯に向き合った本作にふさわしい音楽として、これ以上の組み合わせはないと思います。

欲を言えば、「ネタばらし」の過程がもっとドラマティックかつショッキングであれば、より良かったかもしれません。どこかで弾けるポイントがあれば大変な名作になったかもしれない…。なんというか、じわじわ分かってくる、という感じなのです。

また、おそらくは原作小説で描かれているであろう、学者が理詰めで真相に迫っていくみたいな知的興奮は(思ったほどは)得られない。このあたりは監督側もある程度割り切って、敢えて映画ならではの映像表現に特化するほうを選んだような気もします。

仕掛けが分かったうえで2周めを観ると、たぶん感じ方も変わってきそうです。まずは原作小説を読んでみたい。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー・リミックス』
("Guardians of the Galaxy Vol.2")

これはね、完璧な"Vol.2"でしたよ。『メッセージ』が「問い」であるならば、これは観客があのガーディアンズたちの話の続きとして観たかった100点満点の「答え」でした。大満足!

"How to Train Your Dragon(ヒックとドラゴン)"の1に対する2にもちょっと似ていました。出自の謎と、そこからの決意の旅立ちというのはおそらくヒーローものにおいて必ずどこかで描かれるべき要素のひとつだと思うのですが、割とテーマがとっ散らかっていた前作に比べて、そのあたりが鋭く簡潔に表現されていてとても良かったです。本シリーズにしては少し意外なラストの展開にも、これが表現したかったのなら必要だよねえという絶対の納得感があります。

1を観ていなくても分かるようには作られているものの、これは完全に各キャラの魅力をより深く広く掘り下げた正統な続編なので、1は観たほうがいいですね。私も2年前に観たきりでお話やキャラクターをほとんど忘れていたので、事前にAmazonビデオでレンタルして予習していました。

1に関していうと、非の打ち所がない作品というわけでもないのです。序盤は固有名詞がたくさん出てきて混乱するし、テンプレ的なアメコミ宇宙表現がチープに見えてしまって、話にのめり込めないところもある。
ただ、私が1で決定的に好きになったところは、負け犬たち(a bunch of losers)が円になって作戦会議するシーン。それまでに積み重ねたキャラクターの個性が、ユーモアを含んだ短いセリフの応酬となって、クライマックスへのテンションにガチッとスイッチする脚本のパワーに感激したのです。

本作では、その脚本がよりスマートで磨き抜かれたものになっている印象を受けました。舞台設定やキャラの魅力は説明し終わっているから、最初の瞬間からエンジン全開で、無駄な部分がない!今回は文句なしです。

一方で、(これ自体は別にネタバレではないと思うので書きますが)前作から一貫して宇宙の脅威として描かれているサノスの動向やインフィニティ・ストーンに関しては今回ほぼノータッチだったのです。このへんの取捨選択が潔いと思うし、やはりテーマを絞ったことが活きている。新しいキャラクターも加わったことだし、次回作以降も全然いけますねこれは。

とにかくスタッフロールに至るまでサービス満点。1を観たならぜひ。

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