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【rural 2019】3泊4日テクノ山籠もり・後編

(前編はこちら)

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DAY 3:最後の夜、極上の視聴覚体験

7時台にすっきりと目覚めた3日目の朝。昨夜まで断続的に降っていた小雨もいったん止んで、ちらほら青空も見えているスタカ湖キャンプ場。

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キャンプ場の名称はスタカ湖だけれど、漢字ではこのように巣鷹湖と書く。直径150m程度の人工湖で、一帯のキャンプ場は野沢温泉スキー場が管理しているらしい。この高原付近にまで数基のゴンドラリフトが設置されていて、要は冬場のスキーシーズンはこのあたりから温泉街までの広大な斜面が丸々ゲレンデになるのだ。スケールが大きいね。

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湖面の反射率が高く、こういう風景がDJやトラックメイカーにはどうしても波形に見えてしまう。もちろん、今朝も向かいのレイク・ステージではガンガン大音量のテクノがかかっている。Mike Parker(こういうやつ)みたいな脳に響くシンセが延々とぐにょぐにょしており、わたしが普段部屋で聴いているようなのが大自然で鳴り響いているシュールさに笑ってしまった。

この日もシャトルバスで山を下りて温泉へ。汗を流してさっぱりしたあと、先に戻る友人らと別れてひとりで野沢温泉村を散策してみることにした。いろいろと書きたいこともあるので、これはまた別の記事に起こします。

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14時台のバスで山に戻る。乗りはぐれた客が次の便まで1時間以上待たなきゃいけないみたいな混雑状況を鑑みて、この日から乗車整理券の運用が始まっていた。といっても、運営のスタッフさんが停留所付近に集まった人たちにこういった紙切れを配って回っているようなゆるい感じ。こうした対応のアナウンスも含めて、ruralの運営は少ないスタッフで回しているようで大変そうだった。

運営の大変さでいうと、資金的にもやっていけてるのか不安になるのですよね、このイベント。表向きスポンサーがついているようには見えないし、そういうアティチュードなのか、フェスでありがちなTシャツやタオルなんかのグッズ販売は一切やらないし。そのくせ、こんな山奥まで大量の機材を運んで設営して、バス会社や出店の手配をして…みたいなことを考えると、1000人やそこらの集客(会場を見る限りおそらくそんな規模だ)で賄えるとは、素人目線でも思えない。おそらくは多くの、ほとんどボランティアのような善意で出来ているのではと思います。

関連して、2018年に公開されたResident Advisorによるruralスタッフへのインタビュー記事がおもしろいので貼っておきますね。驚くのは、みなさん専業じゃなく趣味(!)でこの仕事に取り組んでおられるというところ。好きな人たちが、好きな人向けに作り続けてきたイベントなのだ。敬意しかない。

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山へ戻ってきた。空気はひんやりして、たびたび濃い霧が発生し、連夜の小雨もあって地面はだいぶぬかるんできている。移動に長靴を使ったほうがいい場面もあったりして、ワークマンで買っておいた軽量長靴が活躍した。

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メインフロアのバーテントの前の地面もボコボコでこんな感じ。泥にハマらないようにお酒買いに行くの、まあまあの難易度だよ。酔ってるし。

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これは長野のクラフトビール、Hakuba Brewing Companyの白馬ペールエール。フルーティーで飲みやすかった。

日が暮れて、エントランス付近からフォレスト・ステージに至る道のりを動画に収めてみました。地面を踏みしめて奥へ進むごとに徐々に大きくなってくる音や、さまざまなライティング演出による気分の高揚感。雰囲気の一部は伝わるのではないかと思います。

さて、この夜のメインアクトは個人的にはFunctionのライブセット。FunctionことDavid Sumner、わたしは高校生のころからのファンで、古くはRegisとのプロジェクトPortion Reform、ここ10年ではSandwell District(来日ギグにも行った)、ソロ名義での名作アルバム"Incubation"など、ハードミニマル史において鈍い光を放ち続ける、ダーク・インダストリアル・ミニマルテクノの職人のような存在だ。今回は他に例のないエクスクルーシブなオーディオヴィジュアル・ライブとのことで楽しみにしていました。

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で、それがなんというかその…予想外のやつだったのです。まず舞台袖から来たサポートメンバーが棒の先に鳥がついたようなやつを動かし始めてから「ん?」となって、そのあと女性ダンサーが謎のパフォーマンスを始めて、本人はというとマイクに向かって客を煽ったりスピーチしたり歌ったり…要するに、自身に求められているパブリック・イメージやひいてはruralというステージのカラーをあんまり考慮しているようには思えず、やりたい放題だったのだ!

そしてまた、オーディオヴィジュアル・ライブという触れ込みだったのが、映像もよくあるVJ素材以上にさほどのことはなく、楽曲ごとのトーンやテーマとリンクしているのは感じられたものの(彼自身の音楽的ルーツや関心ごとなどが主題になっていたようだ)、ひとつひとつの音とシンクロしているわけでもなさそうだった。MCでこのプロジェクトに3年かけたというようなことを言っていたけど、3年かけてこれ…! というズッコケ感があった。

一方で、音はまぎれもなくいつものFunctionでめちゃくちゃカッコよく、確かなサウンドデザインのなかに抑制的でクールなフレーズが反復しており、期待通り踊れた。

でね、たぶんFunctionにも主催にも誤算だったと思うのが、最終夜のこの時間帯になって初めて、あれだけ分厚かった雲の切れ間からなんと星空が見えたんですよ。ずっとこの瞬間を待っていた! 空一面とはいかないまでも、長年の都会暮らしには、星ってこんなに多かったのかというほどの数。視覚体験として、このイレギュラーな星空の美しさに対して仕込みの映像が完全に食われており、空を見上げて踊っていたほうがよほどいいという時間だった。

それにしても、決してライブ自体が悪かったわけではなく、超絶ベテランのFunctionであってもこうなのかという、なんともしみじみとした良さがあった。つまり、好きなものを好きだと表現するときって、エゴの表出であり究極の独りよがりであり…ひとりで何もかもプロデュースする以上、自己を客観的に評価することは難しいのだな、みたいなことだ。

続いてのWata Igarashiさんは、走ってるストレートなテクノでガンガン盛り上げていた。全タイムテーブルを通してもここがピークタイムだったように思う。この3時間、こういうテクノこそが求められていた。フロアを取り囲んでいた照明も落として、ほぼ真っ暗にしている演出もハマっていた。

1時からこの日のフォレスト・ステージのトリはAlessandro Cortiniのライブ。個人的にruralベストアクトでした。壮大かつ重厚なシンセサウンドで、複雑に編まれたエモーショナルな持続音を操るさまは、まるでオルガンのコンサートを聴いているようだった。Alessandro Cortiniは9月27日にMuteからアルバム"Volume Massimo"がリリースされるとのことで、新作からの曲も多かったよう。上の動画でプレイしている曲はアルバムから"LA STORIA"。

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これはPixel 3aのカメラの夜景モードがヤバいんだけど、ステージと雲間から見えたオリオン座がいっぺんに撮れた。まさにこのままの空間で、星空を眺めながら爆音のエレクトロニクスに満たされている感じ。たぶん一生忘れられない、極上の視聴覚体験だ。

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深夜2時、代わってレイク・ステージの朝までのラストランが始まった。アンビエントのようなノンビートのトラックが続き、長いパーティーを畳みにかかる。

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この夜は本当に、寝てしまうのが惜しくて、わたしは一人この写真の人々のようにフロアに椅子を持ち込んで、ぼーっと星を眺めながら長い音の波にたゆたっていた。もはや現実との境界は限りなく曖昧になっている。

折しも日本海側から接近中の台風の影響で、だんだんと風が強くなってきていた。ステージのセットも一部が吹き飛んだり折れ曲がったりし始めている。初日に比べれば気温もだいぶ暖かく、風さえ凌げればいつまででも起きていたかったけれど…結局4時くらいにはテントに戻り(同じテントの仲間はみんなもう寝ていた)、鳴りやまない音に包まれながら寝た。

DAY 4:嵐とチルアウト

最後の朝。気持ちよくも不穏な重低音とともに、3時間足らずの睡眠にも関わらず、不思議としゃきっと7時に目が覚めた。とにかくゴウゴウとテントを揺らす風の音がすごい。予報を見る限り、ここから昼にかけてさらに風が強まっていくようだった。

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これはruralのあいだ大活躍したワークマンプラスの耐久撥水ウォームジャケットとライトパンツ。さすがにインナーを着こまないと夜はこれだけでは寒さはしのげなかったけど、ちょっとした小雨や吹きすさぶ風への対策としては十分。

今日はまた300kmの道のりを車で帰らないといけないので(しかも祝日で連休の最終日)、18時まで続くイベントには適当なところで見切りをつけることになる。3泊4日も長いと思ったけどこうなると一瞬で、名残惜しいね。

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9時、再スタートしたフォレスト・ステージ最終日トップを飾るのは大本命のDJ NOBUさん。ビートレスの導入から3時間かけてフロアを組み立てていくテクノの職人芸。

至福の時間だ。風はどんどん強くなり、ステージの幕やバーエリアのテントも吹き飛ばされかかっているような状況のなか、すっかり乾いた芝生に横になって、人種も性別も出身もバラバラな人たちが、めいめい好きなように過ごしている。テクノは本来このように、どこまでも自由でインディヴィジュアルな音楽だと思うし、こういうところが好き。同行した仲間たちとも、現地ではほとんど別行動で、ひとりで自由なペースで楽しんでいました。

正午近く、NOBUさんのセットの終わりが近づくにつれて、また踊っている人たちも多くなる。まだまだ終わってほしくないって雰囲気。

ところで野外でテクノって、実はruralが初めてのわたしにとっても別段新しい概念ではなくて、むしろ原体験に近いことなのです。初めて生でDJを見たのは1998年、代々木公園で開催されたレイヴ(rave)パーティーだった。ダンスミュージックで自由に踊るっていうこともそこで覚えたし、後に規制が強化されるまでの数年間は、代々木公園を始めとするの野外フリーパーティーにいくつも行った。

それだけに、ruralは自分のなかの価値観が全部ひっくり返ってしまうというような類の体験ではなく、行ったら絶対楽しいだろうな…みたいなことが、本当にその通り楽しかったという感じです。それは、情報としてこれこれこういうイベントがある、ということを知っていることとは全然価値のレイヤーが異なる。わたしはここで4日間いい音楽に揺られて楽しい時間を過ごすために参加して、実際にその通り過ごした。

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もうひとつ、ruralの参加のハードルの高さは、そのまま一緒に参加できる音楽仲間がいるかどうかに繋がっている。いくら行ってみたくても、さすがに単独で参加するのは交通や装備の面でも無理がある(と思う)。わたしはそこそこ長いあいだテクノを聴いてきて、友達もできて、こうして連れ立って遠くに出かけたり、行った先で焚火を囲んだりみたいなことができるようになった。そういうことへの謙虚な感謝みたいなことも、この最終日になってじわじわと感じた。テクノが好きで良かったなあ。

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一向におさまらない暴風で次々にテントが崩壊していくなか、うちのグランピング設備のタープもびりびりに裂けてしまった。ほとんど避難民のようにしてテントを脱出し、荷物をまとめて13時過ぎには山を下りた。

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rural 2019、おおよそこういった体験でした。いつか行ってみたいという人だけでなく、こういう音楽やカルチャーがあることを知らなかった人にも届けばうれしいです。わたしも、チャンスがあればぜひまた参加したい。


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