辞めるのが下手

それは昔から自分のコンプレックスですらあった。精神的に貧乏性だから…というのもあるが(せっかく始めた以上モトを取るまでやりたい)、「辞めない」のと「辞める」のとを比べたら、圧倒的に前者の方がリスクがないからだ。一応その分、始めるときにもそれなりに慎重に考える。

だから、よりによって会社を辞めることになるとは思わなかった。いや、思わなくもないというか、もうずっと心の片隅に見えていた選択肢ではあったが、それを手に取ってボタンまで押したいま、妙な感慨すら湧いている。わたしにも辞めることができたのだ。

自分がやっている仕事はふわふわと宙を漂い、どこにも根を張らずに消えていくような感覚がずっとあった。「虚」という言葉がその感覚に近かったと思う。自分にできる限りの努力と時間は割いたが、それが生み出すものが、少なくとも自分に実感できたことはなかった。この先のキャリアプランを教えてください、という問いに、年々うまく答えられなくなっていった。

辞めようと思う、と会社の人に時々告げるようになった頃、寝てても生活費稼げる会社だってのに、とある人が冗談めかして言った。さすがに寝てたらだめなのだが、諸々の福利厚生なんかを考えると条件は良い会社だった。辞めるという選択肢を放棄しても、決して人生間違うことにはならないのは確かだった。

でも、それは会社を続けることを選ぶのとは違うんだなぁとそのときに思ってしまった。辞めることを選べば、いろんな困難が新たに生まれることはもちろんわかっていたのだけれど、やはりこの先ずっと言い訳だけして生きていくのは無理だろうなと。

というのが、今までいるところから飛び出すに至った一つの物語です。着地先をどこに定めたかについては、これと並行した物語がありますけど、まあそれはおいおい。

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