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[4]-4 EMST—National Museum of Contemporary Art|複数の作家(4)

5年に1度の国際芸術祭ドクメンタのアテネ会場を見てきました。いくつか作品を紹介します。メイン会場とされる6か所のうち、最も作品の数も質も高いと思われるEMST—National Museum of Contemporary Artを数回に分けて紹介してきましたが、これでひと段落。

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documenta 14
Athens

Venue Number [4]|EMST—National Museum of Contemporary Art
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Pavel Brăila
The Golden Snow of the Sochi Olympics (2014)

モルドバの作家。documenta11にも参加していたそうです。亜熱帯気候であるにも関わらず冬季五輪を開催したソチ。人工雪に頼った開催になったが、その人工雪を98の瓶に詰めて作品化しています。

オリンピックは、世界に向けての存在感を高めるというハッピーなイメージ以外の側面を抜きに発話することが不可能になってしまいました。アテネでこの作品を展示するということは、それこそlearn from athensということなんでしょう。

Étienne Baudet
“Paysage avec Diogène” after Nicolas Poussin (1701)

ニコラプッサンのLandscape with Diogenesの銅版画とその原板です。ルーブル美術館所蔵のものが今回こちらに展示されています。この作品についての碑文が床に。そこには、かの風景に描かれた「広い川」がEMSTの東側にかつて流れていた古代イリソス川であったかもしれないと書かれています。

Diogenes(ディオゲネス)は古代ギリシャの哲学者でソクラテスの孫弟子にあたるとされています。彼は史上初めてコスモポリタンという言葉を発したり、「プラトンの雄鶏」という故事成語のもととなる行動をとったり、犬のような生活を送ったり、肉体的・精神的な鍛錬を重んじたなどとされたり、逸話に事欠かない人のようです。

ディオゲネスは貨幣鋳造者としてポリス追放された経験を持ちます。それは彼が受けた神託の内容が「ポリティコン・ノミスマ(国の中で広く通用してるもの=諸制度・習慣=道徳・価値)を変えよ」というものであり、そして彼が国の中で広く通用しているものが貨幣=価値(の単位?)であると考えたことが原因です。彼が両替商の家に生まれたというのも重要でしょう。このEMST1階では、ディオゲネスにならってか、貨幣/銅貨/銅に関する展示がいくつか見られました。下記の3作家はそこからの抜粋です。

Sammy Baloji
Tales of the Copper Cross Garden: Episode I (2017)

Dan Peterman
Athens Ingot Project (Copper) (2017)

Chryssa
M’s (1969)

Bia Davou

彼女はアテネ出身の作家です。70年代の初めごろから科学技術に属するコード(言語や考え方など)を用いて、コミュニケーションの新しい形を模索する作品を発表し続けてきました。今回展示しているのは、おそらく76年ごろに発表した銅板に電子回路を描いた作品です。フィボナッチ数列とバイナリ言語の順にそって描かれているとか。

Beau Dick
Twenty masks from the series ”Undersea Kingdom” (2016–17)

彼は過去、自分が制作した仮面を自身のギャラリーの壁から外して生まれ育ったコミュニティに持っていき、(おそらく特定の儀式の中で)(仮面をつけて)踊り、最後に燃やしたことがあるそうです。この「破壊行為」は再生を意味しているため、Beau Dickは再度仮面をつくる責任を負うていると。彼はこの仮面の行為を通じて、現代美術の限られた領域とその外側をつなぐ重要な役割を持つ魂の存在だと言います。

EMST1階の展示室は扉を開けて中に入ります。入った途端、目に入るBeauの仮面たちは圧巻です。というか怖いです。限られた配色、特定の文化/宗教を想像させるモチーフの数々。私は最初、実際に存在する特定の儀式における仮面を持ってきたインスタレーションなのか、と思っていました。コンセプト文を読んで作家が作ったものだと知りましたが、同時にこれは現代美術の領域とそれ以外、どちらにも魂を持っている作品だなという理解を強くしました。

http://www.edmontonjournal.com/SEEN+Saying+goodbye+Beau+Dick/13331987/story.html

この記事を見つけました。彼は今回展示している作品を作って亡くなられたそうです。カナダでの彼の抗議パフォーマンス(破壊した銅貨を用いていた)の写真は検索すればいくつか見つかります。カナダといえば政治的に良好なイメージがありました。しかし彼は権力に対して行動を起こしています。そういえば日本について、海外から持たれる良いイメージと実際に生活しているうえで感じる様々な「問題」との間にはギャップを感じることがあります。

彼の作品としての仮面のように、限られた領域と外を行き来する魂は、できれば身に着けておきたいものです。

Stephen Antonakos
White Cube with Blue and Red Neon (1982)

こうちょくちょくサイト上にテキストの無い作家がいるんですが、たいていギリシャ出身の作家(特に既に亡くなられた)さんなんですよね。

Vlassis Caniaris
Aspects of Racism II (1970)

1階の、入口の右側奥、とてもひっそりとしたスペースに彼の作品は展示されています。1969年の軍事政権時、その展示の政治的メッセージからアテネを出ざるを得なくなったVlassis Caniarisの作品についてもまた満足に紹介されていません。

最後に

これは誰の作品だったんだろう…


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