ビールのおいしさを知ってしまった日

「ビール、おいしい」と感じたその日の、その瞬間のことは覚えていないけれど、これだけは言える。ビールのおいしさを知ったのは、社会人1年目のときだ。

大学生のわたしはカシスオレンジやカシスソーダなど、甘いお酒しか飲んだことがなかった。慣れないワインをしこたま飲んで、福岡は天神の、今泉のおしゃれなカフェバーの店内で派手に吐いたこともある。当時の彼氏が介抱してくれた(ひどいエピソード!)。

お酒にそこまで強くない、しかしお酒を飲むのは好きだった。それでもビールなんて苦くて飲めなかった。

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ビールのおいしさを知ったのは、仕事の苦さを知ってしまった頃だったように思う。

まさに5月頃、ふと仕事中に「23歳の今から、60歳70歳くらいまで、私は1日約8時間、毎日のように仕事をするんだ」とふと頭をよぎった。それからその日は1日中心臓がばくばく言っていた。

母親に朝起こしてもらったりお弁当を作ってもらったり、父親にバイト先に迎えに来てもらったり、友人と授業を抜けて天神で買い物をしたり、バイトをサボって海にドライブに行って夜の浜辺に寝転がって星を眺めたり、そんな生ぬるい大学生活は終わったのだ。

自分の生計を自分で立てていること、そのために仕事をし続けるであろう自分の人生、終わりのない道を歩いていることになぜか緊張感がわき、「仕事は、終わらない戦いだ」と、変なヒヤリとした感覚があった。

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新卒で入社した東証一部上場企業は、大きくて有名な企業で、ガイアの夜明けなどの有名なビジネス番組にも何度も出ている。入社した頃も、した後も、よく受かったねと言われることは多かった。嬉しかったけれど、仕事は大変だった。

上司にも毎日叱られ、毎日のように泣いた。泣きたかったわけではない。仕事場で泣くなんて自分でもどうかと思うけれど、目から出てくる水分を止めることができなかった。そのうち泣きすぎて「泣けば済むと思ってんのか!」とも何度も言われた。

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毎日泣いていれば水分不足にもなる。私を潤したのは吉祥寺の居酒屋で飲むビールや、仕事帰りのコンビニで買うビールだった。

コンビニでビールを買い、歩きながら、同期と電話をしながら飲み、その日仕事場で起きたことを同期に話していたらまた泣けてくる。そんなことを繰り返した。

なぜ叱られたのか、何がいけなかったのか、次はどうするのか?具体的に振り返って、次の行動の計画を立てなければ人の行動は変わらない。しかし当時のわたしは、涙と愚痴を垂れ流す情けない社会人だった。未熟さを思い返すと「ほんとうに、ただただ恥ずかしい若造だったなあ」と思う。

叱ってくれた上司への感謝と同時に思い出すのは、涙の味と、ビールの味。ほろ苦さがおいしかった。社会をつくるおとなたちの1人になってしまったのかもしれない、と思った。

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福岡から上京したばかりだった社会人1年目のわたしは、東京で戦っていた。もう10年目になる今でも仕事の忙しさには慣れないし、当時と変わらず東京で働いている。
けれど、今は戦ってはいない。楽しく働いている。

気負わなくてよくなった、できないことはできるようになった、なかった余裕も少しづつ出てきた。できないこともまだたくさんあるけれど、いつ飲んでも、ビールは10年前と変わることなくおいしいままだ。

#社会人1年目の私へ #ビール #社会人 #働く #就活 #就職 #仕事



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えり

横浜在住の愛犬家です。スタートアップ企業でWebディレクション・編集執筆・広報・グロースハックの仕事をしつつ、いくつかの業務委託のお仕事も受けています。福岡出身。
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